ゴム気球で実験!気球用ペロブスカイト太陽電池
~期待の若手職員、金谷周朔氏受賞インタビュー~

2021年9月27日~30日に開催された国際シンポジウム、「11th SOLARIS 2021 (International Symposium on Solar Energy and Efficient Energy Usage*1)」において、JAXA宇宙科学研究所 福家英之准教授が主著者として発表した「Balloon flight test of thin-film-type perovskite solar cell」が、Best Paper Awardを受賞しました!
今回は、共著者であり研究の中心メンバーとしても活躍されたJAXA研究開発部門の金谷周朔氏にお話を伺いました。

今回はチームで受賞とのことですが、この開発チームはどんな研究をされているのですか?

SOLARIS Best Paper Awardを受賞した金谷周朔氏

この開発チームは、産(企業)・学(大学)・官(JAXA)が連携し、JAXA宇宙探査イノベーションハブ(探査ハブ)の研究テーマの1つである「高効率・低コスト・軽量薄膜ペロブスカイト太陽電池 デバイスの高耐久化開発」に取り組んできました。11th SOLARIS 2021では、極薄ペロブスカイト太陽電池の気球飛翔*2について報告しました。

ペロブスカイト太陽電池とは?

2009年に桐蔭横浜大学の宮坂力教授らによって開発された太陽電池です。太陽電池といえば、屋根の上に設置されたシリコン太陽電池*3を最初に思い浮かべるかもしれませんが、広く地上で普及しているシリコン太陽電池とは違い、ペロブスカイト太陽電池は有機物*3を含みます。長所は、フレキシビリティ(ぺらぺらに薄くできる)や、塗布技術により製造が容易なこと、素材が安価なことなどです。近年、エネルギー変換効率の最高記録がシリコン太陽電池に追いつきつつあります。

開発チームが目指す、ペロブスカイト太陽電池開発の目標は何ですか?

大気球での膜上発電を実現し、気球実験の高度化を目指しています。既存の大気球は風に逆らって飛ぶことができないので、実験実施には風向風速を考慮する必要があり、実施機会の制約ともなります。もし膜上での大規模発電が実現すれば、たとえば大電力を必要とする推進機器を搭載して風の影響を緩和するなど、気球実験の可能性を広げることができると考えています。

宇宙利用の可能性や課題はありますか?

宇宙利用に関しては開発チームの宮澤氏が中心となって開発を進めています。一般的に宇宙利用における太陽電池の最大の課題は耐放射線性ですが、ペロブスカイト太陽電池は放射線に対する耐久性が高いことをJAXAが明らかにしました。ただ、熱や紫外線に対する耐久性に関しては課題があります。宇宙利用へ向け、宇宙環境での実証実験も予定しています。

実験にはゴム気球を使われたとのことですが、大型気球*4ではなくゴム気球にした理由は?

放球直前の小型気球BS21-07号機(一番上の白い気球が飛翔用) ©JAXA

次世代太陽電池として注目され、世界中で開発が盛んなペロブスカイト太陽電池は、材料や性能が年々更新されます。高頻度で気球実証試験を実施するには小規模なゴム気球実験が適しています。地上試験では太陽を模した光源で太陽電池を評価しますが、ホンモノの太陽光と全く同じではありません。気球実験ではホンモノの太陽光を使って大気の影響がほとんどない高空というより宇宙に近い環境での評価が可能となります。今回のようにゴム気球を積極的に用いて科学的成果を出した前例はJAXAとしてもまださほど多くないと伺いました。

金谷さんは、チーム内でどのような役割を担われていたのですか?

正にプレーヤーです。ものをつくる、準備する、試験する、評価する…ほぼ全工程を1人で担当していました。試験のスケジュール管理なども。チームの皆さんには、方針や評価方法について指南していただきました。

開発チームに参加したのはいつ頃ですか?

現在入社5年目ですが、入社1年目から開発チームへ参加し、構想を練る段階から、実験に至るまでの様々なステップについて開発チーム内で検討しました。

大変だったことは?

