研究領域ガイド
初期宇宙
誕生直後の宇宙は、高温高密度のプラズマ状態だったと考えられ、ビッグバンと呼ばれています。ビッグバン期、もしくはそれ以前に発せられた放射(光・重力波など)は、138億年の時を経て、現在の我々のもとに様々な情報を届けてくれています。特に、宇宙マイクロ波背景放射(CMB)は、我々の銀河外から、どの方向からもほぼ一様に降り注いでいることが観測されており、ビッグバンの直接的な証拠となっています。また、CMBには10-4程度の強弱のパターンがあることもわかっており、そこから宇宙の年齢や組成等が高い精度で推定されています。精密宇宙論の時代の到来です。
宇宙研が取り組んでいるのは、ビッグバンより前の宇宙、「宇宙はどのように始まったのか」という究極の問いです。宇宙が誕生して間もなく放射された重力波は原始重力波と呼ばれ、宇宙創生の理解に向けた鍵になると信じられています。この検出に向けて、2つのアプローチで研究を進めています。1つ目は、2020年代後半に打ち上げを予定しているLiteBIRDで、CMBの偏光を世界最高感度で精密観測し、その模様から原始重力波の初検出を目指しています。2つ目は、原始重力波を直接捉える試みです。微弱で長周期の波を捉えるためには、宇宙空間に重力波観測装置を構築する必要があり、その達成に必要な基礎開発研究を進めています。
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ホットトピックス
物質循環と化学進化
今から約138億年前、誕生直後の宇宙で起こったビッグバンによって、水素やヘリウムなどの軽元素が作られました。一方、今日の宇宙には、炭素や酸素、鉄や金など、生命と文明を支える重元素が豊富に存在します。それらは、この宇宙に初めから存在したわけではなく、星の進化や超新星爆発に伴う核融合反応を経て、徐々にその数を増やしてきました。また、超新星爆発によって宇宙空間にばら撒かれた重元素は、凝縮して様々な化合物を作り、次の世代の恒星や惑星の種となります。これら一連の元素生成と物質循環のプロセスは、X線による大質量星や超新星残骸の観測と、赤外線による星間ダストの観測を通して詳しく調べることができます。重元素の中には、銀河の重力を振り切って銀河間空間に流れ出し、銀河団プラズマの一部となるものもあります。X線を用いて銀河や銀河団の化学組成を調べることで、宇宙の大規模な化学進化を調べます。
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宇宙の構造形成(銀河団、銀河、巨大BH、星、惑星)
宇宙の構造は、宇宙最初期に存在した密度の「ゆらぎ」が膨張宇宙の中で重力不安定により成長することで形成されます。宇宙の膨張のふるまいは宇宙に内在する物質やエネルギーの密度によって決まりますが、現在のところ、宇宙のインフレーションによるゆらぎの生成とも整合する「宇宙項を含む冷たい暗黒物質モデル」が、観測される宇宙膨張と銀河分布構造をよく説明できることが知られています。ただし、暗黒物質の正体、宇宙の加速膨張を引き起こす暗黒エネルギーの正体については未知のままです。それぞれの場所で様々なスケールの密度ゆらぎが成長すると、やがて暗黒物質が大半を占める質量の塊として個々の天体が形成され、そこに取り込まれたガスがやがて冷えて収縮すると、密度の高い領域から星が誕生して銀河として観測されることになります。宇宙の構造形成を通じた銀河形成・進化過程の解明がすすんでおり、130億年に渡る宇宙での銀河の星形成史の平均的な描像が得られつつありますが、宇宙史の全貌を知る観点では、宇宙最初期の星形成、銀河形成、巨大ブラックホール形成の解明や、銀河の内部構造の形成過程の理解などが宇宙史の全貌を理解する上で大きな課題となっています。一方、形成される塊の質量が太陽の10兆倍を越えると、取り込まれたガスは全体として冷えることができず、数千万度~数億度でX線などを放射する高温プラズマとなります。銀河団中心に存在する巨大ブラックホールの活動性の影響を含め、銀河団高温プラズマの特に中心領域での力学的・熱的状態の詳細な解明が待たれています。
銀河は暗黒物質の塊・星の集団であるとともに、様々な元素物質の生成・循環の場でもあります。重元素が豊富になった星間物質から生まれる恒星では、誕生間もない恒星にふりつもるガスから原始惑星系円盤が形成され、ここに含まれる個体微粒子の凝集から、やがて固体惑星や、固体のコアにガスが集積する巨大惑星、氷惑星が形成されると考えられています。このような惑星形成過程を観測的にも明らかにすることが期待されます。
このように、宇宙の構造形成は、初期密度ゆらぎからの銀河団、銀河の形成、恒星の形成と物質循環、そして惑星形成、ひいては生命にもつながる化学進化までつながっており、その全貌を理解しつつそれぞれの現象を物理的、科学的に理解することを目指す研究が続けられています。
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宇宙プラズマ物理
宇宙に存在するバリオンの9割以上は、プラズマ(電離気体)の状態にあることが知られます。例えば、太陽などの恒星の中心は、1千万度を超える高温高密度の核融合プラズマです。また、宇宙最大の構造である銀河団や、大質量ブラックホールの周辺は、重力エネルギーを解放して膨大な熱エネルギーを得た高温プラズマで満たされます。プラズマからは、自由電子と陽イオンの相互作用などを通して、効率的に電磁波(光)が放射されます。この電磁波の観測を通して天体の物理情報を引き出すことが、天文学研究の基本的なアプローチです。
一方、宇宙空間は天然の「実験室」という側面を持ち、地上の設備では再現困難な極限環境(例えば高温、高密度、低密度、強磁場など)を提供します。私たちは、こうした特性を活かした宇宙プラズマの観測を通じて、基礎物理法則の検証や、新しい物理現象の探査も行います。
