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「のぞみ」最後の闘い

2003年12月。この時点でのオペレーションは2段階の展開になる。まず、12月9日までに通信系・熱制御系機能が復旧した場合は、火星周回軌道投入に必要な作業を予定通りに行う。その順序は、「探査機の姿勢決定→姿勢変更→探査機の軌道決定→軌道変更→火星周回軌道投入」というものである。第二は、12月9日までに復旧しなかった場合で、このときは、火星に最も近づく点(近火点)の高度をさらに遠ざけるため、軌道変更を行うことになる。

12月初めの軌道に沿って進むと、火星への最接近時刻は12月14日3時19分(日本標準時)で、火星表面から894kmのところを通過する。そのまま何もしなければ、「のぞみ」は近火点を通過後、火星中心の双曲線軌道をたどって、やがて火星の重力圏を脱出し、太陽中心の軌道に入る。そしてそのまま半永久的に太陽中心軌道の旅を続けることになる。

最接近が12月14日なのに、なぜ12月9日までに復旧していなければならないかというと、上記の一連の火星軌道投入のための準備作業があるからである。「のぞみ」は姿勢や軌道の変更のために使う二種類のスラスターを備えている。一つは小さな推力で機動的に姿勢・軌道制御を行うもの。もう一つは大きい推力で、火星に接近したときにブレーキをかけるために使えるものである。前者は生きているが、後者の推進剤が(ヒーターが使えないために)凍っているのである。そのヒーターに電力を供給しているシステム・ラインは、また「のぞみ」のデータを地上局に送りやすくするための電波の変調も受け持っているので、ここが2002年4月の太陽フレアで粒子の直撃を受けたことは、「のぞみ」にとって大変な損害になった。

「のぞみ」グループが不眠不休で取り組んでいるオペレーションが効を奏して12月2日までに復旧すれば、予定通りの火星周回軌道に投入できるので、観測も予定通りに実行できる。もし12月2日までに復旧できない場合は、復旧が遅くなればなるほど火星周回軌道が予定から少しずつ外れてくるので、科学観測のスケジュールなどの再調整が必要になってくる。

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