カッパ(K)-1型ロケット初飛翔、道川、1956年9月

JAXA宇宙科学研究所の歴史の一端は、1918年4月に設置された東京帝国大学航空研究所に遡ります。終戦後には1946年3月から東京大学理工学研究所としてその基礎部門を存続したのち、1958年4月に東京大学航空研究所として再開されました。

一方、東京大学生産技術研究所内に結成された航空電子工学・超音速航空工学(AVSA: Avionics and Supersonic Aerodynamics)研究班は1955年4月にペンシルロケットの発射実験を行い、日本の宇宙開発の端緒を開きました。1958年9月には、高度60kmに達するカッパ(K)-6型ロケットを開発して、上層大気の風や気温を観測し、国際的な地球観測プログラム(国際地球観測年:IGY)に参加しました。

1964年4月には、東京大学航空研究所と東京大学生産技術研究所の観測ロケット関係部門が母体となり「宇宙理学・宇宙工学及び航空の学理及びその応用の総合研究」を行う目的で東京大学宇宙航空研究所が設立され、1970年2月に固体燃料を用いたラムダ(L)-4Sロケットによって、日本初の人工衛星「おおすみ」を軌道に送りました。

以来、宇宙の謎を探る研究を行うために宇宙理学の分野の人たちと、その要求に応えつつ工学分野の研究を進める人たちとが一体となって仕事をする作風が築かれ、この研究所の大きな特徴となっていきます。

宇宙航空研究所は、理学の研究者の要求に基づいて固体燃料ロケットなどの研究・開発を進め、また理工一体となった科学衛星の研究・開発を行い、宇宙科学の研究に従事してきました。

1981年4月には、全国の大学の共同利用機関として文部省宇宙科学研究所が誕生しました。日本初の人工衛星「おおすみ」から小惑星探査機「はやぶさ」まで、宇宙科学研究所とその前身によって打ち上げられた科学衛星・探査機は27機に及び、宇宙科学研究所は世界をリードする宇宙科学の拠点となってきました。

2003年10月には、宇宙開発事業団、航空宇宙技術研究所と統合して、宇宙航空研究開発機構(JAXA:Japan Aerospace Exploration Agency)が発足し、宇宙科学研究所を母体として、宇宙科学研究の一元化をめざした宇宙科学研究本部へと、その成果を引き継ぎました。

2010年4月、JAXAにおける宇宙科学研究を更に推進するための取り組みの一環として、宇宙科学研究本部から、宇宙科学研究所(ISAS:Institute of Space and Astronautical Science)へと名称および組織の変更が行われて、現在に至っています。