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太陽系外惑星
太陽系外惑星とは、太陽以外の他の恒星のまわりをまわる惑星です。太陽型星のまわりに系外惑星が初めて発見されたのは1995年のことであり現在では数千個の星のまわりに系外惑星が発見されています。その中でも、惑星表面に海洋が存在し得るハビタブルゾーン内に存在する地球型惑星は、将来的な生命探査の観点から重要視されています。
宇宙研では、JASMINE, LAPYUTAで太陽より小さな晩期型星の周りの系外惑星探査計画が進められています。また、国際協力ミッションでは、 NASA Roman宇宙望遠鏡計画によるマイクロレンズ法を用いた観測から、主星から遠くを回る惑星まで検出して存在する太陽系外惑星の質量・軌道分布の全貌を解明する計画や、ESA ARIEL衛星計画やRoman計画によって透過大気分光や直接観測によってガス惑星の大気を探る計画などがそれぞれ進められています。
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宇宙観測機器開発
われわれの宇宙は多様な天体や天文現象のほか、宇宙論的現象や大規模構造を持つことが知られています。これらの観測対象から先端的な宇宙物理学情報を引き出すためには、観測機器の開発が重要になります。宇宙物理学研究系では電波、赤外線にはじまり、X線までの広い電磁波波長域にまたがった検出器や光学装置の開発を実施しています。これによりLiteBIRDやJASMINEをはじめとする宇宙物理学ミッションの開発を強く支えるとともに、新しい宇宙物理学ミッションの創出に貢献しています。これらの活動に加え、宇宙物理学研究系では室内プラズマ実験装置、将来の重力波観測などに必要となる要素技術の開発など、先鋭的な実験活動にも取り組んでいます。
研究者を探す太陽物理
観太陽物理グループは、私たちの「太陽」を主な対象にして、
• 高温かつダイナミックな太陽外層大気が如何に形成されるのか? [コロナ・彩層加熱]
• フレア爆発やプラズマ噴出は如何に発生するのか? [磁気リコネクション、粒子加速、宇宙天気]
• 太陽の磁場は如何にして作られ維持されるのか? [磁場の生成・発展・消滅、太陽周期活動]
といった、太陽の不可思議の解明を目指しています。これらの課題への学術的取り組みは、宇宙に存在する高温プラズマが如何に生成されるのか、太陽活動が地球や惑星に如何に影響を及ぼしているのか、生命の存在する私たちの太陽系が他の星と比べてどれほど普遍的なのか、というより広い目的につながります。研究手法としては、観測及び取得データの解析、データ取得のために必要な装置開発、観測データの理解に必要な数値シミュレーションがあり、それぞれを有機的につなげることで、これらの課題に取り組んでいます。太陽物理グループは、太陽観測衛星「ひので」の軌道上運用を現在行っており、「ひので」観測からのデータ、「ひので」と観測連携を行う世界の観測衛星・探査機や地上天文台で得られるデータを総合的に解析して、科学的成果を生み出す研究活動を推進しています。さらに、次期太陽観測衛星SOLAR-C計画をはじめとして、将来の太陽観測に必要な観測装置や観測技術の開発を推進しています。衛星観測の実現につなげるために重要な観測ロケットや大気球を用いた観測実験(CLASP、 FOXSI、 SUNRISE-3等)も行っています。
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ホットトピックス
宇宙プラズマ
宇宙プラズマグループでは、宇宙空間に普遍的に存在するプラズマ・電磁場の相互作用について様々な側面から研究を行なっています。プラズマと電磁場の相互作用により、爆発的なプラズマ加速現象や、巨大なプラズマ渦形成、衝撃波構造などが宇宙空間に普遍的に存在しています。それらの現象がどのような仕組みで駆動されているのでしょうか?私たちはさまざまな手法を用いてその謎に迫っています。私たちの研究手法は大きく分けて、観測機器開発、観測データ解析、理論・シミュレーションに分けられます。それぞれが発展し、連携し合うことにより、現象の理解が進展していきます。宇宙プラズマ研究にとっての地球周辺空間は、人工衛星・探査機を送り込むことが可能で、その場観測が可能な、唯一の宇宙プラズマの実験場であるということが大きな特色になっています。宇宙プラズマ研究グループは、運用中や運用終了した衛星・探査機(水星探査機(BepiColombo/Mio)、ジオスペース探査衛星「あらせ」、NASAの磁気圏探査衛星「MMS」、月周回探査衛星「かぐや」等)からのデータを解析して科学的成果を生み出すとともに、ESAの木星氷衛星探査計画(JUICE)、 火星衛星探査計画(MMX)、月極域探査ミッション(LUPEX)等の衛星・探査機に搭載する観測装置の開発を進めています。また、基礎的な学術研究と同時に、新しい観測機器・探査方法の開発、新しいミッションの企画検討も行っているほか、観測ロケット(SS-520-3号機観測ロケット、NASAの観測ロケットLAMP等)による北極域での観測も行っています。
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ホットトピックス
惑星大気
