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名取の涙──緊張の中、大型アンテナの展開成功

衛星システム、アンテナ、姿勢系、熱系、電源などの担当者たちからなる運用チームが、2月23日、一斉に内之浦に移動した。作業の確実を期して、内之浦で運用するためである。24日深夜、まず副反射鏡の支持柱の伸展を行った。難しい機構だったが、鮮やかに伸展した。次いで、27日午前3時、主反射鏡の展開を開始。マストの伸展長の大部分を一気に伸ばす、という山場を迎えた。慎重に作業を進め、息を呑むような十数分を経て、マストは止まることなく延び、主鏡面は、絡むことなく開いた。開始からおよそ3時間が経ち、可視時間の制約のために、仕上げの作業は翌日のパスに残すことにした。既に難関は越えており、KSCに集っていた面々は、ここで成功を喜び合った。翌28日には6時から残りの作業を開始、6時20分には展開を完了した。

展開実験の陣頭指揮をした名取通弘は、アンテナ展開の状況を次のように記述している。

──姿勢に乱れが生じたとしても基本的には展開を優先することを前提に、慎重な展開手順が事前に検討されました。ノミナルケース以外のさまざまな状況への対応が、不測の事態への対応も含めて、フローチャートの形で図表化され、手順書に反映されました。(中略)オフノミナルの場合については、想定し得るケースについて多数の詳細な検討を行い、手順が確立されました。──(名取)

このように万全を期して臨んだ展開実験は、緊張の連続だったが、成功裏に終了した。この展開で、最大の難関を越えたとき、その様子を見守っていた名取が涙ぐんでいたのが強くチームの印象に残っている。長い間の努力と苦労を関係者と重ねてきた末の成功だけに、その思いがこみあげてきたことは想像に難くない。

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