「はやぶさ2#」の旅路から、惑星間塵の分布の検出に成功 ~NASAの探査機が観測して以来約半世紀ぶりの成果~

津村 耕司・東京都市大学

図1
図1 「はやぶさ2」での観測のイメージ (イラスト:木下真一郎)

小惑星探査機「はやぶさ2」が2020年12月6日の地球帰還後、別の小惑星へ向かう「はやぶさ2」拡張ミッション(「はやぶさ2#(シャープ)」)の航行中に黄道光観測を実施し(図1)、内惑星領域における惑星間塵の分布を計測することに成功しました。惑星間塵は太陽系内を浮遊する小さな塵(ダスト)であり、太陽系内に存在する最小の天体です。それらがどこで形成され、太陽系内をどのように移動しながら分布しているのかを探ることは、太陽系の進化史を探る上で重要です。本成果は惑星間空間を航行する「はやぶさ2」探査機の光学カメラ(ONC-T)を利用して黄道光を長期間観測することで、地球近傍からの黄道光観測では得られない惑星間塵の分布情報の取得に成功したものです。これは、1970年代に米航空宇宙局(NASA)の探査機が黄道光を観測して以来、約半世紀ぶりの成果となりましたが、当時と比べて観測装置の性能は格段に向上しており、解析手法も洗練されています。

研究概要

図2
図2 黄道光観測のイメージ。惑星間塵による太陽光の散乱光を、視線方向の重ね合わせとして見えているのが黄道光である。「はやぶさ2」は地球軌道の内側、0.7-1.0 auの範囲を飛行している。

黄道光*1は、太陽系内に漂う惑星間塵*2が太陽光を散乱することで生じる淡い光です(図2)。惑星間塵は太陽系内に存在する最小の天体であり、それがどこで形成され、太陽系内をどのように移動しているのかを黄道光の観測を通して探ることで、惑星や小惑星の研究とは別の側面から太陽系のダイナミックな変化を知ることができます。本研究では、「はやぶさ2# 」(はやぶさ2拡張ミッション)において、2021年から2022年にかけて、搭載の光学航法望遠カメラ(ONC-T)により日心距離*3 0.76 auから1.06 auの範囲で黄道光の観測を成功させ(図3)、太陽系の内惑星領域における惑星間塵の分布情報が得られました。今回の観測で地球近傍での惑星間塵の濃度がべき乗則*4に従うことが明確に示されました(図4)。観測されたべき指数が示す惑星間塵の濃度は、惑星間塵の太陽への落下のみを考慮した標準的な理論と比べて、太陽に近づくほど予測より濃くなることを示しています。この結果は、惑星間塵の太陽への落下についての新たな物理があるか、地球近傍で惑星間塵が生成されるなどの知られていない天体現象があることを示唆しています。これは地球近傍からの黄道光観測では得られない情報であり、惑星間を航行する「はやぶさ2」を用いたからこそ達成できた成果です。これは、1970年代にPioneer 10号・11号とHelios A号・B号というNASAの探査機が黄道光を観測して以来、約半世紀ぶりの成果となりましたが、当時と比べて観測装置の性能は格段に向上しており、解析手法も洗練されています。この観測結果はこれらの先達と同様に、太陽系進化の理解にとって必要な惑星間塵の分布と移動を制約する重要な観測結果として、今後長く引用されることになるでしょう。

図3
図3 「はやぶさ2」が観測した画像の例(2022年8月29日、おうし座の方向)。ONC-Tの視野サイズ(画角)は一辺6.27度と広く、この広い視野が空に大きく拡がった黄道光の観測に適しいる。このような観測された画像から、検出された星をマスクし、何も映っていない領域の明るさを導出することで黄道光を求めている。右図は明るい星を同定したもので、Tauはおうし座を表す。

本成果は「はやぶさ2#」における最初の科学成果となりました。従来の惑星探査ミッションの多くでは、探査機が目的の天体に到着するまで観測装置を温存するのに対して、日本の惑星探査機では「のぞみ」、IKAROS、EQUULEUSなど、クルージング期間を積極的に利用した「クルージングサイエンス」が長らく実施されてきており、本成果も新たな一例となりました。特に今回は「はやぶさ2」探査機を、工学的な制約を乗り越えて「惑星間空間を航行する天文台」として活用し、天文観測を実現することで、天文学・惑星科学・宇宙工学の学際的協調という、まさに日本の宇宙科学を象徴する成果を挙げたと言えます。