惑星大気グループは主に太陽系惑星の大気を対象に、飛翔体(惑星探査機、観測ロケット)実験や地上望遠鏡などによりデータを取得し研究を行っています。私たちの地球は「実によくできた大気」をもち、それは生命の存在する環境と共進化してきたと考えられています。ところが火星や金星は二酸化炭素主体の大気で、前者は希薄で寒冷な、後者は濃密で灼熱な環境となっており、こうした違いをきちんと理解することは科学的にはもちろん、文明的にも重要といえましょう。そのような惑星大気への挑戦は、火星探査機「のぞみ」、金星探査機「あかつき」、惑星分光観測衛星「ひさき」、そして数々の地球大気観測ロケットにより行われてきました。特に「あかつき」は日本で初めて地球以外の惑星(金星)の周回に成功し、2015年12月から貴重な金星観測データを送り続けてくれています。これらのミッションを計画したり搭載機器を開発したり(あるいは地上望遠鏡とも連携し)、ひとたびデータが得られるようになればその解析研究により惑星大気の謎を解明する、それが私たち惑星大気グループの仕事です。そして地球気象で培った数値モデルを発展させ、惑星大気シミュレーションによりデータの解釈を深めてゆく。これにより地球と太陽系惑星の大気、さらには系外惑星の大気まで含めて大きな理解にたどり着きたいと私たちは考えています。今後はMMXやMIMの火星大気観測、ポスト「あかつき」金星探査計画の立案、海外金星ミッションへの参加などにより、惑星大気研究を進めてゆきます。
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ホットトピックス
固体惑星
固体惑星研究グループでは、太陽系内の月、火星、金星、水星、木星や土星の衛星などの固体惑星について、その形成・進化のメカニズム、内部構造、表層地質学、気候・環境、惑星間相互作用など、データ解析、数値シミュレーション、シミュレーション実験など多岐にわたる研究を行なっています。特に月や小惑星に関しては、探査機の観測データだけでなく、サンプルリターンミッションから得られた岩石・土壌サンプルや隕石の分析を行うことにより、その天体の誕生や進化を詳細に解明することを目指しています。
また、本グループでは、JAXAで運用中および運用終了した探査機(かぐや、はやぶさ、はやぶさ2、はやぶさ2拡張ミッション)だけでなく、海外のミッションで得られたデータも最大限活用して科学的成果を創出するとともに、火星衛星探査ミッション計画(MMX)、ESAの小惑星探査ミッション(HERA)や木星氷衛星探査計画(JUICE)、NASAの土星衛星タイタン探査計画(DragonFly)に搭載する観測装置の開発を進めており、将来の月惑星探査計画にむけた機器開発、ミッションの企画検討も積極的に進めています。
研究者を探す系外惑星
太陽系科学研究系では、これまでの太陽系科学分野での研究を基にして、太陽系外惑星の研究に取り組んでいます。既に5000を超える系外惑星が発見され、太陽系とは大きく異なると思われる惑星系も多数見つかっています。これまでの観測によって、惑星の大きさ、質量、中心星からの距離が分かるようになってきましたが、その惑星環境は分かっていません。今後は、新たに検出数を増やしていくことに加え、その惑星の環境を明らかにするために、特に大気の観測が重要となります。そこで、ESA主導の系外惑星大気赤外線分光サーベイ衛星計画 Arielに参加し、1000個の系外惑星について大気組成の解明を目指します。また、現在検討中の紫外線宇宙望遠鏡計画LAPYUTAでは、特に系外地球型惑星の上層大気観測に臨みます。赤外線位置天文観測衛星JASMINEによる発見が期待される惑星も、新たな観測対象になると期待されており、JAXAが参加するNASAのナンシー・グレイス・ローマン宇宙望遠鏡では系外惑星の直接観測に向けた技術実証が進められます。さらにJWSTや大型地上望遠鏡によって精力的な観測が進められており、今後さらに多くの新たな研究成果が期待されます。
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ホットトピックス
太陽系物質科学
太陽系物質科学は、岩石試料をはじめとする惑星や小惑星などの宇宙物質の分析を通じて、宇宙および太陽系の起源と進化を明らかにする研究分野です。この目標達成に向け、JAXAは「はやぶさ」と「はやぶさ2」のようなサンプルリターンミッションを成功させ、未踏の天体から地球へ岩石試料を持ち帰ることで貴重なデータを提供しました。「はやぶさ」による小惑星イトカワからの試料は、太陽系初期の岩石天体の組成や宇宙風化のプロセスを明らかにしました。後継ミッション「はやぶさ2」による小惑星リュウグウからの試料分析では、水や有機物の分布と生命の起源に関する重要な発見がありました。今後実施予定のMMX計画では、火星の衛星を対象に、火星とその衛星システムの起源、形成過程、そして火星表層環境の進化に関する貴重な知見が期待されています。これらの研究成果は、太陽系の歴史を解明し、地球外生命の可能性や系外惑星の研究にも深い影響を及ぼすことが期待されます。本分野は、太陽系科学研究系および帰還試料のキュレーション活動を担う地球外物質研究グループが中心となり、国内外の宇宙物質科学コミュニティと密接に連携して進められています。
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ホットトピックス
太陽圏システム科学
太陽圏システム科学は、太陽圏と呼ばれる、惑星系、地球圏、惑星間空間、太陽をサブシステムとして含む領域において、それぞれのサブシステムが互いに影響し合いながら生み出され、絶えず変化している様々な現象を明らかにしていく科学分野です。この分野には、太陽物理グループ・太陽-地球惑星系科学グループ(宇宙プラズマグループ・惑星大気グループ)のメンバーが関わっており、2020年代後半には「ひので」、「あらせ」、「みお」、Solar-C (EUVST) などの多数の衛星計画によって、多くの科学成果が期待されています。世界的にもNASA Parker Solar Probe やESA Solar Orbiter 等、太陽近傍の観測が充実し、太陽風加速から太陽風ダイナミクスまで太陽物理分野と太陽-地球惑星系科学分野が協力して太陽圏システムを理解しようという動きが加速しています。太陽圏システム科学の複数の観測を有機的に繋ぐことに資する地上観測や数値シミュレーション・モデリング技術も発展しており、衛星・探査機ミッションと地上観測、数値シミュレーション・モデリングとの連携によって、さらに多くの科学的成果が期待できます。
