第9章 M-Vの衛星たち

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打撃

しかしその後、衛星システム・グループが指摘していた唯一の心配である「不慮の事件」は起きた。それは1億5,000万kmの彼方からやってきた。2002年春、太陽面で信じられないような大フレアが発生したのである。それはまさに太陽観測史上で最大規模の大爆発の一つであった。膨大な量の粒子群の直撃を受けた「のぞみ」の電源の一つがやられた。その電源は、姿勢制御に使う燃料を温めるヒーターを司っており、しかも衛星の状態や観測結果を地上局にテレメータ・データとして送る際の(送りやすくするための)変調をも担当している。

今度はテレメータ・グループの壮絶な努力が展開された。ビーコン・モードだけの心細い通信路と「のぞみ」に賦与してあった自律化機能をフルに活用して、ちびりちびりと「のぞみ」の健康状態をチェックする気の遠くなるような作業が続けられた。そして2002年夏、「のぞみ」が地球に接近するにつれて、向井利典の言ったとおり、制御に使うヒドラジンの温度がじりじりと上昇しはじめた。なんという確かな予言だろう。

12月には念入りなチェックの末の速度修正を経て、地球から3万6,000kmの距離を通過させるスウィングバイに成功して絶妙のコントロールを見せた。いったん黄道面を離れて時間稼ぎをした「のぞみ」は、再び地球にじりじりと近づいてきた。6月19日にもう一度同じような状況での地球スウィングバイを予定し、そのための準備である軌道修正はすでに済ませた。あとはニュートンさんの力学が正しいことが証明されるだけである。したがってこれも成功することは疑いない。

しかし問題の電源はまだ修理が終わっていない。これに成功しなければ、火星接近の際、火星周回軌道に投入するための二液推進系のスラスターを噴かすことができない。もし予定の周回軌道に入ることができなければ、満を持した「のぞみ」の観測陣のいくつもの世界初の観測の大部分が露と消えるであろう。幾度も障害を乗り越えてきた波瀾万丈の「のぞみ」チームは、その遠隔修理に向け熱い議論を展開した。幾度も起死回生のヒットを放った「のぞみ」チームの力と執念に、世界の科学者たちの期待が集まった。

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