国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、2023年4月30日(日)午前6時02分(日本標準時)に、エマルションガンマ線望遠鏡による宇宙ガンマ線観測を目的として、2023年オーストラリア気球実験のB23-01号機を、オーストラリア連邦北部準州のアリススプリングス空港敷地内より放球しました。
この気球は重量760kgの観測機器を空気によるガンマ線の吸収が少ない高高度に打ち上げることができる満膨張体積300,000m3(直径89m)の大型気球です。

気球は、放球後2時間後に高度36kmで水平浮遊状態に入りました。26時間余の飛翔後、5月1日(月)午前8時17分に指令電波により切り離された気球及び搭載機器部は、クイーンズランド州ロングリーチの南約220kmに緩降下しました。

放球時の地上気象状況は、天候:晴れ、風速毎秒1m、気温:摂氏4度でした。

(参考)
JAXAでは日本国内での実施が困難な「長時間飛翔」、「陸上回収」、「南天観測」などをキーワードとする先進的な大型観測機器による宇宙科学研究を実現するために、オーストラリアでの気球実験を実施しています。

(実験の概要)
B23-01実験は、神戸大学、名古屋大学などが開発を進めているエマルション対生成望遠鏡(開口角±45°以上,口径面積約2.5 m2)で、10 MeV ~ 100 GeV領域のガンマ線を観測します。薄いエマルションフィルム1 枚だけでその両面の通過位置から角度測定ができるため、対生成直後の電子・陽電子について物質による多重散乱の擾乱を受ける前の角度を測定することができ、同じエネルギーのガンマ線に対してフェルミ望遠鏡に比べて投影角で約1/10、立体角で約1/100 の解像度での観測が可能となります。このエネルギー領域では未報告の偏光の観測も可能であるほか、大面積化も可能です。

エマルションフィルムのこれらの特徴を活かして、銀河中心をはじめ銀河面付近の密集領域に数多く見られる他波長域での観測との対応が未同定の天体、超新星残骸などの広がりを持った天体の空間構造の解明、偏光の観測など、現在の観測では未解決の課題の解決を目指しています。

放球直前の大気球B23-01号機

放球直前の大気球B23-01号機 (手前で吊られているのが観測機器) (クレジット:JAXA)

放球直後の大気球B23-01号機

放球直後の大気球B23-01号機 (クレジット:JAXA)