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大気球
大気球(宇宙科学研究のための成層圏気球)は、飛行機の数倍高い高度に滞在できる唯一の飛翔体です。挑戦的な天文・宇宙線観測や高層大気のその場観測、高高度の希薄大気環境での実験が可能です。また、比較的緩い実験機器への制約・短い準備期間・低コストで飛翔でき、最先端研究にタイムリーに挑戦できる「宇宙への扉」として宇宙科学の芽出しも担っています。学際科学研究では、飛翔体としての大気球の開発や、大気球への搭載を目指した実験装置の開発、大気球で飛翔した実験データの解析などを進めています。宇宙線観測実験(BESS)の南極飛翔データでは、特に宇宙線中の同位体比の詳細解析を進めています。MeVガンマ線観測実験(SMILE-2+)の豪州飛翔データでは、カニ星雲などの放射を有意に検出して地上較正と合致する観測感度を世界で初めて実現し、本格的に分野開拓すべく次期気球実験SMILE-3の準備を進めています。また、暗黒物質などの知見獲得を目指し、宇宙線反粒子の高感度観測実験(GAPS)の南極飛翔準備を進めています。さらに、長時間飛翔可能なスーパープレッシャー気球(SPB)に網を被せた気球構造の研究開発を進めています。南極での大気重力波観測実験(LODEWAVE)では日本の小型SPBによる初の科学観測の第一歩を踏み出しました。これらに加え、大気球実験ユーザと協働し創出される科学成果の最大化に貢献しています。
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ホットトピックス
観測ロケット
ISASは、S-520、SS-520、S-310ロケットを使って高度300km付近の宇宙空間観測や理工学技術の実証機会を提供しています。今後はこれまで接してこなかった理工系分野との接点構築を図るとともに、研究分野開拓を積極的に進めていく計画です。最近は、デジタル情報の広範な活用を通じた設計・開発工程の近代化にも取り組んでおり、将来的にはミッションサイクルの短縮を目指し、また宇宙機技術のテストベッドとして更なる高機能化、運用性向上を目指します。ISASでは、上記のようなサイエンスの実行を目論むプロジェクト活動に所属大学院生等の直接的な参加を促しており、ISASならではのインターンシップの機会として、座学では得難い経験獲得の場を提供しています。
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ホットトピックス
超小型探査機
人工衛星の小型・軽量化の波は、太陽系の各種天体に直接到達し調査する深宇宙探査機にも及んできています。2014年に東京大学とJAXA宇宙研は深宇宙での通信・軌道制御機能をもった探査機として、世界で初めて50kg級の超小型探査機PROCYONの開発・打上げ・運用に成功しました。また、2022年、NASAの次世代ロケットSLSの初号機 Artemis-1ミッションには10機のCubeSatが相乗りし、月遷移軌道へ投入されました。そこでは、JAXA宇宙研と東京大学が共同で開発した10kg級 CubeSat EQUULEUSが月スイングバイを利用した精密な軌道制御に成功しました。このように、超小型衛星の活動の範囲は今や地球低軌道から月やそれ以遠の惑星まで広がり、探査機も高度化し、本格的な科学探査ミッションも担えるようになってきています。
JAXA宇宙研では学際科学研究系を中心に、この流れを加速・発展させる様々な研究やプロジェクトに取り組んでいます。ESA-JAXA共同のComet Interceptor計画では、JAXAから提供する30kg級の超小型機も含めて3機の探査機を使って、長周期彗星を人類として初めて訪問し直接観測します。また、超小型探査機を用いた外惑星探査技術実証計画(OPENS計画)では木星以遠の探査を日本として初めて実現することを目指しています。さらに、比較的地球に近い深宇宙領域の探査をより高頻度に実現することを目指して、GTO軌道や月遷移軌道から超小型衛星自身が軌道変換して深宇宙へ到達する技術の研究開発も行っています。
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ホットトピックス
アストロバイオロジー・惑星保護
地球生命の起源や、地球以外の天体にも生命は存在しうるのか、という人類史上の普遍的な問いに科学的に答えるために我々は、太陽系内外の天体の化学的進化の過程や生命前駆環境を含む現在の状況を調査し、宇宙から地球への生命前駆物質の輸送機構を明らかにし、地球上の極限環境における微生物等の耐環境能力・増殖能力を調べること等を通じて、地球型惑星や海洋天体におけるハビタビリティ(居住適性)や、生命の発生と進化の可能性を明らかにする研究を行っています。また、そこで得られる仮説を実証し、地球以外の天体での生命活動の兆候や現存する生命を探索するために、天文学的観測、人工衛星による軌道上実験、探査機によるその場観測・分析、またサンプルリターンミッションなどを立案し、それらを実現するために必要な観測機器、探査デバイス、汚染管理、物質分析の研究開発も行っています。このような科学探査を行うためには、COSPAR(宇宙空間研究委員会)の下で国際的な合意として定められた惑星保護方針に従う必要があります。惑星保護とは、探査する対象天体の環境を保全し、また地球生命圏を地球外生命や関連物質による汚染から保護するための活動です。我々は国際ルール制定に参画すると共に、ルールの制約の中にあっても科学的成果を最大化できる世界最先端技術の研究開発を行っており、その成果は火星衛星探査計画(MMX)にも生かされています。
