大注目のリュウグウ試料!これまでのキュレーション作業を振り返る
~キュレーターインタビュー:与賀田佳澄氏・宮﨑明子氏・長島加奈氏~

左から:宇宙科学研究所 地球外物質研究グループの長島氏、宮﨑氏、与賀田氏
左から:宇宙科学研究所 地球外物質研究グループの長島氏、宮﨑氏、与賀田氏
左から:宇宙科学研究所 地球外物質研究グループの長島氏、宮﨑氏、与賀田氏
「はやぶさ2」再突入カプセルが地球に帰還する際にオーストラリア・クーバーペディで撮影された火球
「はやぶさ2」再突入カプセルが地球に帰還する際にオーストラリア・クーバーペディで撮影された火球

2020年12月6日、オーストラリアの夜空に美しい光の軌跡を描きながら地球へ帰還した「はやぶさ2」の再突入カプセル。その中には、「はやぶさ2」が小惑星リュウグウで採取した試料が入っていました。
最近では、リュウグウ試料の初期分析結果の論文が続々とリリースされ、太陽系誕生当初の様子を知る上で最も価値の高い試料であることが分かってきました。今後も多くの研究者や研究機関により詳細な分析が行われる予定です。
世界中の研究者から大注目を浴びるリュウグウ試料ですが、これらを研究グループへ配分するまでには様々な作業が行われています。
探査機が持ち帰った試料の受入れや開封、分析、研究、カタログ作成、分配、保管等を行うことを「キュレーション」と言い、リュウグウ試料のキュレーション作業は全て、JAXA地球外物質研究グループの「キュレーター」によって行われています。
本記事では、3名のキュレーターに、これまでのリュウグウ試料のキュレーション作業について振り返っていただきました!

与賀田 佳澄

与賀田 佳澄 (宇宙科学研究所 地球外物質研究グループ 研究開発員)
学生時代は隕石を扱う研究室に所属。JAXA入社1年目の2018年に地球外物質研究グループへ配属され、キュレーション作業に従事。学生時代からキュレーションの存在は知っていたが、新入職員の配属先候補に含まれているとは思いもよらず、配属先を知った時は驚いたそう。

宮﨑 明子

宮﨑 明子 (宇宙科学研究所 地球外物質研究グループ 研究開発員)
JAXA入社前は、技術職員として隕石を扱う研究室等で研究支援を行っていた。仕事を紹介された時は、キュレーションの全てを理解することは出来なかったものの、面白そうだという直感を信じて、2019年から地球外物質研究グループでキュレーション作業に従事することに。

長島 加奈

長島 加奈 (宇宙科学研究所 地球外物質研究グループ 研究開発員)
JAXA入社前は、研究開発系の仕事に従事。サンプルリターンに興味があり、「はやぶさ」の頃から持ち帰った試料に何らかの形で関わりたいと思い続けていた。良いタイミングで募集に巡り合い、2021年から念願のキュレーターとして、地球外物質研究グループに所属。

キュレーション作業を始める前に、まずリュウグウ試料受け入れのための様々な準備を行ったと伺いました。具体的にはどのような準備をされたのでしょうか?

「はやぶさ2」クリーンチャンバ
「はやぶさ2」クリーンチャンバ

与賀田: キュレーション作業で使用する計測機器・分析装置の立ち上げ準備や、試料をピックアップするための器具の開発など、様々な準備が必要でした。準備期間は徐々に忙しくなっていって、終盤は大変すぎて記憶がなくなっているくらい(笑)

宮﨑: リュウグウ試料が日本に到着する1ヵ月前に秤量装置が壊れる事件もありました。修理に出すと納期が2ヵ月と言われて、「間に合わない!どうするよ!?」と。結局、持ち合わせの秤量装置を何とか使えるように改造して、実は今でもその秤量装置を使用しています。

与賀田: 市販の秤量装置はクリーンチャンバ(キュレーション作業を行う装置)内に入れてはいけない素材でできているので、金属製のカバーを作成して取り付けたり、ケーブルを交換したり、調整が必要なんです。他にもクリーンチャンバに持ち込む器具は、アルコールや超純水による超音波洗浄を半日程かけて念入りに行いますし、そういった準備にも気を使いましたね。

