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「はやぶさ」のいちばん長い日

イトカワの地表のターゲットマーカーが見えた!

イトカワの地表のターゲットマーカーが見えた!

「はやぶさ」タッチダウンのライブ中継の裏方

「はやぶさ」タッチダウンのライブ中継の裏方

「はやぶさ」運用室の川口プロマネ

「はやぶさ」運用室の川口プロマネ

そして11月25日、サンプル採取をめざす「はやぶさ」が再度のタッチダウンに挑んだ。22時頃、1kmの高度あたりから降下を開始した「はやぶさ」は、翌朝6時頃、垂直降下に移行した。「ミューゼス海」と名づけられた地へ、太陽の光の圧力を背後から受けながら移動していく。

6時53分、高度35m。4.5cm/秒で降下中の「はやぶさ」は、レーザー高度計(LIDAR)の使用を停止。2分後に近距離レーザー高度計(LRF)使用を開始した。川口淳一郎プロマネを中心とする「はやぶさ」チームは、担当者がLRFによる測定値を読み上げる声に耳を澄ます。

LRFからは4本のビームが発射され、それぞれイトカワ表面からの距離を測る。「随分傾斜しているな」……誰ともなくつぶやく。7時00分、高度14m。ホバリング。イトカワ表面の地形にならうモードに移った。地上局と「はやぶさ」の会話は、テレメトリ送信からビーコン運用へ移行している。ここからはさまざまなデータの乗らない搬送波だけ、つまりドップラーデータのみが送られて来る。固唾を呑んでドップラーデータを見つめながら、LRFからの怒号を聞く「はやぶさ」首脳陣。

7時4分、LRFは、距離測定モードから、サンプラー制御モードへと変更された。ドップラーだけの頼りない状態から、やがてイトカワ表面から上昇した「はやぶさ」は、ゴールドストーン局とのハイゲイン(高利得)による太いリンクを回復した。スタッフの注意は、管制室の1台のモニターに集中する。LRFはサンプラーの形の変化を検出して、弾丸発射を含む一連のサンプリングの信号をコンピュータから発信させる。発信していれば、モニターに“WCT"、そうでなければ“TMT"と表示されるはずである。

息を呑む視線──7時35分、パラパラと表示が塗り替えられる画面の右下に“WCT"の緑の3文字がくっきりと浮き上がった。一瞬どよめく管制室。

しかし、これにはもう少し裏の事情があった。コンピュータから指令を発せられても、火工品を炸裂させるための点火玉に通電しないと弾丸は発射されない。その後回収できた断片的な機上記録から、発射コマンドは発行されたが、発射回路はコマンド直前に安全側に切り替わっていたと推測されるにいたった。残念ながら、弾丸が発射されたとは確認されなかったのである。弾丸が発射されていなければ、蹴り出されるレゴリスの速度が離陸速度を超えることは考えにくく、サンプルの採取は困難だったと考えられる。

「はやぶさ」のいちばん長い日が終わった。

第2回のタッチダウン後に「はやぶさ」は正常に離陸・上昇した。「はやぶさ」が上昇を止めた直後に、化学エンジンから燃料の漏洩が始まり、大きな姿勢異常が生じた12月9日以降、地上の管制センターとの交信が行えない状況に陥ってしまった。 この結果、復旧までにはかなりの時間を要すると判断し、地球に帰還させるスケジュールを3年間延期せざるを得ないと判断して、2010年6月に地球に帰還させる計画を採ることとした。12月13日以来、救出運用に切り替え、通信の復旧に向けて懸命の努力を続けたのである。

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