図1

図1 観測ロケット実験CLASP2と「ひので」衛星の共同観測から明らかになった、太陽表面から彩層最上部に至る磁束管の様子。4つの高さ(太陽表面、彩層低・中・最上部)で磁場を観測した。 Credit: 国立天文台

石川遼子助教(国立天文台)とJavier Trujillo Bueno教授(カナリア天体物理学研究所)を中心とした国際研究チームは、ロケット実験CLASP2と「ひので」衛星による観測を組み合わせ、太陽表面からコロナ直下に至る磁場構造を世界で初めて明らかにしました。CLASP2は、日米仏が共同開発した観測装置で、NASAの観測ロケットにより2019年4月に打ち上げられました。そして、約6分半の間、太陽表面上空に広がる彩層からの紫外線の偏光観測に成功しました。同時に、宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所が国内外の研究機関と協力して運用する「ひので」は太陽表面の磁場を精密に観測しました。これにより、太陽表面に点在して見られる磁束管が、彩層で急激に膨張し互いにひしめき合っていくという、今まで想像のみであった太陽磁場の彩層での姿が明らかになりました(図1)。本研究成果は、太陽物理への新しい知見をもたらすとともに、太陽観測研究に彩層磁場の測定という新しい窓を切り拓きました。

本研究成果は、2021年2月19日(アメリカ東部標準時)に米国科学振興協会が発行するScience系雑誌「Science Advances」に掲載されました。

研究概要

太陽大気は表面(6千度)よりも、その上層にある彩層(1万度)、さらにその上層に広がるコロナ(100万度)の方が温度がはるかに高く、いかなる仕組みでこのように高温な大気層が作られているのかよくわかっていません。また、彩層はコロナに比べて密度が高く、コロナを加熱・維持するよりも多くのエネルギーが必要であることが知られています。これを「彩層・コロナ加熱問題」と呼び、観測と理論の両面からさまざまな研究が活発に行われ、太陽表面とコロナの間に位置する「彩層」が重要な役割を果たしていると考えられています。しかし、加熱に必要な大気の運動やエネルギー輸送の担い手である「磁場」の彩層での様子はこれまでほとんど明らかになっておらず、その理解を阻む大きな障壁となっていました。

彩層・コロナ加熱問題解明に大きな一歩をもたらすべく、彩層の磁場測定を目的とした新たな観測装置の開発が世界中で活発に行われています。このような世界的情勢の中で、国立天文台をはじめとした日米欧研究チームが着目したのが、近年の理論研究により磁場測定が可能であることが示唆された「紫外線の偏光」です。紫外線は宇宙からの観測が必須となること、またその偏光を精度良く測る観測装置の開発も極めて困難であることから、「紫外線の偏光」は長らく未踏の領域となっていました。これに挑戦したのが、観測ロケット実験 CLASP(2015年打ち上げ)、そしてCLASP2(2019年打ち上げ)です。

図2

図2 本研究で用いた観測データ。CLASP2は緑実線で示されたスリットの位置での偏光スペクトル(右側の上下のパネル)を得た。スリットを当てていた位置とその周辺の太陽彩層の様子は、CLASP2に同じく搭載された撮像カメラ(SJ)で示されている(左上のパネル)。太陽表面磁場の詳細は、ひので衛星に搭載された可視光望遠鏡から得られた(左下のパネル)。白黒がN極, S極で磁場の強いところを表している。背景は、SDO衛星で観測された太陽彩層の全面像。 Credit: 国立天文台, IAC, NASA/MSFC, IAS

今回、石川遼子(国立天文台)とJavier Trujillo Bueno(カナリア天体物理学研究所)が率いる国際研究チームが解析を行ったのが、観測ロケット実験CLASP2で取得されたデータです。CLASP2はその飛翔中、活動領域を2分半にわたって観測し、電離マグネシウム線(波長280 nm)近辺の紫外線偏光スペクトルを世界で初めて取得しました(図2)。そして驚いたのが、CLASP2打ち上げ前からの標的であった電離マグネシウム線(図2右でMg II k, Mg II hと表記)に加え、その近傍にある2つのマンガン線(図2右でMn Iと表記)にも、ゼーマン効果によって有意な円偏光が検出されたことです。電離マグネシウム線はコロナ直下の彩層中〜最上部から放射される一方、マンガン線は彩層底部から放射されます。これら複数の偏光情報により、彩層底〜中〜最上部の連続した磁場情報を得ることができるのです。さらにCLASP2は、太陽表面の磁場を測定する「ひので」衛星との共同観測にも成功しました(図2左下)。

図3

図3 太陽表面からコロナ直下に至る磁場分布。CLASP2のスリット(図2の緑線)に沿った各高さでの磁場強度を示す。 Credit: 国立天文台, IAC, NASA/MSFC, IAS