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ホットトピックス
宇宙環境利用
宇宙環境利用分野では、主に国際宇宙ステーション(ISS)、観測ロケットでの科学実験の実施および、共同研究者の支援を行っています。特に、ISSは微小重力や強い放射線の環境下にあります。その特徴を利用して現在までに様々な科学実験が行われています。ISSの「きぼう」日本実験棟に搭載した「静電浮遊炉」では、容器を用いた通常の方法では測定が困難な高融点酸化物融体の熱物性計測が微小重力環境を利用することにより行われています。これまでに希土類酸化物(融点2400℃以上)を初めとする様々な物質の密度・表面張力及び粘性係数を取得してきています。さらに「きぼう」日本実験棟の船外実験プラットフォームでは、宇宙環境での生命の生存可能性を調べる「たんぽぽ」実験が行われ、ある種の微生物ではISS船外の厳しい環境下で3年以上生存することが確かめられました。この実験結果により惑星保護のために宇宙検疫の重要性が再認識させられました。また、観測ロケットを放物線飛行させることにより数分程度の微小重力環境を得ることができます。これを利用して宇宙ダストの形成および、安全なエンジンの実現に向けた冷炎現象に関する研究を国際協力により推進しています。
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ホットトピックス
国際宇宙探査
国際宇宙探査とは、国際協力によって推進される有人宇宙探査活動及びそのために先行して行われる無人探査活動を範囲とします。JAXAでは当面、月および火星を対象として活動を行います。有人宇宙探査は非常に大規模な活動であるため、国際協力のもとに実行され、特に月探査は米国のアルテミス計画には、日本をはじめとした数多くの国際的パートナーが参加しています。日本は月周回拠点「Gateway」の一部を分担する他、Gatewayや月面への物資補給、月面を走行する有人与圧ローバ等により国際貢献をする計画が進行中です。一方で、国際協力を見据えながら、日本独自の戦略に基づいた活動も行われています。国際協力のためには、高い技術を持つことが不可欠です。そのため、月面へのピンポイント着陸の技術実証を行う「SLIM」、月極域探査ローバ「LUPEX」、火星衛星からのサンプルリターンを行う「MMX」等、月や火星を舞台にさまざまなミッションが計画されています。また、2022年度からは、月面を舞台に一級の科学成果を創出するための活動も進められています。国際宇宙探査の活動と、宇宙科学の活動が協調することで、技術と科学の双方を効率よく発展させることを目指しています。学際科学研究系は、国際宇宙探査と科学の融合の中心的な役割を果たします。
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ホットトピックス
情報技術
近年急速に発展した情報技術を、宇宙科学における成果創出やそのアウトリーチ、更には研究開発に活用する取り組みを行っています。
活動の成果である宇宙科学データに関連して、可視化や可聴化にまつわる手法の検討を行っています。その対象範囲は、科学衛星から得られたデータの他、ミッションの検討・訓練等で必要とされる模擬データや、関連する将来技術等にも及んでいます。またこれらの可視化手法に関連して、広報・普及その他、一般向けのコンテンツ制作や制作支援等にも取り組んでいます。
宇宙科学の科学コミュニケーション(専門家と非専門家の対話)の実践とその反響の分析、分析結果を受けた効果的な科学コミュニケーションの検討を行なっています。対話の場を企画・準備・運営し、実行した活動に対するSNSやメディアの反応を分析したり、非専門家に対する意識調査を行ったりして、非専門家に宇宙科学のファンを増やす道筋を探っています。
研究開発に直結する活動として計算科学に関する研究開発を行っています。数値シミュレーション技術を中心とした計算科学は理論、実験と並んで第三の科学と呼ばれ、宇宙科学においても非常に重要な研究・開発の手段となっています。特に工学的な立場から、航空宇宙機に関係した高速流れの解析を中心に数値シミュレーション技術およびそれを支える高性能計算技術に関する研究を行っています。
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ホットトピックス
ロボティクス
月や火星などの重力の大きな天体、小惑星や彗星などの重力の小さな天体の表面を移動探査するロボット全般の研究をしている。いずれの天体も、天体表面の不整地を走破するための移動メカニズムや障害物認識、天体表面におけるロボットの位置を求める自己位置同定、ロボットの外界センサを用いて自律的に走行・観測を行うための知能化などが研究テーマである。知能化に関しては、ロボットが取得した画像を用いて学習機能により地形を認識させることが現在主流となっている。さらに、これらの研究をもとにして小型ロボットを宇宙探査ミッションに提案し、地球外天体表面で実際にロボットの動作試験を行なう活動も行なっている。
研究者を探す宇宙機システム
