第9章 M-Vの衛星たち

カテゴリーメニュー

M-Vロケット4号機の飛翔

最初に打上げが予定された2月8日は、天候が悪く風も強く不安定で、延期となった。この日、あろうことか鹿児島には雪が激しく降った。2月9日、宮崎に置いたダウンレンジ局の不具合で再び延期。

2月10日。風なし、快晴。昨日より素晴らしい発射条件である。予定どおり10時30分に発射。新精測レーダが追跡したM-V-4号機の飛翔経路を見ると、ロケットは、初めのうちは予定された飛翔経路に沿って正常に飛行しているが、打上げ後60秒付近から飛翔経路が上向きにそれ始めている。

軌跡は、機体に作用した推力方向の結果を反映するから、このことは60秒以前に何らかの姿勢異常のあったことを示している。予定どおり75秒で第1段を分離、同時に第2段に点火した。以後の飛翔経路を見ると、2段目の制御は完璧だった。第1段の飛翔経路が高くなったため、ロケットの速度は予定より小さくなった。不足した速度を回復するために、第2段ロケットの姿勢を低くするよう、地上から指令が送られ、以後はこの指示通り計画経路より低い経路を飛翔している。

第3段の姿勢も、速度が基準軌道に近づくよう、地上からの指令により変更し、衛星軌道投入条件の達成を図った。321秒に第3段の燃焼が終了。この時点で電波誘導班のコンピュータの表示は「近地点高度80km」を示していた。常識的には、衛星は第1周回を待たず、太平洋上空で焼失する。宮崎局と勝浦局からロケットが見えるのは500秒あたりまでである。その後は1,000秒を過ぎてからクリスマス島の追跡局に頼る。予定ではそこで1418秒の衛星分離(第3段からの)を状況証拠として確認する手筈になっていた。しかしクリスマス島では1,162秒から1,212秒まで、ほんの少しの時間だけロケットからの電波を受信したものの、受信アンテナの上下角が低く、衛星分離を確認する前に受信できなくなっている。

飛翔直後のM-V-4号機

ASTRO-E衛星軌道投入失敗に沈むテレメーターセンター

ASTRO-E衛星軌道投入失敗に沈むテレメーターセンター

半地下の発射管制室にいた実験主任には、以下のような光景だったらしい。

──淡々と進むカウントダウン。点火。やや遅れていつもと同じように半地下の管制室を揺さぶる音と振動。管制室のテレビ画面もいつも通り正常に上昇中のM-Vを映している。異常を知らせる声はない。ふと画面に目を戻すと、この秒時に後方からは見えるはずのない機体らしきものが見える。いや、どう見ても機体だ。いや、何かの間違いだ。一瞬の間、混乱した思考が脳裏を巡る。同時に異常を知らせる声が上がる。大きな姿勢異常が起きていた。第1段分離後、正常に復した機体にコマンドを送り、軌道投入を試みる前田行雄君の「まだ行ける」との声もやがて、「ちょっと届かない」に変わった。──(小野田)

「溺れるものは藁をもつかむ」のたとえどおり、もしや近地点80kmという軌道でも、衛星が1周して内之浦まで回ってくるかもしれないと考えた。内之浦の34mアンテナは発射後90分から待ち受けた。が、最後の頼みの綱も空しくなった。そして13時35分から50分ごろまでもう1本の藁をつかむ努力がなされた。これも空しいものとなった。打上げは失敗したのである。

読みかけのページとして記録する

「読みかけのページとして記録する」について