このようにCLASP2と「ひので」の観測を組み合わせて得られたのが、太陽表面から彩層底部、彩層中部、そしてコロナ直下の彩層上部に至る活動領域の磁場の様子です(図3)。図3の緑線で示された、大きく変動した空間分布は、太陽表面ではキュッとすぼまったチューブ状の「磁束管」が、互いに少しずつ離れて分布していることを示しています。一方の彩層では(図3の青、黒、赤の丸)その振る舞いは大きく異なり、[1] 太陽表面に比べて急激に磁場強度が弱まること、[2] 彩層の中でも上空に行くに従って徐々に磁場が弱くなっていること、[3] 太陽表面で磁場が弱い場所でも彩層では比較的強い磁場が存在すること(例えば図3の黒矢印で示した場所)、がわかりました。これらのことから、磁束管が彩層で急激に膨張し互いにひしめき合っていくという、これまで太陽研究者が想像するも、その証拠が得られなかった彩層磁場の様子が初めて観測から明らかになったのです(図1)。

さらに、電離マグネシウム線の強度スペクトルから彩層上部のエネルギー密度(電子密度と温度の積)を求めたところ、彩層上部の磁場(図3の赤丸)と非常に高い相関が得られました。これは、彩層加熱が磁場起因であること、さらにはその加熱機構に迫る上で太陽表面の磁場情報では不十分であり、彩層上部での磁場測定が必須であることを明瞭に示しました。今後、CLASP2で明らかになった太陽表面からコロナへ連なる磁束管の姿を元に、磁場がどのようにして太陽大気層を結合させているのか、異なる大気層間でどのようにエネルギーが伝達されていくのか、といった研究が進んでいくと期待されます。

画像:打ち上げのようす。

図4 観測ロケットCLASP2の打上げ。 Credit: US Army Photo, White Sands Missile Range

今回のCLASP2は、NASAの観測ロケットに搭載され、米国ホワイトサンズ砂漠にて打ち上げられました(図4)。CLASP2観測装置は観測終了後、パラシュートで砂漠に無傷で帰還し、現在NASAマーシャル宇宙飛行センターに保管されています。CLASP2チームは、この観測装置をもう一度飛翔させるCLASP2.1計画を進めています。CLASP2の観測はスリットを固定して行ったため、スリットに沿った磁場情報しか得られませんでした。CLASP2.1計画ではスリットを少しずつ横に動かすことで、(空間2次元+高さ=)3次元の磁場マップの取得を目的としています。観測ロケットを使った実験は、計画立案から実施まで迅速に進めることが可能であり、将来の太陽衛星計画につながるような挑戦的な研究やそれを可能にする技術実証を行うことができます。また、将来の太陽衛星計画などで装置開発を主導して活躍できる若手研究者や大学院学生を育てる機会としても、有効な機会となっています。今後、CLASP2以外にも、SUNRISE-3気球実験やハワイで科学観測が始まりつつある巨大太陽望遠鏡DKIST(Daniel K. Inouye Solar Telescope)など、世界中の様々な観測装置での彩層磁場観測への挑戦は続きます。

最後に忘れてならないのが、彩層〜コロナの温度、ダイナミクスの詳細な観測により加熱の現場を捉えるということです。これに取り組むのが、日本が中心となって欧米と開発を進めている次期太陽観測衛星Solar-C (EUVST)です。CLASP2では、電離マグネシウム線(波長280 nm)近辺の紫外線スペクトルに着目し、観測装置の光路内にて波長板を精密に一様回転させることを実現させ、そのスペクトルの偏光を精密に測定しました。一方EUVSTは、偏光計測は行いませんが、さらに波長が短い真空紫外線 (波長17nmから120nm)に存在する彩層〜コロナの温度を起源とする様々なスペクトル線を高分解能に観測します。これにより、エネルギーが輸送され加熱が起きる現場を初めて詳細に捉えることができると期待されます。

用語説明

磁場の測定と彩層磁場
スペクトル線に生じる偏光(光の偏り)を観測することで、磁場の測定を行う。これまで、太陽表面の磁場は、ひので衛星や地上望遠鏡などによって精力的に観測が行われ、その性質がとても詳しく調べられてきた。しかし、彩層の磁場は太陽表面の磁場に比べて弱く、また、偏光が発生する過程もより複雑であるために、生じる偏光の検出は容易ではない。近年、彩層磁場観測に最適なスペクトル線や観測技術の開拓がはじまった。

CLASP (Chromospheric Lyman-Alpha Spectro-Polarimeter)
CLASP2の前身。2015年に打ち上げを行った観測ロケット実験で、彩層中の水素が出すライマンアルファ線(波長122nm)の偏光分光観測を行った。理論的に予測されていた散乱偏光及び磁場による散乱偏光の変化(ハンレ効果)の観測に世界で初めて成功し、大きな成果を挙げた。また、3次元太陽大気モデルを用いた模擬観測との比較により、彩層上部が、これまで考えられていたよりも複雑な大気構造を持つことも明らかとなった。一方で、ベクトル磁場情報を得るのに重要なゼーマン効果による円偏光は、ライマンアルファ線には生じないため、直線偏光のみの観測であった。

