国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、2023年7月26日(水)午前3時53分に、火星探査用飛行機の高高度飛行試験を目的として、2023年度気球実験のB23-05号機を、連携協力拠点である大樹航空宇宙実験場より放球しました。この気球は満膨張体積100,000 m3(直径約63m)の大型気球で、毎分およそ240mの速度で上昇しました。

気球は、放球2時間33分後に大樹航空宇宙実験場東方約40 kmの太平洋上において高度36 kmで水平浮遊状態に入りました。その後午前6時28分に指令電波を送信し、飛行試験機を切り離しました。気球及び搭載機器部は、飛行試験機の切り離し7分後に指令電波により切り離し、大樹航空宇宙実験場東方約40 kmの海上に緩降下し、午前7時14分までに回収船によって回収されました。なお、火星探査用飛行機の飛行試験は、今回取得したデータを詳しく解析し、今後の研究を進めていきます。

放球時の地上気象状況は、天候:晴れ、風速毎秒2 m、気温:摂氏23度でした。

※実験概要
高精度、広範囲な磁場観測や地質調査、崖の露頭の地層観測などにより火星の惑星科学を前進させるため火星探査用飛行機(火星飛行機)の研究開発を進めています。機体の空力設計が火星飛行機の重要な開発要素の1つですが、火星の飛行環境を模擬するためには風速または気圧を大きく下げる必要があり、風洞試験で精度良く空力データを取得することが難しく、また、層流/乱流の遷移レイノルズ数付近で飛行するため数値流体力学シミュレーションも難しい。よって、火星の飛行環境を模擬できる高度35km程度の地球大気内での飛行試験で機体の空力データを取得し、風洞試験やシミュレーションの検証データとして利用することが必要です。2016年に実施した火星飛行機の高高度飛行試験では引起しフェーズ中の機体姿勢が安定していない状態での空力データしか取得できず、また機体が弾性変形していた可能性も指摘されています。本実験では定常滑空状態での機体の空力データを取得することを目的とし、より自在な飛行探査を可能にする縦のフィードバック制御機構も低動圧、低レイノルズ数環境下で検証します。

※MABE: Mars Airplane Balloon Experiment (火星探査用飛行機の高高度飛行試験)

>放球装置にセットされた搭載機器とJAXA格納庫内でガス充てんされた大気球B23-05号機

放球装置にセットされた搭載機器とJAXA格納庫内でガス充てんされた大気球B23-05号機 (クレジット:JAXA)

放球直前の大気球B23-05号機

放球直前の大気球B23-05号機 (クレジット:JAXA)

放球された大気球 B23-05号機

放球された大気球 B23-05号機 (クレジット:JAXA)