宇宙機システム分野は、宇宙科学・探査ミッションを実現するために各専門技術・分野を整合させ、全体としての成立性を図る技術や体系を扱う研究領域である。科学衛星・探査機システムの高機能化や小型軽量化、開発手法の高度化などの課題に対し、多様な工学技術を背景として、研究開発を行っている。その成果をうけて「ひさき」、「あらせ」で開発・実証した小型科学衛星用標準バスは、今後の衛星計画でも多く活用されており、SLIMで開発した軽量な月惑星着陸機システムは後続の着陸ミッションの大きなヘリテージとなる。また、衛星バスの小型軽量/低消費電力化や短工期化に向けて、アーキテクチャ・コンポーネント・実装技術などの各レイヤにおける研究・検討を進めている。そこでは、民生技術を積極的に導入するアプローチを取っているが、超小型宇宙機やその搭載機器の信頼性を高めるアプローチとのクロスポイントとなる領域を見定めて研究を進めている。今後、超小型宇宙機を宇宙科学の成果創出を担う重要なツールとして位置づけることを目指し、その短期・低コスト・効率的な開発に資する品質・信頼性を含めた新しい開発方式の検討・検証を、Comet Interceptor B1開発をモデルケースとして推進している。
研究者を探す宇宙機制御
人工衛星や探査機の運動制御に関わる研究を行っている。姿勢制御については、主に天文観測を行う望遠鏡衛星を念頭においた高精度な指向制御方式や、探査機が天体近傍を追加しながら観測を行うための追尾制御(望遠鏡と協調した姿勢制御)など、高性能・高機能なミッションを実現するために必要な研究を行っている。月惑星への着陸制御については、着陸精度向上に繋がる航法誘導制御の研究や、より安全な着陸に繋がる着陸・制御方式の研究などを行っている。複数衛星の相対位置を制御して1つのミッションを行うフォーメーションフライトについても、実ミッションを念頭において消費推薬を節約するための研究や、電磁石の力を利用する方式、これを利用した群衛星制御の研究などを行っている。さらに、姿勢の高精度推定・制御に関わる研究や、制御のために用いる装置の研究開発など、基盤的な研究を行った例などもある。このように、宇宙機の運動制御について、基礎的な研究から実ミッションに近い研究まで幅広く行っている点が、1つの特徴となっている。
研究者を探す軌道決定・航法
深宇宙探査機の精密軌道決定・誘導・電波計測技術、及び、それらの技術を太陽系天体の重力や大気の計測プローブとして利用する惑星電波科学などを研究対象とする。軌道力学、推定理論、相対論などの理論的側面と、地上局における電波計測技術などの工学的アプローチの双方を対象とする。深宇宙の実ミッションを対象として実践的な研究を行う。
地上局から探査機を観測する手法であるDelta-DOR、ドップラ、レンジング、SLR、光学(赤経・赤緯)などの電波・光学計測と、探査機上のセンサーでターゲット天体を観測する手法であるLIDAR、OP-NAV等の計測を組み合わせて複数オブジェクトの軌道を同時に推定するハイブリッド軌道決定手法の研究も行っている。木星以遠の深宇宙から月表面に至るまでの太陽系内の広い領域において、宇宙機や太陽系小天体の軌道、着陸機・ローバーの位置等を高精度で決定する手法を確立する事が研究の目的である。
通信・RF航法誘導計測技術
探査ミッション、宇宙科学ミッションの要請する通信システムとそれを利用して実現する航法誘導計測、そしてそれらの要素技術の研究開発を担っている。これらのシステムは搭載と地上に跨がり、物理層は電波、光といった媒体の別を問わず、通信システムならば誤り訂正技術を含むリンク層に至るエンド・ツー・エンドの技術開発を指す。また、航法誘導計測はディジタル化にあっても、アナログ的な精度校正が必要となる分野である。要素技術には、アンテナ、フロントエンド、増幅器、そして通信機が主に挙げられる。それらに含まれる素子開発や信号処理技術にクローズアップした研究もある。最近のKa帯や光といったより高い周波数の開拓にあっては、機器開発にとどまらず、それらを効率的に使いこなす運用技術も重要な研究テーマとなりつつある。ミッション指向であることより、実際の探査ミッションや宇宙科学ミッションで長期間運用したデータが蓄積されており、運用データの解析や学習機能への応用も有望な研究分野である。他にも、海外の宇宙機関と相互に乗り合えるシステムであることが重要という特色がある。その側面には標準化を意識した研究活動がある。
研究者を探すデータ処理技術
探査機や宇宙機、これに対応する地上システムにおけるデータ処理全般の研究開発を行っている。近年では、観測機器の高度化に伴い取得されるデータ量も膨大となってきている。それらのデータをオンボードで整理し処理を行い、効率よく地上にデータを下す必要がある。それらのデータ処理、蓄積方法について標準規格を定め、それに従った機器開発をすすめている。また、探査機や宇宙機において、コマンドなどを送信受信する地上系の高度化も重要と考えており、AIなどによる宇宙機の状態管理や自動運用を目指した研究も行っている。
研究者を探すセンサ・半導体デバイス
宇宙機に搭載する半導体デバイスについて、基礎研究から開発まで行っている。
基礎研究としては、先端Siデバイス、無線送信機の電力変換効率の改善を目的としたダイヤモンド半導体、MEMS多機能デバイス、待機電力不要システム、等があげられる。
宇宙機搭載に向けた開発としては、次世代の宇宙用マイクロプロセッサの開発(研究開発本部と協力)、MEMSジャイロスコープを搭載した慣性航法装置の開発、火星衛星探査計画 (MMX)搭載レーザ高度計の光パルス検出専用ICの開発、月惑星着陸機の障害物検出センサ等の開発を行っている他、月着陸実証機SLIM搭載の着陸レーダはすでに開発を完了してフライトを待っている。
エネルギーシステム