CLASP2 (Chromospheric LAyer Spector-Polarimeter)
日本、アメリカ、フランス、スペインが共同で開発を進めた観測ロケット実験。電離マグネシウム線(波長280nm)の観測を行えるよう、CLASP打ち上げ後無事回収した観測装置を日本へ持ち帰り、改造を施した。国立天文台先端技術センターにあるクリーンルームで組み立てと性能評価試験を行った後は、アメリカ合衆国に輸出し、2019年4月11日ホワイトサンズミサイル実験場にて打ち上げられた。

活動領域
黒点などの強い磁場が集中した領域。今回CLASP2が観測したのは、活動領域の中でもプラージュと呼ばれる明るくて磁場が比較的強い場所。

ゼーマン効果
磁場によってスペクトル線が分離する量子力学的効果。黒点のように磁場が強い場所であれば、スペクトル線の分離を容易に検出することができる。また、分離が顕著でなくても、磁場強度に応じた偏光が発生することを利用し、CLASP2では各スペクトル線の円偏光から視線方向の磁場強度を導出した。

論文情報

  • タイトル:"Mapping Solar Magnetic Fields from the Photosphere to the Base of the Corona"
  • 掲載雑誌:Science Advances, 19 Feb 2021: Vol. 7, no. 8, eabe8406 (2021年2月19日出版)
  • DOI:10.1126/sciadv.abe8406

共同研究グループ

石川 遼子 自然科学研究機構国立天文台 助教
Javier Trujillo Bueno カナリア天体物理学研究所 (スペイン)
Tanausú del Pino Alemán カナリア天体物理学研究所 (スペイン)
岡本 丈典 自然科学研究機構国立天文台 NAOJフェロー
David E. McKenzie NASA マーシャル宇宙飛行センター (米国)
Frédéric Auchère フランス宇宙天体物理学研究所 (フランス)
鹿野 良平 自然科学研究機構国立天文台 教授
Donguk Song 自然科学研究機構国立天文台 特任研究員
吉田 正樹 自然科学研究機構国立天文台/総合研究大学院大学 博士課程
Laurel A. Rachmeler アメリカ海洋大気庁(米国)
小林 研 NASAマーシャル宇宙飛行センター(米国)
原 弘久 自然科学研究機構国立天文台 准教授
久保 雅仁 自然科学研究機構国立天文台 助教
成影 典之 自然科学研究機構国立天文台 助教
坂尾 太郎 宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所 准教授
清水 敏文 宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所 教授
末松 芳法 自然科学研究機構国立天文台 准教授
Christian Bethge コロラド大学 (米国)
Bart De Pontieu ロッキードマーチン太陽天体物理研究所 (米国)
Alberto Sainz Dalda ロッキードマーチン太陽天体物理研究所 (米国)
Genevieve D. Vigil NASAマーシャル宇宙飛行センター (米国)
Amy Winebarger NASAマーシャル宇宙飛行センター (米国)
Ernest Alsina Ballester ロカルノ太陽研究所 (スイス)
Luca Belluzzi ロカルノ太陽研究所 (スイス)
Jiri Stepan チェコ科学アカデミー天⽂学研究所 (チェコ)
Andrés Asensio Ramos カナリア天体物理学研究所 (スペイン)
Mats Carlsson オスロ大学 (ノルウェー)
Jorrit Leenaarts ストックホルム大学(スウェーデン)

研究助成

CLASP2の開発は、国立天文台、宇宙航空開発機構・宇宙科学研究所(ISAS/JAXA)、アメリカ航空宇宙局マーシャル宇宙飛行センター(NASA/MSFC)、フランス宇宙天体物理学研究所(IAS)、カナリア天体物理学研究所 (IAC) 他の共同で行いました。

本研究を含む日本でのCLASP2の研究開発は以下の研究資金で進めました。

  • 2019〜2021年度 JSPS科研費 JP19K14771(若手研究 研究代表者:石川遼子)
  • 2019年 国立天文台若手研究者海外派遣プログラム(石川遼子)
  • 2017〜2019年度 JAXA 宇宙科学研究所小規模計画「小規模太陽観測プロジェクト(CLASP2+SUNRISE-3)」
  • 2016〜2018年度 JSPS科研費 JP16H03963(基盤研究(B) 研究代表者:石川遼子)
  • 2016年度 国立天文台共同開発研究(研究代表者:石川真之介)
  • 2015年度 宇宙科学研究所国際共同ミッション推進経費(研究代表者:石川遼子)
  • 2013〜2017年度 JSPS科研費 JP25220703(基盤研究(S) 研究代表者:常田佐久)

また、国外でのCLASP2の開発は、

  • NASA Award 16-HTIDS16_2-0027(アメリカ, 研究代表者: David McKenzie)
  • The European Research Council (ERC) under the European Union's Horizon
    2020 research and innovation programme (Advanced Grant agreement No. 742265, スペイン, 研究代表者: Javier Trujillo Bueno)
  • CNES funds CLASP2-13616A and 13617A(フランス, 研究代表者:Frédéric Auchère)

で進めました。