第9章 M-Vの衛星たち

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気球・IRTS・ISO──赤外線観測事始

IRTS

以下は、ASTRO-Fに至るまでの赤外線観測について、奥田治之から寄せられた一文である。

──大気の吸収と放射の影響のないスペースは赤外線観測にとって理想的な観測条件を提供するが、赤外線観測の宿命である極低温冷却の壁を越えてこれを実現するのは容易ではない。とりわけ、衛星ともなると大きな打上げ能力を持ったロケットが必要になるため、比較的容易な気球観測から始めることにした。しかしながら、当時すでに赤外線衛星IRAS(米英蘭)の打上げが予定されていたため測光観測では勝負にならない。そこで、分光観測にねらいを定めて、星間空間の熱収支の鍵を握っていると考えられていた電離炭素の遠赤外スペクトル線(158μm)を使って銀河系内の強度分布を観測することにした。初期の頃のオーストラリア実験では失敗続きの苦い思い出ばかりが残っているが、その後の米国遠征での成功から弾みがつき再挑戦したオーストラリア実験にも成功し、南北両半球の天の川銀河の詳しい強度分布図作りに成功した。その頃、宇宙背景放射観測衛星COBE(NASA)が上がり、同じスペクトル線の観測が行われたが、我々の観測では空間分解能で30倍、分光分解能でも20倍というはるかに優れた観測結果を前にし大いに気をよくしたものであった。

宇宙での観測はSFUに搭載したIRTSで初めて実現した。しかしながら、共用のプラットフォームから来る様々な制約のため、口径は15cmが精一杯であった。それでも、拡散赤外線の分光観測を中心に据え、また、ヘリウム3冷凍機を使ったサブK温度ボロメターの初採用など新機軸を出すことに努めた。わが国初めての極低温冷却望遠鏡ということで、おのずから苦労や不安が多かったが、他の共同研究者や打上げ担当者にも色々ご迷惑をかけることになった。幸い、打上げ後は信じられないほど全てが順調に進み、約4週間にわたる観測は大成功に終わった。搭載された4種類の観測器からは様々な結果が得られているが、中でも、銀河面の広い領域にわたって有機物質の微粒子が存在していることがわかったことは大きな収穫であった。その他、観測中に、1万個を越える星の赤外線スペクトルがとれ、恒星スペクトルの貴重なデータベースを提供することになった。

大気球に搭載されたexplore-223

COBE宇宙背景放射観測衛星

気球にしろ、IRTSにしろ、ユニークな研究で高い評価を受けているとはいえ、研究内容が狭いことは否めない。これを補うためにESAのISO計画に参加して、原始銀河の探索や星間物質、終末期の星の研究に成果をあげているが、やはり、独自の衛星を打ち上げて赤外線天文学の中心舞台への進出を計りたい。幸い、M-Vを使った本格的な赤外線衛星計画(ASTRO-F)にも着手することが出来、2003年夏期の打上げを目指して夢が膨らんでいる。──(奥田)

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