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「あかり」打上げと初期運用

ASTRO-Fは、2006年2月22日6時28分、内之浦からM-V型ロケット8号機で打ち上げられた。1段目点火の瞬間、アンテナ設備の中に設けられた衛星管制室でも、夜明け前の窓の外が一瞬明るくなって轟音が響いた。その後、アナウンスや計算機の表示が、ロケットの順調な飛行を伝えていく。内之浦の視界からロケットが消えていってから数分後、JAXA統合追跡ネットワークのオーストラリア・パース受信局が衛星からの電波をとらえた。「衛星分離確認!」の声、そして通話装置の向こうからロケットチームの拍手が聞こえてくる。ここからが本番の衛星チームも、とにかく互いに笑顔で握手。ほぼ予定通りの軌道に乗ったASTRO-Fには、「あかり」という新しい名前が付いた。

実はこのとき、姿勢制御装置の担当者は、ちょっと首をひねっていた。太陽の方向から衛星の姿勢を知るための太陽センサーが、正しい姿勢情報を出せないという、理解しにくい状況に陥っていたのである。しかし、ここからが経験豊かな姿勢担当者たちの本領発揮。地上からの指令で太陽電池パネルを太陽方向に向け、太陽センサーに頼らずに電力を確保した。その後、姿勢の変更をガスジェットから微調整の効くリアクションホイールに切り替えたり、星を観測して姿勢を知るスタートラッカーを立ち上げたりと、打上げから数日で、基本的な姿勢制御が確立されていった。この期間中は、統合追跡ネットワークの海外の受信局も大活躍だった。衛星が日本上空にいないときでも、次々とデータが送られてきて、地上からの指令も送信できる、その威力を実感した。

さて、ここまで来ると、次は軌道変更である。M-Vロケットが運んでくれた楕円軌道から、ガスジェットを使って観測のための円軌道に移る必要がある。この操作も、数日をかけて順調に進んだ。「あかり」が搭載している天体望遠鏡や赤外線観測装置は、液体ヘリウムと冷凍機によって-270℃近くまで冷却される特殊なものだが、この冷却システムと観測装置も順調に動作しているのが確認できた。

望遠鏡は冷却容器の中に納められていて、観測を開始するためには容器のふたを開ける必要がある。ふた開けは当初3月に行う予定だったが、姿勢に何か異常が起きたときに対する備えを太陽センサーが使えない状況でも確実なものにするため、4月に延期することにした。ふたを開けて、姿勢制御系と赤外線観測装置の最終調整を終えれば、いよいよ観測である。

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