惑星探査機や科学衛星等の宇宙機にむけた電力マネージメント、発電技術、蓄電技術等の研究を行っている。探査機や衛星の多くは、日照期間は太陽電池により発電し、余剰をバッテリに蓄え、日陰期間の電力を維持する。電源系の機能の喪失は探査機等の寿命を決定する重大事象となる。その上で、宇宙機利用では真空環境や放射線環境等への耐性が求められるため特有の技術開発を必要としており、軽量高効率でありつつ放射線耐性の高い太陽電池技術や、リチウムイオン二次電池技術等の蓄電デバイスの開発、超長期の宇宙機運用を可能とするための電源系管理手法の研究が進められている。また、将来の大規模宇宙探査にむけた燃料電池や再生型燃料電池の研究も進めている。
更に、将来の宇宙で太陽光により発電した電力を地球に送信し、地上のエネルギー需給に対応するための太陽光発電衛星の研究を進めている。この衛星の実現にむけては、軽量な太陽電池による発電技術から、エネルギー送信技術、耐熱構造、高効率アンプ等の多様の技術の開発が必要である。また、近年注目されている月探査への寄与として、月周回軌道から月面へのエネルギー供給システムとしての利用も検討されている。
観測ロケット支援技術
JAXAの観測ロケットS-310/S-520シリーズを用いた宇宙実験・宇宙観測において、現時点では準備されていないが「あったほうがより多くの活動成果が得られるだろう」と期待される技術のうち、宇宙機応用工学研究系に関連のある技術について、原理・装置の提案から試作、そして宇宙実証までを対象とした一連の研究活動を行っている。これまでに具体的には、姿勢制御に関する技術(小型姿勢制御装置への制御ソフトウエアの提供、搭載装置に装着する慣性プラットフォームの試作)、観測装置間で使用する通信装置(EthernetのLAN化技術要素の開発)、観測装置の一部をロケットから切り離して稼働させるための分離プローブ技術(電力・通信装置を備えた小型プローブの提案、分離プローブへの電力伝送原理検証)について原理の提案し、効用を解析し、実証装置をインハウスで準備し、観測ロケットでの宇宙実証を実施している。この研究活動では、理論検討や原理提案だけではなく、実装用装置を試作し、観測ロケットに搭載して打ち上げ、提案内容の宇宙実証を行うことを重視し、提案の実際的意義や問題点、改良方法を検討し、次の装置提案へとフィードバックするというスタイルをとっている。
研究者を探すホットトピックス
輸送システム
宇宙科学ミッションの実現には探査機や観測衛星を地球から宇宙へ運ぶ必要があります。地上から地球の周回軌道へ、さらに遠くの天体へ、宇宙への自在なアクセスを実現するため、宇宙輸送システムは宇宙科学研究に欠かせません。
宇宙輸送システムには様々な形態がありますが、これまで宇宙科学研究所では多くの科学衛星を固体ロケットにより打ち上げてきました。ミュー(M)シリーズは日本の科学衛星打上げ用ロケットの歴史を築き、世界最大級の3段式固体ロケットであるM-Vロケットは「はやぶさ」や「ひので」などを宇宙空間に届けました。この固体ロケット技術は、イプシロンロケットに引き継がれています。
宇宙飛翔工学研究系では、将来の宇宙輸送システムの研究に取り組んでいます。これまで使い捨てであったロケットを繰り返し使うことで、輸送コストの大幅な削減を目指すとともに、高頻度で大量の宇宙輸送を実現するため、再使用型の宇宙輸送システムの研究に取り組んでいます。繰り返し再使用のための技術を実践的に獲得するための小型実験機によるシステム研究に加え、推進性能の大幅な向上を目指した空気吸い込み型のエンジンや、軽量化を目指した複合材タンクなど、様々な要素技術研究が進められています。
地球近傍から月や火星、さらに遠くの天体へ、探査機を自在かつ高頻度に深宇宙へ輸送するための軌道間輸送システムの研究にも取り組んでいます。インフラ・サービスである輸送と、ミッションを実行する探査の役割を切り分け、これまでは探査機それぞれが個別に持っていた宇宙空間での輸送のための機能を共通化して、汎用性の高い標準化された輸送システムによる高頻度な深宇宙探査の実現を目指しています。
再使用型の軌道間輸送システムにより、地上~地球近傍~深宇宙を結ぶ輸送ネットワークを構築することが我々の研究のゴールです。
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探査システム
地球周回軌道を離れて月惑星や小天体の近傍に接近して探査・観測するのが探査システムです。地球周回の衛星と比較して、より多くの軌道変換や長期の航行が必要となる傾向になる他、地球周回とは異なる環境への対応が必要となります。より遠距離になることから通信の遅延時間が長くなり、また、通信レート確保も難しくなることから、より少ないデータでシステムの状態を把握する必要があります。更に、多くの軌道変換を要することから、地球周回の衛星に比べて画期的な軽量化やより効率の高い推進系を組み合わせる必要が出てきます。
宇宙飛翔工学研究系では、より効率的な探査実現に向けた研究を実施しています。
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推進システム
宇宙飛翔工学研究系では、ロケット等の宇宙輸送機や、探査機・観測衛星に搭載される推進システムの研究に取り組んでいます。宇宙輸送機向けの推進システムとしては、再使用型ロケットエンジンやエアブリージングエンジンの研究開発と飛行実証に向けた活動を行っています。探査機・観測衛星向けの推進システムとしては、高性能ホールクラスタなどの次世代化学/非化学推進の研究を行っています。また、HANなどの低毒性推進剤を用いたスラスタの研究や、従来は打ち上げ用に使われていた固体ロケットを軌道上で活用するための先進固体ロケット技術の研究開発にも取り組んでいます。
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構造・材料