未経験の分野で、最初はコネクタ1つまともに作れなかったので、体力的にも精神的にも辛い!と感じる場面は多々ありました。不具合発生時は、原因が見つかるまで実験室に籠ることも。でも、一通りのプロセスを経験させていただいて、学んだことも多くありました。胸を張れる成果を出せたかと問われるとまだまだですが、小さいプロジェクトを1つやりきったような達成感はあります。

学んだこととは?

問題が起きた時に隠さないことが何よりも大切だと実感しました。怒られることが悪いのではなく、駄目なら次のアイデアを考えればよいと思えるようになりました。発表や進捗報告は、評価される場というより、間違った道を進んでいないか確認していただく場という意識に変わりました。

開発チームの先生方は厳しかったですか?

求めれば助けてもらえる環境でしたし、フォローも手厚かったです。優しい先生方に恵まれて、本当に幸運だったと思います。

今までで、最も達成感を感じたのはいつですか?

ゴム気球実験で使用した、太陽電池セル評価用ゴンドラ ©JAXA

不具合で放球できなかった年を乗り越え、1年越しに放球が成功したときでしょうか。データ確認があるので、放球の瞬間に何かを感じる余裕はないですが、全部終わって海に着水するだろうというタイミングで「あぁ終わった…よかった…。」とほっとする感じでした。

これからさらに期待できることは?

将来的にペロブスカイト太陽電池が発展すると面白いですね。気球実験の高度化はもちろん、宇宙用としても発展する余地はあると思っています。現在、JAXAで使用されている宇宙用太陽電池は化合物三接合型*3のほぼ一択で、衛星ごとに最適な太陽電池を選択する余地はありません。独自の発展を遂げているペロブスカイト太陽電池が実用化され、選択肢の1つになると良いですね。

金谷さんが考えている、今後の研究計画を教えてください。

ゴム気球実証試験のための太陽電池セル評価用ゴンドラの開発はほぼ完結しました。2022年度は、ゴム気球による気球飛翔は実施せず、太陽電池側の開発に全力を注ぐつもりです。
ペロブスカイト太陽電池はまだ発展途上なので、解決すべき課題や分からないことがたくさんありますが、そこがまた面白いんですよ。


受賞者のコメント(開発チームメンバ)

福家英之 宇宙科学研究所 学際科学研究系 准教授
飛翔体のボディに太陽電池を貼るのではなく太陽電池そのものをボディとする発想は新しく技術ハードルも高いものですが、数十年後かもしれない実現に向けた第一歩をこのように評価頂いたことを有難く思っております。ゴム気球実験による若手研究者の人材育成の良い例にもなっており、さらなる発展を目指す所存です。

宮澤優 宇宙探査イノベーションハブ
ペロブスカイト太陽電池の研究で成果を創出できたことを嬉しく思います。2019年度、2021年度実験のセル製作にご協力頂いたリコー様、紀州技研工業様、また、2014年の研究立ち上げ当初からご協力頂いている桐蔭横浜大学宮坂先生、池上先生はじめ共同研究者の皆様に感謝致します。

豊田裕之 宇宙科学研究所 宇宙機応用工学研究系 助教
ペロブスカイト太陽電池は、脱炭素社会を実現する技術として脚光を浴びていますが、今回受賞した研究は、大面積フィルム上に成膜可能という特長を生かし、新たなパラダイムの創出に貢献するものです。それを産学官の協力の下に実施し、結果を評価いただいたことは、将来の多様な分野への技術展開につながると信じています。

廣瀬和之 宇宙科学研究所 宇宙機応用工学研究系 特任教授
ペロブスカイト太陽電池宇宙利用に向けた研究は、発明者の桐蔭横浜大学宮坂力先生と一緒に2014年に宇宙研電源グループで始めたものです。2015年には放射線耐性が従来のSiや化合物半導体太陽電池と比べ飛び抜けて高いことを世界に先駆けて発表しました。そのような基礎研究に気球グループと研開ユニットの仲間が加わって、気球実験に成功することができました。宮坂先生に心から感謝いたします。

受賞情報

受賞年月日 受賞者 受賞内容
2021/09 福家英之、金谷周朔、宮澤 優、豊田裕之廣瀬和之 (JAXA)、舩山遼斗、池上和志 11th SOLARIS 2021 (International Symposium on Solar Energy and Efficient Energy Usage), Best Paper Award ”Balloon flight test of thin-film-type perovskite solar cell”

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