近年、宇宙探査の世界では、太陽系の惑星や衛星、そして太陽系の外にある系外惑星に至るまで、観測技術の進歩によって新しい発見が次々と生まれています。その中心となっているのが、惑星の大気や宇宙空間のガスを光で調べる「分光観測」です。特に紫外線分光観測は、水素や酸素、炭素といった宇宙で普遍的に存在する元素が紫外線波長の領域に特徴的な輝線や吸収線を持っているため、惑星の成り立ちや生命が存在できる環境の探求から、宇宙の構造や進化の研究まで、幅広い研究に欠かせない手法として注目されています。
こうした探査の根底にある大きなテーマの一つが、「生命が存在しうる環境とは何か」という問いです。火星や金星は現在、地表に液体の水が存在できないほど過酷な環境ですが、過去には温暖な気候と海があったと考えられています。それがなぜ失われたのかを探るカギのひとつが、惑星の大気が宇宙空間へ逃げていく「大気流出」です。惑星を取り巻く上層の大気は太陽の強い紫外線によって分解され、水素や酸素などの原子となります。紫外線観測を行えば、どれくらいの大気が外に逃げているのか、そしてその過程が惑星の歴史をどう変えたのかを詳しく知ることができます。
また、木星の衛星エウロパやガニメデのように、氷の地殻の下に海が存在すると考えられている天体は、生命が生まれ得る「第2のハビタブル環境」を持つ天体として注目されています。これらの衛星の表面からは、氷の粒子やガスが放出され、希薄な大気を形成しています。太陽光が弱い紫外線の領域では、こうした微弱な発光を背景の反射光に邪魔されずに観測できるため、衛星表層の化学組成を知る手がかりとなります。
一方、太陽系外へ目を向けると、系外惑星の発見数は急速に増え、今では地球と似たサイズの惑星が恒星の周りを回る例も多く見つかっています。しかし、最も知りたい「その惑星に大気はあるのか?」という問いには、まだ十分な答えが得られていません。地球型惑星の大気は厚みが薄く、現在の観測技術では信号が非常に弱いためです。紫外線観測はこうした大気を検出する上でも重要な役割を果たすことが期待されています。
さらに視野を広げれば、紫外線観測は宇宙の大規模構造や銀河の成長、恒星をつくるガスの分布を調べるうえでも欠かせません。宇宙には活動的なブラックホールを中心に抱える銀河や、星形成が活発な銀河など多様な姿がありますが、それらがどのように進化してきたのかはまだ完全には解明されていません。また、鉄より重い元素はどこで、どのように作られたのかという根源的な謎も残っています。中性子星の合体直後に放たれる高温ガスをすばやく観測することで、重元素合成の舞台裏に迫ることができますが、そのためには “最初の光” を逃さず観測できる衛星が必要になります。
こうした科学的背景を鑑み、新しい紫外線宇宙望遠鏡ミッションの必要性が高まっています。紫外線は地球の大気に吸収されてしまうため、宇宙空間に望遠鏡を置く必要があります。大型の口径と高精度の分光器を備えた次世代の紫外線望遠鏡計画を実現し、惑星の大気流出の仕組み、氷衛星の地下海の手がかり、銀河進化や重元素の起源といった重大な問いに、一つずつ答えを与えることが期待されています。
紫外線で宇宙を見るということは、人間の目には見えない宇宙の姿をとらえることにほかなりません。私たちはこれから、生命の可能性を探る惑星探査と、宇宙の歴史を紐解く天文学を、紫外線という強力な手段を用いてもう一段深く進めようとしています。次世代の紫外線望遠鏡は、宇宙のさまざまな謎を一気に解き明かす、新たな扉を開く存在になるでしょう。
(画像クレジット:東北大 /JAXA)

将来計画惑星科学、生命圏科学、および天文学に向けた紫外線宇宙望遠鏡計画 (LAPYUTA)
LAPYUTAは、「宇宙の生命生存可能環境の探求」と「宇宙の構造と物質の起源の理解」を大目標に、「木星系の物質・エネルギー輸送と地球型惑星の大気進化」 「ハビタブルゾーン近傍の系外惑星大気の特徴づけ」 「銀河の形成過程」 「重元素の起源」の4つの課題に、紫外線観測で取り組む計画です。