宮﨑: 他には、リハーサルを何回もしたのを思い出しますね。

与賀田: 本物の試料に混入してはいけないので、明らかに違うものだと判別できる、アルミビーズや青い鉱物、時には空の容器を使ってリハーサルを行っていました。

リュウグウ試料に関しては、想定の50倍を超える約5.4gの試料が採取できたという、嬉しいニュースが有名ですが、実際に開封作業を行った際はどんな感じでしたか?

samples
Yada Toru, et al. Preliminary analysis of the Hayabusa2 samples returned from C-type asteroid Ryugu, Nature Astronomy, 2021より引用

与賀田: サンプルキャッチャの蓋を開けて、1人ずつ順番に中を見ました。人それぞれの反応があったんですが、私は「うわ…!やばい…。」というのが1番に頭をよぎりました。粒子を入れる容器の開発や準備を担当していたので、見てすぐにこの量では容器が足りないと思ったのと、1粒のサイズも想定より大きかったので心配になりました。「まずは追加発注をしなきゃ…!でも納期は間に合うだろうか…。」そんなことを考えていましたね。

宮﨑: 私は単純に、「多いな。想像よりもかなり黒いな。」と。見た瞬間は具体的な作業についてあまり考えていなかったので、そこまで危機感を覚えていませんでしたが、クリーンチャンバの周りで話し合いが始まって、そこで「あ、確かに入らないな…。」と把握した感じです。

与賀田: 探査機に携わっていた方々は、試料を持ち帰るという目標を達成できてガッツポーズするほど喜んでいましたが、キュレーターにとってはそこからが本番なので、冷静に今後の方針を議論していました。

その後、どのようにキュレーション作業が進められたのでしょうか?

与賀田: 開封後は様々な作業を進めていきました。大変だったのが最初の分析チームへの配分。配分量は総量に対する割合で決まっているので、採取した試料が多いとその分、作業量も増えるんです。帰還後半年と定められた配布期限に間に合うよう、作業工程を組み替えて、とにかくできることから作業を進めていました。最終的には期限までにデータを取得する量を調整させてもらいましたが、配分試料の絶対量は多くなっているので分析チームの方々も喜んでくれました。

宮﨑: 1粒子に対する基本的なキュレーション作業としては、サンプルキャッチャから試料をピックアップして専用容器に入れ、顕微鏡での写真撮影、重量測定、分光装置(2種類)による分析、画像解析を使用した大きさの測定等を行い、データベースへの登録を行った後、梱包し、発送するという流れです。アナログな手動作業が多いので大変ですけど、ピックアップするのは楽しいですね~!

与賀田・長島: ピックアップは楽しいです!

C0149
「はやぶさ2」 リュウグウからのサンプルC0149
長径2.1mm 重さ2mg

長島: 与賀田さんは写真撮影の角度もこだわっていますよね。

宮﨑: 推しの粒子がありますよね(笑)

与賀田: ピックアップ時点で、「あ!あの粒子、他とはちょっと違う…!」っていう粒子がありますね。見た目がキラキラしていたり、他とは違う色をしていたりするんですよ。

宮﨑: 私の推しはスタイリッシュな形をしている粒子かな?カラスやハート、ウリ坊に似た形の粒子なんかもあって、「今日はこんな粒子がありました」って皆で共有しています。

長島: 私は自分が拾った粒子が推しですね。これはキュレーション作業に参加し始めた頃に自分が拾った粒子だっていうのが分かります。試料を分配するときは、研究者から希望の粒子を選んでいただくんですけど、「あ、この子1度も選ばれたことがない…」っていう粒子はちょっと心配になります。

与賀田: 「あ、あの子選ばれたんですかー!」っていう時もありますよね。ピックアップした粒子にはID(例:A0001)がつくんですけど、自分の推し粒子や拾った粒子には愛着があるので、IDまでめっちゃ覚えています(笑) 2021年度相模原キャンパス・オンライン特別公開では、地球外物質研究グループメンバー内で推し粒子総選挙を実施し、上位3位に選ばれた粒子を紹介しました。動画は今も公開中なので、是非皆さんにご覧になっていただきたいです!

キュレーション作業の中で一番大変な作業は何ですか?

クリーンチャンバでの粒子ピックアップ作業
クリーンチャンバでの粒子ピックアップ作業の様子

宮﨑: 空容器の重量測定が辛いですね。

与賀田: 粒子を入れる前の容器の重さも必ず測定するんです。異物が入っていないか確認するための大事な作業なんですけど、大変なんですよね。

宮﨑: 試料が入っていれば楽しいんですけどね~…!

