開発中土星衛星タイタン離着陸探査 Dragonfly

【海外計画参加】 NASAが実施する土星最大の衛星タイタンを探査する計画。日本は地震計の提供や科学研究で参加し、史上初めてとなるドローン型離着陸機を利用して大気中および表層物質の化学分析や気象観測・地中探査を多地点で行うことで、タイタンの現環境と進化過程を明らかにすることを目標とする。

長周期彗星探査計画 Comet Interceptor ナンシー・グレイス・ローマン宇宙望遠鏡

なぜ、タイタン?
タイタンは土星最大の衛星で探査が最も期待される天体の1つです。タイタンは内部に液体の水が存在するだけでなく、太陽系で唯一厚い大気を纏う衛星であることから、地球上の水循環とよく似たメタンによる雲、雨、そして表層を流れる流体が湖や海を形作るサイクルが現在も続いているとされています。タイタン表層に豊富に存在する複雑な有機物は地球外生命の存在に必要な条件を研究したり、生命が誕生する以前の地球上の化学進化を明らかにするために理想的な環境です。

ドラゴンフライとは?
ドラゴンフライは回転翼をもつ動力飛行が可能な着陸機で、NASAのニューフロンティアプログラム(NASAカテゴリーではミドルクラス)の4番目として2019年に採択されたミッションです。タイタンが厚い大気を持つ利点を生かして、地質学的に多様な地点を離着陸移動をしながら、表面物質を採取したり、化学分析をすることができます。この革新的なミッションコンセプトはタイタンの生命存在の可能性について多様な場所を調査しながら、生命前駆物質がどのように進化してきたかを明らかにするためのものですが、水性だけでなく、炭化水素性の生命が存在する(過去に存在した)化学的痕跡を探すこともできるかもしれません。


【施策の概要・目的】
ドローン型離着陸機を利用して大気中および表層物質の化学分析や気象観測・地中探査を多地点で行うことで、生命前駆物質の存否や太古の地球環境に似ているとされるタイタンの現環境と進化過程を明らかにします。
探査機システムは米国ジョンズホプキンス大学応用物理学研究所(JHU/APL)が担当します。
地球物理計測・気象観測を行う機器パッケージのうち、ISAS/JAXAは地下で発生する地震の活動度、表層と氷地殻の構造を調査するための地震計を開発して提供します。
搭載機器の開発には米国内の大学・研究機関の他、CNES(仏)、DLR(独)も参画します。

【期待される効果】
プロジェクト全体の成果・効果
Dragonflyは飛行性能をもつ離着陸可能な探査機と厚い大気を纏うタイタン特有の環境を生かして地質学的に異なる地域のサンプルを採取・分析することができます。
多種多様な場所に移動して生命が生息できる環境にあったのか、生命前駆物質がどのように進化したのか、を明らかにするとともに、生命体の存否も調査します。
太陽系内における生命活動の場とされる「内部海」を有する大型氷衛星の内部構造を調査することで、大気・表層・地下間の相互作用と物質循環の過程について知見が得られます。

日本の参加により得られる成果・効果
ISAS/JAXAは、長年にわたって月や惑星の内部構造を探査する最も重要な観測機器と位置付けて「地震計」を開発してきました。また、氷衛星やアストロバイオロジー分野で理論的研究だけでなく、室内実験的手法で成果を創出してきた国内研究者もたくさんいます。
これまでの技術開発と科学研究の成果を宇宙で実証することで日本がDragonflyミッションの意義価値を国際的に高める貴重な機会となります。
Image Credit: NASA/Johns Hopkins APL/Steve Gribben