第9章 M-Vの衛星たち

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「あかり」が開く宇宙

私たちの銀河系は渦を巻く円盤のような形をしている。銀河系の中には、可視光線で光っている星の他にも、-200℃以下にもなる冷たいガスや塵がたくさん含まれている。ガスや塵の分布にはむらがあって、濃くなったところには重力でますます集中し、やがてその中心に星が生まれる。

赤外線は、可視光では見えない冷たい物質からも放たれている。赤外線で空を観測する事で、目には見えないガスや塵の雲が、銀河系の中でどのように分布しているかが分かる。星が盛んに生まれている場所では、星の光が周囲の塵を暖め、より強い赤外線を放つようになる。赤外線で宇宙を観測する事で、活発に星が生まれているところを調べることができる。

赤外線天文衛星「あかり」の観測目的としては、(1)全天の赤外線観測による宇宙の赤外線地図作り、(2)銀河、星・惑星系の誕生と進化を追う観測、という二つが掲げられている。2006年2月22日打上げ後の初期チェックを経て、同年4月13日に望遠鏡の蓋を開き試験観測を開始、5月8日には本観測がスタートした。そして2007年11月には、第一回目の全天観測を終了した。

液体ヘリウムで望遠鏡を冷却しながらの観測(波長2~160μm)は、2007年9月まで継続され、液体ヘリウムをすべて消費した後は、冷凍機のみの冷却によって、近赤外線(波長2~5μm)の観測が継続されている。

(1)全天観測による宇宙の赤外線地図作り

この課題は6つの波長帯(9μm, 18μm, 65μm, 90μm, 140μm, 160μm)で連続的に天球を走査することにより実施された。赤外線天体検出の信頼性を上げるため、それぞれの天域について2回以上の観測が要求されているが、2007年11月現在、すでに2回以上観測した天域が、全天の90%を超えている。なお、月に隠されたりして2回の観測ができていないところについては、今後観測を実施することになる。

かくて、「あかり」が作成する赤外線宇宙地図は、1983年に米、蘭、英により打上げられた世界初の赤外線天文衛星IRASが作成したものを、24年ぶりに素晴らしい高解像度で書き換えたものである。

「あかり」による反射星雲IC4954の中間赤外線画像

「あかり」による反射星雲IC4954の中間赤外線画像

「あかり」による渦巻き銀河M81の近・中間赤外線画像

「あかり」による渦巻き銀河M81の近・中間赤外線画像

そのうち波長9μmによって得られた全天画像を右に示す。中心から帯状に左右に拡がる明るい部分は、銀河系の円盤部分をその中にいる地球から真横に見たものである。画面中心付近の明るくなっている部分が、我々の銀河系の中心の方向にあたる。この方向では、塵だけでなく、年老いた赤く・明るい星(赤色巨星)が密集していて、特に明るく見えている。

帯の中、あるいはそれから連なる部分には、盛んに星が生まれている領域がある。それらは、生まれたての星で暖められた塵が強い赤外線を放ち、明るく輝いて見える。なお、この画像では、太陽系内の塵からの赤外線放射の成分を大まかに取り除いてある。

「あかり」による波長9μmの全天画像

「あかり」による波長9μmの全天画像

このマップは、これまで使われてきたIRAS衛星による宇宙地図よりも数倍高く、約9秒の解像度を持っている。「あかり」はこの他に、波長18μm, 65μm, 90μm, 140μm, 160μmで全天観測を行っている。

この全天画像の上に、著名な天体や、赤外線で明るく輝く、活発に星が生まれている領域等を示したものが右図である。星図は株式会社アストロアーツのステラナビゲータを利用し、名古屋市科学館によって制作された。これらの図は、我々の銀河系の中のどの場所で、どれくらい活発に星が生まれつつあるかを一目瞭然に示してくれる。この図の元となった観測データを詳細に解析する事で、それぞれの星生成領域の物理的状況をより詳しく調べることができる。