詳しくは下記サイト・映像もご覧下さい。

宇宙科学研究所のあゆみ

西暦(和暦) 出来事
1918年
(大正7年4月)
東京帝国大学航空研究所の設置
1946年
(昭和21年3月)
東京大学理工学研究所として再出発
1955年
(昭和30年4月)
東京大学生産技術研究所、都下国分寺においてペンシルロケット水平試射
1955年
(昭和30年8月)
秋田県道川海岸に秋田ロケット実験場開設、ペンシルロケット打上げ、ベビーロケット打上げ
1956年
(昭和31年9月)
カッパ(K)-1型ロケット初飛翔
1957年~58年
(昭和32年7月~33年12月)
国際地球観測年(IGY)
1958年
(昭和33年4月)
東京大学理工学研究所が東京大学航空研究所として再開
1958年
(昭和33年9月)
2段式、K-6型ロケット、高度60kmに到達、IGY高層物理観測
1960年
(昭和35年7月)
K-8-1、高度190km到達、世界初のイオン密度測定
※K-8型は1970年まで16機飛翔
1961年
(昭和36年12月)
K-9L-2、高度300km以上の電子密度、温度の観測
1962年
(昭和37年2月)
鹿児島宇宙空間観測所の開設
1962年
(昭和37年5月)
K-8-10、ロケット事故(秋田ロケット実験場での最後の実験となる)
※秋田実験場での打上げ総数88機
1962年
(昭和37年8月)
K-8L-1打上げ
※K-8L型は1966年まで12機飛翔
1962年
(昭和37年10月)
能代ロケット実験場の開設
1962年
(昭和37年11月)
科学観測ロケットの主力機K-9M-1打上げ
※K-9M型は1988年まで81機飛翔
1963年
(昭和38年4月)
ミュー(M)ロケットの開発研究に着手
1964年
(昭和39年4月)
東京大学宇宙航空研究所の創設
1964年
(昭和39年7月)
ラムダ(L)-3-1打上げ、高度1,000kmに到達
1964年
(昭和39年7月)
太陽活動極小期国際観測年(IQSY)(1964年~65年)に関連して初の気象観測ロケットMT-135-1打上げ
※MT-135型は2000年まで73機飛翔
1965年
(昭和40年6月)
科学衛星計画シンポジウムで科学衛星計画発表
1965年
(昭和40年11月)
観測ロケットK-10-1打上げ、科学衛星計画のための技術試験機として開発され、科学観測にも活躍
※K-10型は1980年まで14機飛翔
1966年
(昭和41年3月)
L-3H-1打上げ
※L-3H型は1977年まで9機飛翔
1966年
(昭和41年7月)
茨城県大洋村の仮設実験場において大気球実験を開始
1966年
(昭和41年9月)
L-4S-1打上げ
※第2段分離の異常のため第3段が異常飛翔し、衛星にならなかった。
1966年
(昭和41年12月)
L-4S-2打上げ
※最終段が点火しなかったため、衛星にならなかった。
1967年
(昭和42年2月)
L-3H-3打上げ、高度2,150kmに到達
1967年
(昭和42年4月)
L-4S-3打上げ
※第3段が点火しなかったため、衛星にならなかった。
1967年~68年
(昭和42年~43年)
漁業者との交渉のためラムダロケット打上げ中断
1968年
(昭和43年7月)
福島県原ノ町に大気球実験場移転
1968年
(昭和43年9月)
S-160-1打上げ
※S-160型は1972年まで4機飛翔
1969年
(昭和44年1月)
S-300-1打上げ
※S-300型は1969年に3機飛翔
1969年
(昭和44年8月)
観測ロケットS-210-1打上げ、南極の気象観測用としても活躍
※S-210型は1982年まで13機飛翔
1969年
(昭和44年9月)
L-4S-4打上げ
※第3段に上段が追突し、衛星にならなかった。
1970年
(昭和45年2月)
L-4S-5、日本初の人工衛星「おおすみ」打上げ(ソ、米、仏についで4番目)
1970年
(昭和45年2月)
南極昭和基地において東京大学が開発した観測用ロケットによる観測を開始
1970年
(昭和45年9月)
ミュー(M)-4 S -1打上げ
※第4段目点火以降のシーケンスが作動せず、衛星を軌道に乗せられなかった。
1970年
(昭和45年11月)
三陸大気球観測所の開設
1971年
(昭和46年2月)
M-4S-2、「たんせい」打上げ
1971年
(昭和46年7月)
気象庁気象ロケット観測所(岩手県綾里町)において東京大学が開発した気象ロケットによる観測を開始
