• 前のページに戻る

目を開いた「あかり」

「あかり」は、2006年4月13日に望遠鏡の蓋を開けて試験観測を開始した。「あかり」の望遠鏡は、望遠鏡自身が赤外線を放射して観測の邪魔をするのを避けるため、液体ヘリウムを搭載して-270℃近くまで冷却されている。この冷却のため、望遠鏡は魔法瓶のように真空断熱された容器に納められている。従って観測を開始するためには、容器の蓋を開ける必要があった。

内之浦宇宙空間観測所のアンテナで「あかり」からの信号を見守る中、あらかじめ送っておいた指令通りに「あかり」は姿勢を変え、4月13日16時55分に蓋が分離された。分離信号や姿勢制御系の信号が蓋が開いたことを示し、また赤外線観測装置の信号でも正常な分離が確認できた。蓋の内側は-200℃程度に冷えているが、それでも感度の高い天体観測装置にとっては非常に強い赤外線を放射している。「あかり」の遠赤外線サーベイ装置は、この蓋からの赤外線で信号が飽和していたが、蓋が開くと信号レベルが大きく下がった。望遠鏡と赤外線観測装置が、初めて暗い宇宙を見た瞬間だった。

望遠鏡の焦点調整(ピント合わせ)も終了し、「あかり」の観測機器は宇宙からの赤外線をとらえ始めた。まずは試験的に取得した天体のデータを使って、望遠鏡や観測機器、あるいは姿勢制御装置の動作を調整する作業が続いた。5月に入ってこの作業もほぼ終了し、望遠鏡や観測機器は期待通りの性能を発揮し始めた。そして5月8日からは本格的な観測を始まった。

極低温冷却のために搭載されている液体ヘリウムは、少しずつ蒸発して減っていく。現在の予想では、液体ヘリウムがすべてなくなるのは蓋開けから約1年後である。半年間で全天を1回観測することができるので、全天を2回観測するだけの期間が確保できていることになる。これからの1年間、「あかり」は休む暇なく観測を続ける。液体ヘリウムがなくなった後は、冷凍機だけによる冷却で、一部の観測が継続される。

これまで全天の赤外線地図は、1983年にアメリカとオランダ、イギリスの共同で打ち上げられたIRAS衛星によって作られたものが使われてきた。「あかり」のデータは、IRAS衛星の画像よりも数倍~数十倍高い感度や解像度を持っている。「あかり」は、この高い性能で宇宙の地図を劇的に作り直しつつある。その結果は全世界の天文研究者に公開される。「あかり」による新しいデータを使って、銀河がどのように作られて現在の姿になったのか、星、惑星系がどのような場所でどのように作られたのか、などが明らかにできると、プロジェクトのメンバーも張り切る毎日である。

カテゴリーメニュー