「はやぶさ2」に搭載された観測機器を用いて行われている小惑星リュウグウの"精密検査"から、リュウグウの形状、表面物質とその分布の特徴、さらには含水鉱物があることが明らかになりました。
太陽系で惑星が形成する時期、物質はどのように分布し、地球に水や生命起源物質はどのようにもたらされたのか、惑星の元となった天体はどのような物質で構成されていたのか、そしてどのような物質変成をたどって現在に至るのか。
「はやぶさ2」や計画されている探査ミッションでは、惑星が形成する過程と生命の起源物質が初期太陽系内で移動した過程を明らかにしようとしています。小惑星リュウグウでこれらの過程を調べるため、「はやぶさ2」には光学航法カメラ、熱赤外カメラ、近赤外分光計、レーザー高度計などのリモート観測機器を搭載しています。リュウグウは過去の研究でC型小惑星に分類され、含水鉱物や有機物を含むと推測されていました。つまり、リュウグウは地球に水をもたらした天体と同種の天体かもしれません。
リュウグウに接近した「はやぶさ2」から届いた画像で最初に気づくのがコマ(独楽)型をしていることです。「はやぶさ2」サイエンスチームは、カメラやレーザー高度計などによる観測データに基づき、リュウグウの形状モデルを構築しました。その結果、リュウグウはきれいな円形の赤道リッジを持っていることがわかりました。形状モデルを解析した結果、リュウグウは遠心力によって変形した可能性が高いことがわかりました。赤道断面の円形度および中低緯度帯の軸対称性が高かったのです。リュウグウ表面の傾斜は観測から31度と見積もられました。そしてこの傾斜は、自転周期を3.5時間とするとこの傾斜を再現できることがわかりました。現在のリュウグウの自転はゆっくりで、自転周期は7.6時間です。すなわち、現在と比べ約2倍の速さで自転していたと考えられます。どのようにして自転がゆっくりになったのか、それはまだわかっていません。
精密な重力計測と形状モデルからは、リュウグウがラブルパイル天体である可能性が極めて高いこともわかりました。ラブルパイル天体とは、破壊された母天体が再集積して形成した天体のことです。
そこでリュウグウの形成については二つの仮説が考えられます。(1)破壊された母天体からの破片が再集積時に高速時点していた、もしくは、(2)リュウグウ形成後に徐々に時点が加速してコマ型になった。ただし(1)は理論計算から形が棒状に伸びてコマ型になりにくいという欠点があります。したがって、形成後に徐々に自転が加速したという二番目の説が有力ですが、今後の研究でリュウグウの内部構造や強度を見積もることができると、どのような進化過程をたどったのかがあきらかになるでしょう。
リュウグウ表面の高解像度画像を解析すると、小さいクレータが極めて少ないという特徴が見つかりました。小さなクレータは表面の地震動などで地形が崩されて消えたと推測されます。加えて、崖崩れの証拠も多く見つかりました。このことから表層1m程度は、100万年以下で物質が入れ替わり、表面には(宇宙科学的なタイムスケールで)新鮮な物質が存在する可能性を示唆しています。すなわち、表面の物質、特に赤道付近の物質を採取し、地球で回収すれば、宇宙風化の影響が少ない新鮮な物質を地上の大型装置で分析することもでき、リュウグウや惑星形成過程、地球に存在する水に対してC型小惑星の寄与を推測できると期待されます。
そして、近赤外分光計の観測によって、リュウグウ表面に水が含水鉱物として存在していることがわかりました。リュウグウのようなC型小惑星は地球に水をもたらした天体の有力な候補です。現在の地球に存在する水はC型小惑星によってもたらされたのか、そうだとすればどのくらいの割合がC型小惑星によってもたらされたのか、を明らかにするには、C型小惑星の内部に保持されていた水の量を見積もる必要があります。
そのためには、C型小惑星を構成する物質に水質変成が起こった際、水が天体の外に放出されたのか、それとも内部に閉じ込められたのかを解明しなければなりません。2020年(予定)にリュウグウの試料が地球に運ばれ、試料の詳細な分析が進めば、水質変成の歴史も明らかになるでしょう。そして最終的に、地球の水の起源を解き明かすヒントが得られるだろうと考えています。
本研究成果は、3編の論文として、Science(サイエンス) 誌のウェブサイトに2019 年3 月19日(日本時間3月20日)に掲載されました。
以下のリンク先で、それぞれの論文についての解説を行っています。
※(2019.4.19追記)3編の論文はサイエンス誌(2019年4月19日発行)に掲載されました。