1971年
(昭和46年9月)
M-4S-3、第1号科学衛星「しんせい」打上げ、太陽電波、宇宙線などの観測
1972年
(昭和48年8月)
M-4S-4、「でんぱ」打上げ、電磁波励起実験などを実施
1974年~78年
(昭和49年~53年)
大気球を用いた、かに星雲の硬X線像測定
1974年
(昭和49年2月)
M-3C-1、「たんせい2号」打上げ、M-3Cは日本初の姿勢制御、電波誘導方式のロケット
1975年
(昭和50年1月)
観測ロケットS-310-1打上げ、南極での気象観測用としても活躍
1975年
(昭和50年2月)
M-3C-2、超高層大気観測衛星「たいよう」打上げ
1975年
(昭和50年10月)
文部省学術審議会「宇宙科学研究の推進について」答申
1976年
(昭和51年2月)
M-3C-3、X線天文衛星「CORSA」打上げ失敗
※制御系の故障によって、衛星を軌道に乗せられなかった。
1977年
(昭和52年2月)
M-3H-1、「たんせい3号」打上げ
スペースシャトル/スペースラブ1号によるSEPAC科学実験計画始まる
1977年
(昭和52年7月)
能代ロケット実験場において液水/液酸ロケット地上燃焼実験を開始
1978年
(昭和53年2月)
国際磁気圏観測計画(IMS)参加(1976年~79年)で、M-3H-2、「きょっこう」打上げ
1978年
(昭和53年9月)
国際磁気圏観測計画(IMS)参加(1976年~79年)で、M-3H-3、「じきけん」打上げ
1979年
(昭和54年2月)
M-3C-4、X線天文衛星「はくちょう」打上げ
1979年
(昭和54年4月)
宇宙科学技術資料解析センターの開設
1980年
(昭和55年1月)
観測ロケットS-520-1打上げ
1980年
(昭和55年2月)
M-3S-1、「たんせい4号」打上げ
1980年
(昭和55年4月)
東京大学に「宇宙科学のための中枢研究所」設立準備調査委員会を設置
1981年
(昭和56年2月)
太陽活動極大期観測(SMY)参加(1979年~81年)で、M-3S-2、「ひのとり」打上げ
1981年
(昭和56年4月)
文部省宇宙科学研究所の創設(国立学校設置法により大学共同利用機関として設置)
1983年
(昭和58年2月)
M-3S-3、X線天文衛星「てんま」打上げ
1983年
(昭和58年11月)
スペースシャトルによる「粒子ビームを用いた宇宙科学実験(SEPAC)」実施
1984年
(昭和59年2月)
国際中層大気観測計画(MAP)参加(1982~85年)で、M-3S-4、「おおぞら」打上げ
1984年
(昭和59年10月)
臼田宇宙空間観測所の開設
1985年
(昭和60年1月)
M-3SII-1、我が国初の惑星間試験探査機「さきがけ」打上げ
1985年
(昭和60年8月)
M-3SII-2、ハレー彗星探査機「すいせい」打上げ
1987年
(昭和62年2月)
M-3SII-3、X線天文衛星「ぎんが」打上げ
1987年
(昭和62年5月)
宇宙基地利用研究センターの開設
1989年
(平成元年2月)
M-3SII-4、オーロラ観測衛星「あけぼの」打上げ
1989年
(平成元年4月)
宇宙科学研究所、東京都から神奈川県相模原市に移転
1990年
(平成2年1月)
M-3SII-5、工学実験衛星「ひてん」打上げ、スウィングバイ技術の確立
1991年
(平成3年8月)
M-3SII-6、太陽観測衛星「ようこう」打上げ
1992年
(平成4年7月)
デルタIIロケットにて、磁気圏尾部観測衛星「GEOTAIL」打上げ
1993年
(平成5年1月)
南極周回気球で南極大陸1周半の飛翔に成功
1993年
(平成5年2月)
M-3SII-7、X線天文衛星「あすか」打上げ
1993年
(平成5年4月)
宇宙科学企画情報解析センターの開設
1995年
(平成7年1月)
M-3SII-8、「EXPRESS」打上げ
※2段目の不具合のため予定軌道に乗せられず、衛星は地球3周目で落下。10ヶ月後アフリカで発見され、再突入実験の参考試料となった。
1995年
(平成7年3月)
H-IIロケット3号機にて、宇宙実験・観測フリーフライヤ「SFU」打上げ
1995年
(平成7年4月)
次世代探査機研究センターの開設
1996年
(平成8年1月)
SFU、スペースシャトル「エンデバー」によって回収
1997年
(平成9年2月)
M-V-1、工学実験・電波天文衛星「はるか」打上げ
1998年
