• 前のページに戻る

衛星の準備(8)不具合を克服し、SOLAR-B夏期打上げへ

2007年正月、太陽観測衛星SOLAR-Bの総合試験は大詰めの段階を迎えた。前年秋に動作不良を起こしたミッションデータプロセッサの改修も無事終わり、3月後半には、いよいよ総合試験の最後の山場=熱真空試験に突入した。SOLAR-B衛星の三つの搭載機器はいずれもコンタミ(ほこりや化学物質による汚染)を極度に嫌う望遠鏡であるため、クリーンルーム内でも普段はコンタミ防止のカバーをかけている。このカバーを付けたままでは、熱真空試験にならない。チェンバーの1階の衛星搬入部と2階のマンドア(作業員出入り口)の周辺に特製のクリーンブースを設け、人と物が出入りする際にコンタミ粒子が混入しないように気を配った。

さて、チェンバー内に衛星を入れ、蓋を閉める前に熱真空試験前の動作確認である。衛星をオンにしてしばらくすると、あっ、バッテリ部の温度が上限近くまで上がっている。衛星がチェンバー容量ぎりぎりの大きさであるため、衛星から出た熱がうまく逃げてくれないのである。そんなこともあろうかとかねて用意の送風機を取り出したまではよかったが、コンタミ粒子をまき散らさないようにセットするのに一苦労。何とかここを切り抜け、事前動作確認を終了させることができた。

いよいよ真空引き、これからが熱真空試験本番である。まずは高温条件下での熱平衡試験。ほぼ予期していた温度分布が実現している。引き続き全機器の動作確認。幸い、OKが出た。その後、日照・日陰を模擬した熱サイクル試験を進めたところ、微妙な異常が発生した。日陰に同期して、チェンバー真空度がわずかながら劣化、同時にチェンバー内のヘリウム検出器がヘリウム分圧の増大を検出していた。この状態では、先に進めない。いったん試験の進行を止め、原因究明=トラブルシューティングに入った。何せ相手はチェンバーの中、何が起こっているかを理解するまでは先に進めない。

限られた情報を精査し、ヘリウムの漏洩個所が推進系のバルブ周辺であることを突き止めるまでに丸3日間かかったが、漏洩が起こる条件も分かり、漏洩を避けつつ熱真空試験を最後まで完遂することができたのは、今から思うと不幸中の幸いであった。

熱真空試験後、ゴールデンウィークをすべてつぶしてのトラブルシューティングで、漏洩がバルブ本体からであること、原因はバルブ内にコンタミ粒子が混入したためであること、バルブを洗浄すると漏洩が止まることが分かった。打上げ時期を遅らせることになるかもしれないという悲観的な気分になることがなかったわけではないが、関係者の連休を返上しての必死の取り組みで危機を克服できたのはうれしい限りである。

なお、原因究明作業の途中では、結果的にはぬれぎぬであったわけだが、あらぬ疑いをかけられた機器もある。ところが、これらの機器の担当者も嫌な顔ひとつせず、原因究明に協力したのである。

カテゴリーメニュー