第9章 M-Vの衛星たち

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打上げから2ヶ月を経過

「すざく」は当初、近地点約250km、遠地点約560kmの楕円軌道に投入されたが、その後、衛星搭載二次推進系により近地点高度を徐々に上げ、7月21日には高度約570kmの円軌道が達成された。その間、太陽電池パドルの展開、X線望遠鏡光学ベンチの伸展も無事行われた。そして、衛星の姿勢制御系の立ち上げ・調整や、観測各装置の立ち上げが順次進められた。

「すざく」には、X線反射望遠鏡(XRT)が5台搭載され、それらのうち4台の焦点面にはX線CCDカメラ(XIS)が、1台の焦点面にはX線マイクロカロリメータ(XRS)が置かれている。XRSは、X線入射に伴う素子の微弱な温度上昇により入射X線のエネルギーを精度よく測定するため新しく開発された装置で、画期的に優れたX線分光能力を持つ。これらの観測装置は、およそ0.3keVから10keVのエネルギー領域のX線を観測する。また、これらと同時に、各X線源からの硬X線(およそ10keVから700keVのエネルギー領域)をこれまでにない感度で観測する、硬X線検出器(HXD)が搭載されている。

XRS装置は、絶対温度60ミリ度(摂氏マイナス273.09度)で動作させる検出器を断熱消磁型冷凍機で冷却し、その外側を絶対温度約1.3度の液体ヘリウムのタンクが取り巻き、そのさらに外側を絶対温度約17度の固体ネオンが取り巻く構造になっている。打上げ以来、冷却装置の立ち上げは順調に行われ、7月27日には、検出器を絶対温度60ミリ度に冷却することに成功した。これは、宇宙空間で人工的に作り出した世界で最も低い温度であった。そしてその後、XRS装置に装着されたX線源により、XRSが予期した通りのX線分光性能を示していることが確認された。しかし、X線天体を観測するための準備に取り掛かっていた8月8日、XRSのヘリウムタンクの温度が上昇し、液体ヘリウムが一気に気化してすべて失われる事態が生じた。この時点で、残念ながらXRSによる観測は不可能となった。

「すざく」は、XRSの観測能力を失ったが、その後、8月12日から13日にかけての運用で、二つ目の観測機器である4台のX線CCDカメラ(XIS)のX線入射部のカバーを開いた。その結果、小マゼラン星雲にある超新星残骸(星の爆発のあと)の観測に成功した。この観測の結果には、これまで見えにくかった酸素の出す特定の波長のX線がはっきり示されており、XISが世界最高の性能を持っていることが示された。

「すざく」は、さらに、三つ目の観測機器である硬X線検出器(HXD)の立ち上げを行い、8月19日には、距離1,500万光年にある楕円銀河「ケンタウルス座A」から信号を検出することに成功した。ケンタウルス座Aの中心には、太陽の数千万倍の質量を持つ巨大ブラックホールが潜んでいると考えられ、そこにブラックホール周辺のガスが吸い込まれる際に、光、X線、ガンマ線などが強く放射されると考えられている。HXDは、それらの硬X線やガンマ線を精度よく検知しており、この領域での感度が世界最高レベルであることを示した。

XIS、HXDが予定通りの性能を示したことにより、「すざく」は、低エネルギー域を受け持つシステム(XRT+XIS)と、高エネルギー域を受け持つHXDという2組の装置を擁し、非常に広いエネルギー範囲で観測を行える世界で唯一の高エネルギー天文衛星として姿を整えた。その後全世界の研究者の利用により、大きな科学的成果を挙げていった。

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