(平成10年1月)
2段式観測ロケットSS-520-1打上げ
1998年
(平成10年7月)
M-V-3、火星探査機「のぞみ」打上げ
1999年
(平成11年5月)
スーパープレッシャー気球飛翔実験
2000年
(平成12年2月)
M-V-4、X線天文衛星「ASTRO-E」打上げ失敗
※1段目の燃焼異常のため最終速度が足りず、衛星を軌道に乗せられなかった。
2001年
(平成13年1月)
中央省庁再編に伴い、文部科学省の所管となる
2002年
(平成14年2月)
H-IIAロケット2号機にて、高速再突入飛行実験機「DASH」打上げ
※「DASH」が取付け架台から分離しなかったため、予定軌道に乗せられなかった。
2002年
(平成14年5月)
超薄型高高度気球、到達高度53kmの世界最高高度記録達成
2003年
(平成15年5月)
M-V-5、工学実験・小惑星探査機「はやぶさ」打上げ
2003年
(平成15年10月)
宇宙3機関(宇宙科学研究所、航空宇宙技術研究所、宇宙開発事業団)が統合し、独立行政法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)発足、宇宙科学研究所 から JAXA宇宙科学研究本部 へと名称および組織変更
2003年
(平成15年12月)
火星探査機「のぞみ」火星軌道への投入断念
※制御エンジンの不具合のため、予定軌道に乗せられなかった。
2004年
(平成16年5月)
小惑星探査機「はやぶさ」地球スイングバイ
2005年
(平成17年7月)
M-V-6、X線天文衛星「すざく」打上げ
2005年
(平成17年8月)
ドニエプルロケットにて、小型科学衛星「れいめい」打上げ
2005年
(平成17年11月)
小惑星探査機「はやぶさ」イトカワへのタッチダウン成功
2006年
(平成18年2月)
M-V-8、赤外線天文衛星「あかり」打上げ
2006年
(平成18年9月)
M-V-7、太陽観測衛星「ひので」打上げ
2007年
(平成19年9月)
H-IIAロケット13号機にて、月周回衛星「かぐや」打上げ
2010年
(平成22年4月)
JAXA宇宙科学研究本部 から JAXA宇宙科学研究所 へと名称および組織変更
2010年
(平成22年5月)
H-IIAロケット17号機にて、金星探査機「あかつき」打上げ
2010年
(平成22年6月)
小惑星探査機「はやぶさ」地球帰還・カプセル回収
2013年
(平成25年9月)
イプシロンロケット1号機にて、惑星分光観測衛星「ひさき」打上げ
2014年
(平成26年12月)
H-IIAロケット26号機ロケットにて、小惑星探査機「はやぶさ2」打上げ
2015年
(平成27年4月)
独立行政法人制度の改革に伴い、国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)に移行
2015年
(平成27年4月)
磁気圏観測衛星「あけぼの」26年2ヶ月にわたる運用を終了
2015年
(平成27年12月)
金星探査機「あかつき」金星周回軌道投入成功
2016年
(平成28年2月)
H-IIAロケット30号機にて、X線天文衛星「ひとみ」打上げ
※同年3月に通信が途絶し、4月に運用を断念
2016年
(平成28年12月)
イプシロンロケット2号機にて、ジオスペース探査衛星「あらせ」打上げ
2018年
(平成30年2月)
SS-520 5号機による超小型衛星打上げ実証実験成功
2018年
(平成30年6月)
小惑星探査機「はやぶさ2」小惑星Ryuguに到着
2018年
(平成30年10月)
アリアン5型ロケットにて、水星磁気圏探査機「みお」打上げ
(国際水星探査計画 BepiColombo)
2019年
(平成31年2月)
小惑星探査機「はやぶさ2」小惑星Ryuguにタッチダウン成功
2019年
(令和元年7月)
小惑星探査機「はやぶさ2」小惑星Ryuguに2度目のタッチダウン成功
2020年
(令和2年10月)
国際水星探査計画 BepiColomboの金星スイングバイにあわせ、「あかつき」および「ひさき」との金星共同観測を実施
2020年
(令和2年12月)
小惑星探査機「はやぶさ2」カプセル地球帰還・カプセル回収
2023年
(令和5年9月)
H-IIAロケット47号機にて、X線分光撮像衛星(XRISM)及び小型月着陸実証機(SLIM)打上げ
2024年
(令和6年1月)
小型月着陸実証機(SLIM)ピンポイント着陸成功

以上