「ひので」-IRIS-ALMA観測で明らかにされた太陽マイクロフレア足元の振る舞い

伊藤 哲司清水 敏文・宇宙科学研究所 太陽系科学研究系

微小な太陽面爆発〜マイクロフレア〜は、活動的コロナの形成やエネルギー解放機構の理解において重要な観測対象です。今回、「ひので」衛星の観測を「IRIS」衛星の彩層観測、アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(ALMA)によるミリ波観測と連携させることで、コロナでのエネルギー解放の一種である「マイクロフレア」の足元の振る舞いを知ることができる貴重な観測例を得ることに初めて成功しました。その観測から、足元に突っ込む非熱的なエネルギーがコロナ中に生成される熱的エネルギーのわずか100分の1しかないこと、マイクロフレアにおけるエネルギー解放は太陽表面に分布する強い磁場領域から上空コロナに広がった磁場と磁場の間で起きていること、などが新たに分かりました。この結果は、太陽大気で起きる磁気エネルギーの突発的解放の物理を理解する上で重要な示唆を与えています。

研究概要

図1
図1:「ひので」軟X線望遠鏡(XRT)が捉えたループ状マイクロフレア。このマイクロフレアの一方の足元 (赤枠)をALMA, IRIS,「ひので」SOT Spectro-Polarimterで同時観測することに成功した。

マイクロフレア*1は、コロナ*2で起きる微小な爆発で、活動的な太陽コロナの形成において主要なエネルギー源と考えられています。今回の研究は、その足元での応答を調べることから、マイクロフレアの発生機構に迫ることに取り組みました。アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(ALMA) *3によるミリ波観測と、太陽観測衛星「ひので」*4「IRIS」*5の観測を協働させることで、軟X線*6でループ状に突発的に増光するマイクロフレア(図1)を同時に捉えました。特に、増光するコロナループの足元を、観測視野が非常に狭いALMA, IRISおよび「ひので」の偏光分光装置によって、同時に捉えることに世界で初めて成功しました。

図2
図2: 増光ループの軟X線強度(ひのでXRT), ループ足元の輝度温度(ALMA 100GHz), およびSi IVスペクトル線(IRIS)強度の時間変化

ループ足元での突発的応答は、スペクトル線*7CII (約2万度)とMg II k(約1万度)では明瞭な信号が検出されませんでしたが、ALMAミリ波 (3mm, 100GHz)およびSi IV (約6万度)で信号が検出されました(図2)。さらに、その信号の時間プロファイルは、突発的な時間変化を示し、それは軟X線強度の立ち上がり期にピークを迎え、その後、軟X線強度のピーク時には増光前のレベルに戻っていました。なお、ここで軟X線強度はコロナ中に生成された熱的エネルギー量を示しています。これらの振る舞いから、コロナでのエネルギー解放時に同時に発生した加速粒子が足元の密度が高い彩層上部に突っ込んだ結果、足元のプラズマが急激に熱化してミリ波の増光として観測されたと考えることができます(図3)。

図3
図3: 加速粒子が足元に突っ込み足元で発光する模式図

ALMAが観測するミリ波は、彩層での温度的な応答を探る上で極めて有用です。ALMAの増光信号をもとに、足元で急激に熱化したエネルギーを見積もることができます。それは即ち、足元に突っ込んだ加速粒子がもつ非熱的なエネルギー*8の大きさを知ることにつながります。一方で、マイクロフレアがコロナ中に解放した熱的エネルギー*8の大きさは、「ひので」による軟X線強度から見積もることができます。これらの比較から、非熱的なエネルギーが熱的なエネルギーの約100分の1しかないことを突き止めました。我々のエネルギー評価により、マイクロフレア (今回のケースは1026エルグ (1019ジュール)台と、マイクロフレアの内でも小さい部類)において加速された粒子の不足が初めて判明しました。

通常のフレアでは、加速粒子によってループ足元に供給されることで、熱的エネルギーがコロナに供給される彩層蒸発モデルが考えられてきていますが、その描像とは異なり、マイクロフレアでは、磁場の解放エネルギーは非熱的なエネルギーとはならず、ほぼ全てがコロナガスの直接的な加熱に寄与し熱的エネルギーが形成されることを示唆しています。大規模フレア(Xフレア)から小フレア(Cクラス)にエネルギー規模が小さくなるに従って、非熱的エネルギーの割合が低下するという示唆が最近の研究で指摘されていますが、今回の結果はそれを強力に補強する結果です。もしこれが正しければ、コロナの熱的プラズマをより効率的に作る、通常フレアとは異なる機構がマイクロフレアには必要になります。

図4
図4: Si IVスペクトル線(IRIS)とALMA輝度温度で見た増光成分。増光成分は、増光の開始前データを差し引くことで抽出された。「ひので」SOT spectro-polarimterは、太陽面に分布する強い磁場を示す。等高線は、マイクロフレア中の2データにおけるSi IV増光成分の位置を示す。白色が磁場が強い場所で、等高線で示された増光場所は、強い磁場の周りに広がる弱い領域に現れていることがわかる。

さらに、足元の増光の構造は、高空間分解能(0.4秒角)のIRIS衛星のSi IVデータから明らかにされ、1秒角程度サイズの輝点複数から構成され(図4a)、それら全てが太陽表面(光球)面に分布する強い磁場の上空ではなく、強い磁場が取り囲む、磁場が弱い空洞領域に位置していました(図4c)。この輝点の振る舞いから、強い磁場領域から上空コロナに広がった磁場と磁場の間でエネルギー解放が起き、それが短時間に位置を変えるという概念イメージを提供しています。マイクロフレアは、磁場と磁場の間に形成された磁気的不連続面において磁気再結合(磁気リコネクション) *9が起きていると推測されてきましたが、その磁気リコネクションが起きる不連続面の様子を推定する助けとなる結果です。