長島: 私は集合体分取が辛いです。粒子を1粒ピックアップするのとは違って、細かい試料を指定された重さに取り分ける作業なんですけど、スパチュラ(耳かき状のヘラ)ですくって、容器に入れて、重さを測って、「まだ足りない…。」とか、「取りすぎた…。」とかを何度も何度も繰り返すのが精神的にきつい…!

試料を扱う時に気を付けていることは?

与賀田: 研究者に試料を渡す前に情報を失ったり、変えてしまったりしてはいけないので、汚さないように、壊さないように、分析技術にもかなり気を使っています。

長島: すごく貴重な試料だということは意識しています。代えのない試料なので、少しでも扱いを間違ってはいけないと思って仕事に挑む感じです。

今後の予定は?

与賀田: 第1回国際研究公募が行われ、その選定結果に基づいて2022年6月末から分配が始まりました。それから半年毎に計4回の国際研究公募が実施予定なので、今後はそれに向けてキュレーション作業を進めることになります。

宮﨑: ピックアップして、測定して、梱包して、発送して…という作業を変わらず、ずーっとずーっと続けることになります。

長島: 海外へ分配する際の発送手続き書類の作成等もキュレーターが行います。実はこの対談に来る直前まで発送伝票を書いていて、今も結構忙しいです。

宮﨑: 1日にキュレーションできるのはたったの10粒子。まだまだ大きな粒子が沢山残っているので、全て終わるまで後何年かかるかはまだ分かりません。

今回の対談メンバーは全員女性ということで、他の研究グループと比較しても地球外物質研究グループは女性率が高いとのことですが、職場の雰囲気などはいかがですか?

長島: リュウグウ試料のキュレーションに携わっている人の半分程度が女性ですね。

宮﨑: 以前、ISAS全体で開催された女子ランチ会に参加したことがありますが、女性キュレーターの割合が多くて、その時もこんな話題になった気がします。女性が多いのは何故なんでしょうね?確かに、居心地は悪くなく、のびのびやらせていただいています。

与賀田: ママさんも多くいらっしゃって、休みもしっかり取れているようです。そういった先輩方をこれまで沢山見てきている安心感はあります。

長島: 仕事で鬱憤が溜まったときも、「こんなことあったんですけど…!」とすぐに相談してすっきりできる環境な気はします。

宮﨑: 雑談も含めてコミュニケーションを取る機会は多くて、一緒に作業するパートナー職員の方々から、これまでに携わってきた研究作業について話を聞いたりするのもすごく楽しいですね。

与賀田: 我々3人は隕石分野出身ですが、最近は全然違う分野出身の方も多くて、多様化しています。古生物や地質、化学分析、工学系分野出身の方もいらっしゃるので、石を扱ったことのない方でも是非キュレーターを目指してほしいです。

今後はリュウグウ試料だけでなく、NASAの「OSIRIS-REx」が持ち帰る小惑星Bennu試料や、火星衛星探査計画「MMX」が持ち帰る火星の月であるPhobos試料のキュレーションも予定されているそうですが、計画中のミッションに限らず、「この星の試料をキュレーションしてみたい!」というのはありますか?

長島: 小惑星より惑星の試料を見たい。近くの惑星よりもっと遠くの惑星の試料を見たい!欲はどんどんどんどん…(笑)自分でサンプルリターンもしたいです。次こそは宇宙飛行士に応募してみようかな!

宮﨑: 最近Phobos試料のシミュラント(模擬試料)を見せてもらったんですが、リュウグウ試料が真っ黒だったのに対して、灰色をしていて、「全然色が違う!」と思ったんです。「本物はどうなっているんだろう?」という興味は湧いてきますね。「Bennuの試料⁉ Phobosの試料?是非見てみたいなー!」という感じで、新しい試料が来たら見たいなー!って思うんですが、私は、実物がないとちょっと興味は湧かなくて…ごめんなさい(笑)

与賀田: 私が圧倒的に見たいのは、太陽系外の試料!遠くへ行きたいです。ゆくゆくは太陽系外でのサンプルリターンも期待しています。探査機の運用や開発にも興味があるので、プロジェクト側として携わったものの試料をキュレーションできれば最高ですね!

リュウグウの模型と一緒に:左から長島氏、与賀田氏、宮﨑氏

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