この宇宙はどのようにはじまり、そして、どのように現在の宇宙の姿が作られてきたのでしょうか?宇宙には、地球と同じような惑星がどれくらいあるのでしょうか?これらの疑問は、天文学のみならず、人類にとっての根本的な問いと言えます。
宇宙のはじめのわずかな密度のゆらぎから銀河が生まれてきたことが知られていますが、銀河のでき方やその分布構造は、宇宙がどんなふうに膨張してきたかによっています。そして、宇宙の膨張のありかたは宇宙に存在するエネルギーと物質によって決まります。宇宙の加速膨張を引き起こしたと言われる「ダークエネルギー」の存在は、現代の宇宙論の最も大きな謎ですが、その手がかりをえるためには、100億年にわたる宇宙の膨張速度を非常に精密に調べ、数億個の銀河やダークマターどのように分布しているのかを精密に測定して、ダークエネルギーの存在や性質によるわずかな違いを明らかにする必要があります。
我々の銀河系の1000億個を越える星々の多くには惑星系が存在すると考えられ、我々の太陽系もそのひとつです。現在までに数千個を越える太陽系外惑星が発見されていますが、その多くは、中心の星からせいぜい1天文単位(太陽-地球の距離)の比較的近い軌道を回るものに限られています。惑星はどのように誕生するのか?我々の太陽系はどのような存在なのか?これを知るためには、雪線(水や二酸化炭素などが氷になる距離)よりも外側の軌道を回る惑星も調べて、銀河系に存在する惑星の軌道や質量分布の全体像を明らかにする必要があります。
そして、その先には、いくつかの代表的な太陽系外惑星の姿を直接観測してその性質をより詳しく研究し、生命の兆候や可能性を調べることが重要になるでしょう。
ナンシー・グレイス・ローマン宇宙望遠鏡は2020年代半ばの打ち上げを目指してNASAが開発をすすめる計画です。宇宙の加速膨張とダークエネルギーの謎に挑むため、数億個の銀河や数千個の超新星の観測を行います。また、太陽系外惑星の全体像をもとめるためには、数億個の星の明るさの変動を測定する観測を行い、重力マイクロレンジングと呼ばれる手法で外側にある惑星を検出します。ハッブル宇宙望遠鏡と同じ主鏡口径2.4m の大型光学望遠鏡とハッブル近赤外線カメラの約200倍の視野を持つ広視野観測装置の組み合わせで行うことで、より広い天域でよりたくさんの天体を観測することができ、高い精度の測定が可能になります。これらの広視野近赤外観測は、宇宙論・系外惑星にとどまらず、様々な分野の天文学研究にも活用されます。
また、ローマン望遠鏡には、将来の地球型の系外惑星の研究の技術実証を行うためのコロナグラフ装置が搭載され、はじめて本格的な宇宙から太陽系外惑星の直接観測も実現されます。
JAXAをはじめとする日本の研究チームは、コロナグラフ装置光学素子の製作や、地上局、そして、地上望遠鏡との協調観測を通じて Roman計画への参加を行います。
(Image credit : GSFC/SVS)
開発中ナンシー・グレイス・ローマン宇宙望遠鏡
【海外計画参加】 宇宙のダークエネルギーやダークマターの謎に挑むとともに、太陽系外惑星を探し、またその姿を捉えることを目指すNASAの大型ミッション。日本もコロナグラフ装置光学素子の提供や大規模な観測データ受信、そして地上望遠鏡協調観測で協力する。