宇宙科学・探査を推進する挑戦的なミッションを効率的に実施するには、衛星・探査機などの飛翔体および望遠鏡など観測機器の材料や構造・機構の高性能化や高信頼性化を追求することが重要です。材料においては、高比強度・高比剛性に加えて、近年は高耐候性や熱変形・膨潤変形がないことなどが要求され、その実現のため特殊な特性を有する複合材や形状記憶合金、メタマテリアル等の材料の研究開発が進められています。構造・機構では、高強度・高剛性・超軽量化に加えて、熱や微小振動に対して非常に高い形状安定性や形状精度を有する構造や、高収納効率と高信頼性展開機構を有する大型展開構造物、膜面構造のように座屈や大変形を伴う構造物の挙動解析・制御、更には、天体への着陸やサンプル採取に関わる構造・機構に関する研究開発、及び、制御や熱等の分野と構造との統合設計に関する研究も進められています。このように宇宙飛翔工学研究系では、先端的な宇宙科学観測や深宇宙探査を支える研究を行っています。
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熱工学
空気が存在しない宇宙環境では、強烈な太陽光を浴びるときは温度が上昇し、日陰に入ると温度が急激に低下します。例えば、現在水星に向かって航行中の探査機「みお」の太陽電池パネルは日照時に表面温度が+240℃まで上昇する一方、日陰時は-160℃まで低下し、最大400℃の温度差に曝されます。このような衛星・探査機が曝される過酷な熱環境において、搭載機器を適切な温度範囲に保ち、ミッションを成功に導くことが熱制御システム、熱工学技術の役割です。宇宙機熱制御における要素技術は、大きく分けて多層膜断熱材やラジエータなどのふく射熱制御、サーマルストラップなどの伝導熱制御、ヒートパイプや宇宙用冷凍機などの熱流体制御、ヒータやペルチェ素子などの発熱・冷却制御に分類されます。熱工学分野のキーワードとしては、「ふく射伝熱」、「伝導伝熱」、「対流熱伝達」、「冷凍サイクル」が挙げられます。熱制御システムは、軌道設計、姿勢制御、搭載機器発熱、および電力リソースによって最適な形が変化するため、各要素技術を組み合わせ、ミッション要求に対していかに最適かつ信頼性の高いシステムを構築するかが重要です。熱工学分野の研究者は、熱の観点から現状の課題と将来計画を分析し、次世代の科学衛星・探査機に必要な先進的熱制御技術の学理を深める基礎研究から、搭載を見据えた研究開発、ミッション創出から設計、運用まで、広く取り組んでいます。さらなる挑戦的なミッションを実現するために、従来技術やその延長線上を超え、自由な発想と確かな技術で世界第一級の科学成果を生み出す活動を、熱工学の面から推進しています。
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空気力学
ロケット等の地上から宇宙へ物を運ぶ宇宙輸送システムは、大気の中で加速しながら飛びます。ロケットの空気力学はその打ち上げ性能を評価するための重要な学術であり、M-Vロケットなどの空力設計に活かされてきました。将来、宇宙科学ミッションをより低コストにより頻度高く実施するためには宇宙輸送システムの再使用化が不可欠です。そのため、再使用宇宙輸送システムの空力設計に関する研究にも取り組んでいます。
はやぶさ・はやぶさ2による小惑星からのサンプルリターンや火星衛星フォボスからのサンプルリターンを目指すMMXミッションなどにおいて、収集したサンプルを地上に届けるための地球大気圏再突入カプセルの空力設計や熱防御系開発はサンプルリターンを成功させる上で必要な技術であり、日本が最先端を進む技術となっています。
また、今後日本においても火星などの大気を持つ重力天体への着陸探査を行う可能性があり、大気圏へのEDL技術(突入技術、降下技術、着陸技術)の開発も必要とされています。
2021年には米国が世界で初めて火星大気中でのドローンの飛行に成功しました。今後は火星などの大気を持つ重力天体でのドローンの活用に関する研究も今後重要になってくると考えられます。
宇宙飛翔工学系ではこれらの技術の研究開発に取り組み中心的な役割を果たします。
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軌道設計・制御
宇宙機を周回軌道や月惑星に送り込むための軌道を設計し、実際に宇宙機を制御する技術は、より自在な宇宙科学・探査の根幹となる研究領域の1つです。
「軌道設計」の研究では、宇宙機に働く天体重力や搭載推進機などを考慮し、より良い軌道(例:少推進薬量で)を設計することが課題です。より良い軌道設計のために、スイングバイ、三体問題、低推力軌道制御などの技術が積極的に用いられています。また非線形的に振る舞う軌道力学を深く理解することも、より良い軌道設計の鍵となります。近年、力学系理論・最適化理論・機械学習などの最先端技術を用いた遷移軌道設計や周回軌道設計(小惑星近傍、コンステレーション等)に関する研究が盛んです。
「制御」の研究では、搭載センサや軌道決定の情報を用いて、探査機の軌道をいかに自在に操るかが課題です。制御技術が向上すると、例えば天体探査では採取可能サンプルやアクセス可能地形の範囲が広がるなど、宇宙科学・探査の質の向上に直結します。近年、外乱に対してロバストな軌道制御、超精密な相対運動制御(フォーメーションフライト)、着陸降下中の最適軌道制御、外乱を積極利用した探査機の軌道制御などに関する研究が活発です。
軌道設計・制御分野の研究成果は、小天体・月惑星探査、天文観測、打上げロケットなどの実現と発展に大きく貢献しています。
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