「あかり」による波長9μmの全天画像の上に、星座と星形成が活発な暗黒星雲がある領域等を表示

「あかり」による波長9μmの全天画像の上に、星座と星形成が活発な暗黒星雲がある領域等を表示

画面右下に「大マゼラン銀河」と示されている天体がある。大マゼラン雲は、私たちの銀河系のすぐ隣にある小さい銀河で、銀河全体で活発な星生成活動が起きている。このことは、この銀河がやはり赤外線で明るく輝いていることからも分かる。この図には見えていないが、宇宙の中には非常に活発に星を作りつつある銀河がたくさんある。「あかり」はそのような銀河も拾い出して、宇宙の歴史を探る研究を行っている。

(2) 銀河、星・惑星系の誕生と進化を追う観測

これは、10分間程度望遠鏡を固定して詳細に天体を見つめる指向観測によって行われる。本格観測開始後の1年間で約3,500回の観測を実施し、次々と画期的な成果を発表している。

右側の図は、オリオン座を含む 30°×40°の領域の140μmでの赤外線画像(左側の図は可視光)。濃い水素ガス雲中の塵が、新しく生まれた星の光で暖められて強い赤外線を放っている。IRASの観測波長は100μmまでである。これほど広い領域を一望するイメージを作成できるのは、全天サーベイ観測を行った「あかり」ならではのことである。100μmを越える波長で、このような広い領域の詳細な観測を行うことは、今後もまずあり得ないであろう。

「あかり」による波長140μmで見たオリオン座(右)と冬の天の川(左:光学写真提供:国立天文台 福島英雄)

「あかり」による波長140μmで見たオリオン座(右)と冬の天の川
(左:光学写真提供:国立天文台 福島英雄)

画像の右半分がオリオン座、左側はいっかくじゅう座。銀河面は、画面左側を上下に走っている。画面全体が赤く光っているのは、銀河系内の星間空間に漂う冷たい塵が放つ赤外線を観測しているからである。

オリオン座の下側にひときわ明るく輝く天体はオリオン大星雲。ここでは、大量の星が生まれ続けており、それによって暖められた塵が強い赤外線を放っている。また、三つ星の左側の明るい天体は、馬頭星雲を含む領域で、可視光では暗黒星雲として見える冷たい塵の雲も、赤外線では輝いて見えることが分かる。左側中心付近に見える拡がった明るい星雲は「バラ星雲」で、ここでも新しい星が生まれつつある。それ以外にも、たくさんの星生領域が輝いて見える。オリオンの頭に当たるところを中心に大きく拡がった円上に見えるのは、かつてその中心部でたくさんの重たい星が作られ、それが次々に超新星爆発を起こして周囲のガスや塵を吹き飛ばして出来た「殻」である。

オリオン大星雲は太陽から約1,500光年の位置にあり、またバラ星雲までは約3,600光年である。

右は「はくちょう座X領域」と呼ばれる領域の「あかり」による赤外線イメージである。(7.6°×10.0°)の範囲を表示している。この領域は、銀河系の渦状腕の内、太陽系が属する「オリオン腕」を腕の伸びる方向に透かしてみており、太陽系から3,000~10,000光年程度の範囲にある天体が、見掛け上狭い範囲に集まって見えている。画像の左上から右下にかけて、銀河面が横切っており、はくちょう座X領域はその上に重なって見えている。

「あかり」によるはくちょう座X領域

「あかり」によるはくちょう座X領域

画像の中に見える数多くの明るく輝いている天体は、質量の大きい星が生まれている場所である。生まれたての星からの光が、周囲のガスを電離し、塵を暖めて赤外線で明るく輝かせている。このように質量の大きい星が誕生する場が密集してみえる領域は、全天でも多くはない。この画像をよく見ると、大きく空洞になったような暗い部分が見える。これは、成長した高温の星の集団が、強い光により周囲のガスと塵を吹き払ってしまったものである。

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