今回の成果は、わずか1例の観測に初めて成功し、それから得られたものです。これから太陽活動は徐々に上昇してきますが、今後さらに「ひので」「IRIS」とALMAによる同時太陽観測が行われ、マイクロフレアのサンプル数が増えることによって、今回示唆した結果が統計的にも確認されることが期待されます。

なお、今回のマイクロフレア足元での応答よりも小さな突発的変化がALMAデータで捉えられています。この小変化を起こす原因として、微小磁場の浮上が原因であるケースが特定された(Abe, Shimizu and Shimojo 2022 Front. Astron. Space Sci. 9:908249. https://doi.org/10.3389/fspas.2022.908249)他に、様々な可能性(波動, 彩層ダイナミクス, 磁気リコネクション)について現在世界中で検討が進められています。

用語解説

  • *1 マイクロフレア : 太陽コロナで頻発する微小な爆発である。通常の太陽フレアに比べて約6桁も解放されるエネルギーが小さな爆発を指す。太陽コロナの約500万度を超える高温な成分を作る有力な原因と考えられ、太陽コロナの成因を理解する上で重要な存在である。また、マイクロフレアは、物理現象として、単に太陽フレアの小さなものなのか?異なるのか?を探ることは、フレアのエネルギー解放機構を理解する上で有用な情報を与える。
  • *2 コロナ : 太陽表面の上空に形成された高温で希薄な大気。表面温度約6000度に対してコロナの温度は100万度を超える。高温であるため、エネルギーが高い軟X線や紫外線で観測することができる。
  • *3 アルマ(ALMA)望遠鏡 : 南米チリの標高5,000mの高地に建設され、2011年に科学観測を開始した巨大な電波望遠鏡群である。日本を含む22の国と地域が協力して運用されている。アルマ望遠鏡は、太陽を観測することも可能で、観測公募選考に基づき2017年に実施されたサイクル4から太陽観測が始まった。今回用いた観測は、波長3mm (周波数100GHz)のデータで、彩層からの熱的放射が主な成分と考えられている。
  • *4 「ひので」衛星 : 2006年9月23日に打ち上げられた科学衛星で、15年以上にわたり太陽観測を継続してきている。今回用いたデータは、搭載されたX線望遠鏡(XRT)が取得する軟X線画像の高時間連続データ、および可視光磁場望遠鏡(SOT)の偏光分光装置(Spectro-Polarimeter)が精密計測した光球面磁場マップデータである。
  • *5 「IRIS」衛星 : 2013年6月27日にNASAが打ち上げた小型衛星Interface Region Imaging Spectrographで、8年以上にわたり「ひので」と協働して太陽観測を継続している。「ひので」が発見したダイナミックな低層大気〜彩層〜に対して物理診断を強化する分光装置を搭載している。Mg II k, C II, Si IVなどのスペクトル線で撮影された画像を本解析では用いた。
  • *6 軟X線 : X線は電磁波の一種で、電磁波は人間が感じることができる可視光線よりも波長が短くなるに従って紫外線、X線と呼ばれる。軟X線は、X線の中でも紫外線に近い側にあるエネルギーが低いX線のことである。
  • *7 スペクトル線 : 虹のように電磁波を波長順に分解して並べたスペクトルの中に現れる輝線や吸収線のこと。原子中の電子が2つのエネルギー準位の間を遷移するときに生じる電磁波である。
  • *8 熱的エネルギーと非熱的エネルギー : ある温度で平衡状態にあるプラズマでは、電子は温度で特徴つけられる速度分布を持ち、そのエネルギーを熱的エネルギーと呼ぶ。太陽フレアの発生においては、コロナ中に高温なプラズマが短時間に形成される。それと同時に粒子加速が起きるが、その加速粒子がもつエネルギーは熱的エネルギーの速度分布とは外れた分布を持つため、非熱的エネルギーと呼ぶ。通常のフレアでは、加速粒子がコロナループ足元の密度が高い低層大気(彩層)に突っ込むことで、彩層プラズマ蒸発が起きコロナに供給されることで、熱化された熱的エネルギーがコロナに形成されると考えられている。
  • *9 磁気リコネクション : 磁気再結合とも呼ばれる物理機構で、磁力線のつなぎかえによって磁場が持つ磁気エネルギーを熱や運動エネルギーに短時間に変換する機構である。

論文情報

雑誌名 The Astrophysical Journal 922:113 (11pp)
論文タイトル Simultaneous ALMA–Hinode–IRIS Observations on Footpoint Signatures of a Soft X-Ray Loop-like Microflare
DOI https://doi.org/10.3847/1538-4357/ac27a4
発行日 2021年12月1日
著者 Shimizu, T., Abe, M., and Shimojo, M.
ISAS or
JAXA所属者
清水 敏文(宇宙科学研究所 太陽系科学研究系), 阿部 仁 (東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻/宇宙科学研究所 卒業)

関連リンク

執筆者

清水 敏文(SHIMIZU Toshifumi)

清水 敏文(SHIMIZU Toshifumi)
名古屋大学理学部卒業、東京大学大学院理学系研究科博士課程終了。2005年より国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所。ひのでプロジェクトマネージャ。