国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
国立天文台

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ナノフレアを起こす太陽活動領域の想像図。
(c) ISAS/JAXA 画像ダウンロード:[JPG: 4.8MB]

国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所の石川真之介研究員率いる国際共同研究グループは、硬X線観測装置を搭載した太陽X線観測ロケット FOXSI(Focusing Optics X-ray Solar Imager)と太陽観測衛星「ひので」の観測データから、一見太陽フレアが起きていないように見える領域でもナノフレア(微小なフレア現象)の発生していることを示すことに成功しました。ナノフレアが頻繁に発生することによって、数百万度のコロナが保たれるとする仮説は、「コロナ加熱問題」を解決する有力な説の一つとなっています。今回の結果は、コロナ加熱を説明する理論モデルに大きな制限を与えることになります。

本研究成果は、2017年10月9日発行のNature Astronomy誌に掲載されました。

太陽にはコロナと呼ばれる高温で希薄な大気が存在しています。およそ5800K(注1)の太陽表面の上空に、なぜ数百万Kという高温のコロナが存在するのか、どのようにコロナが数百万Kまで加熱されるのかはいまだ解明されていません。熱源から離れるほど熱くなるというこの逆転現象は「コロナ加熱問題」として知られ、これを解き明かすことが太陽研究の長年の課題となっています。

コロナを加熱するメカニズムとして、いくつかの仮説があります。その一つにナノフレアによる加熱という仮説があります。ナノフレアは、その名が示すとおり微小なフレア現象のことです。このナノフレアが頻繁に発生することによって、コロナに熱が供給されるという仮説は、有力な仮説となっています。

さて、ナノフレアが発生している場合には、コロナの典型的な温度よりもさらに高い1000万K以上の超高温プラズマが存在することがシミュレーションで予言されています。しかし、超高温プラズマの存在を確実に示す観測結果はありませんでした。

石川真之介(JAXA宇宙科学研究所)率いる国際共同研究グループは、2014年12月に米国ホワイトサンズより、硬X線観測装置を搭載した太陽X線観測ロケットFOXSIを打ち上げました。そして、およそ6分間の観測時間に太陽の複数の領域を観測することに成功しました。

FOXSI は超高温プラズマからの微弱なX線をこれまでにない高い感度で観測できます。FOXSIに搭載されたX線望遠鏡は米国のチームにより開発され、低ノイズ・高分解能の半導体X線イメージング検出器は日本のチームが開発しました。国際協力で最先端の技術を集結させることによって、FOXSIは実現したのです。さらに太陽観測衛星「ひので」でも同時観測を行いました。FOXSIは1000万K以上の超高温プラズマに高い感度を持っており、「ひので」に搭載されたX線観測装置は数百万Kのプラズマに高い感度をもっています。そのため、二つの観測装置で調べることで、観測した領域の温度構造を詳しく調べることができるのです。

「見えない」ナノフレア、太陽X線超高感度観測で発見した存在の証拠 イメージ図

FOXSI ロケットとひので衛星のX線望遠鏡による観測結果。水色の等高線が FOXSI による硬X線画像、背後の画像はひので衛星によるもの。
本研究では黄色い枠で囲った領域に注目した。左上はこの領域のX線強度の時間変化(上段:ひので、下段:FOXSI)。
水色の枠で囲った時間帯にはX線強度は誤差の範囲で一定であり増光現象は見られないが、温度解析の結果、ナノフレアの存在を示す1000万度以上の超高温成分が見つかった。
(c) ISAS/JAXA, UC Berkeley, NASA, NAOJ 画像ダウンロード:[PNG: 10.1MB] [JPG: 5.9MB]

今回のFOXSIによる観測では、太陽活動領域でフレアによるX線の増光現象が発生していない状態で、有意な硬X線放射を検出しました。

研究グループはFOXSIと「ひので」のX線望遠鏡のデータを解析し、コロナの温度構造を高精度で見積もりました。その結果、数百万度のコロナの主成分と比べてごくわずかながら、1000万K以上の超高温成分が存在することが明らかになりました。すなわち、一見太陽フレアが起きていないように見える領域でもナノフレアが発生していることを示す結果といえます。今回の結果は、コロナ加熱を説明する理論モデルに大きな制限を与えることになります。研究グループは、太陽に超高温のプラズマが常に存在することを示すとともに、X線高感度・高分解能観測の有効性を示すことにも成功しました。

ロケット実験の観測時間は6分間と短く、今回は1つの領域についての結果にすぎません。ナノフレアによるコロナ加熱のメカニズムを明らかにするためには、より多くの領域の観測や長時間の観測が必要です。そこで研究グループでは、国内での観測衛星の提案や、米国のチームと共同で NASAに衛星計画を提案するという活動を進めています。

注1: K(ケルビン)は絶対温度の単位。物質を冷やすことができる最下限の温度を絶対零度とした温度目盛りを絶対温度とよぶ。絶対温度0度(0K)は摂氏-273.15度となる。

発表媒体

雑誌名: Nature Astronomy (2017.10.9 付)
論文タイトル: Detection of nanoflare-heated plasma in the solar corona by the FOXSI-2 sounding rocket
著者: Shin-nosuke Ishikawa, Lindsay Glesener, Säm Krucker, Steven Christe, Juan Camilo Buitrago-Casas, Noriyuki Narukage and Juliana Vievering
DOI番号: 10.1038/s41550-017-0269-z