第9章 M-Vの衛星たち

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ヨーロッパの友人から暖かい申し出

失意の宇宙科学研究所にヨーロッパから嬉しいニュースが届いた。

2月10日の打上げ失敗について、内外からは、厳しい叱責とともに励ましや憂慮のメッセージが多数届いた。それらのメッセージには「これまで世界をリードしてきた日本のX線天文学伝統を絶やしてはならない」「日本の子どもたちから宇宙への夢を取り上げてはならない」など有り難い言葉も満ち満ちていた。

NASA(アメリカ航空宇宙局)のゴールディン長官からも「アメリカと日本の宇宙科学者の友情が絶えることのないように」という趣旨の手紙が所長の松尾弘毅に届いた。その中にあって、2月16日にヨーロッパから届いた一通の手紙は心に染みた。古くからの友人であるヨーロッパ宇宙機関(ESA)の科学計画局長ロジェ・ボネ博士から宇宙科学研究所長にあてた手紙には、今度の打上げ失敗を心から残念がる文面につづいて、前年の12月に打ち上げられたヨーロッパのX線天文衛星「XMM-ニュートン」の観測時間の一部を日本の科学者に優先的に使ってもらいたいとの暖かい申し出がなされていたのである。

「XMM-ニュートン」衛星には、当面の観測計画のために約150日が割り当てられているが、その2%(つまり3日)を日本の科学者にさしあげたいと申し出てくれているのである。宇宙科学研究所では、今回の打上げ失敗原因究明を急ぐとともに、その痛手から一日も早く立ち直るべく新たなX線天文衛星を検討するなど鋭意努力を開始した。このボネ博士の有り難い申し出に心から感謝するとともに、この「XMM-ニュートン」衛星の貴重な観測時間を使って、最大限の成果をあげるべく、この申し出を受け入れる方向で検討に入った。

このボネ博士の提案は、日本の宇宙科学が世界から高い評価を受けていることを証明するものであり、日本の宇宙科学者がどのようなテーマを選択するか、内外の注目が集まった。「苦しい時の友情は身に染みる」との言葉がある。このような感動的な眼差しに見守られながら、宇宙科学研究所は事故原因の徹底的追求へ、X線天文衛星の再起へ、フル稼働を開始した。 

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