図4
図4 「はやぶさ2#」で観測した黄道光の明るさの日心距離依存性

この成果を受け、「はやぶさ2」探査機による黄道光観測(およびより発展的な観測)は今後も継続され、特に2028年に予定されている地球スイングバイ以降は、地球公転軌道の外側(1-1.5 auの範囲)での黄道光観測の実現を目指します。さらに、将来の惑星探査機による黄道光観測も検討されています。

今回の成果は、惑星間塵の研究だけでなく、黄道光に埋もれた遠方の銀河や初期宇宙から来る微弱な宇宙背景光を観測するためにも役に立ちます。私たちの国際研究チームでは、2023年冬に打上げ予定のNASAロケット実験CIBER-2や将来の惑星探査機により、黄道光や宇宙背景光をさらに詳しく観測する予定です。

用語解説

  • *1 黄道光 : 惑星間塵*2が太陽光を散乱することによって、黄道に沿った領域がほんのりと光る現象を黄道光と呼ぶ。地球上でも暗い場所では、日没後や日の出前に黄道光を肉眼で見ることが可能。
  • *2 惑星間塵 : 太陽系内を漂う塵(ダスト)。小惑星同士の衝突や彗星からの放出などによって宇宙空間に放出されている。惑星間塵は現在も、毎日100トンほど地球に降り積もっていると見積もられている。
  • *3 日心距離 : 太陽からの距離のこと。単位は一般的に地球と太陽の平均距離に由来する距離の単位であるau(天文単位)が用いられる。 1 au = 149,597,870,700 m (約1億5000万 km)
  • *4 べき乗則 : ある観測量が別の観測量のべき乗に比例する関係。物理法則をはじめ、多くの自然現象や社会現象はべき乗則で記述できる。本研究では、惑星間塵の個数密度 n が太陽からの距離 r のべき乗則に従う、つまりn(r)∝r(αをべき指数という)の関係がなりたつことを示し、べき指数を正確に決めることができた。

論文情報

雑誌名 Earth, Planets and Space
論文タイトル Heliocentric Distance Dependence of Zodiacal Light Observed by Hayabusa2#
DOI https://doi.org/10.1186/s40623-023-01856-x
発行日 2023年8月22日
著者 Kohji Tsumura, Shuji Matsuura, Kei Sano, Takahiro Iwata, Hajime Yano, Kohei Kitazato, Kohji Takimoto, Manabu Yamada, Tomokatsu Morota, Toru Kouyama, Masahiko Hayakawa, Yasuhiro Yokota, Eri Tatsumi, Moe Matsuoka, Naoya Sakatani, Rie Honda, Shingo Kameda, Hidehiko Suzuki, Yuichiro Cho, Kazuo Yoshioka, Kazunori Ogawa, Kei Shirai, Hirotaka Sawada, Seiji Sugita
ISAS or
JAXA所属者
岩田隆浩(宇宙科学研究所 太陽系科学研究系)、矢野創(宇宙科学研究所 学際科学研究系)、早川雅彦(宇宙科学研究所 太陽系科学研究系)、横田康弘(宇宙科学研究所 月惑星探査データ解析グループ)、坂谷尚哉(宇宙科学研究所 太陽系科学研究系)、小川和律(国際宇宙探査センター火星衛星探査機プロジェクトチーム)、澤田弘崇(国際宇宙探査センター火星衛星探査機プロジェクトチーム)

関連リンク

執筆者

津村 耕司(TSUMURA Kohji)
東京都市大学 理工学部 自然科学科 准教授。2010年に東京大学にて博士(理学)を取得。宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 宇宙航空プロジェクト研究員、東北大学 学際科学フロンティア研究所 助教を経て、2019年より現職。

ISAS共著者からひとこと

宇宙塵とは宇宙空間に存在する1mmに満たない固体微粒子で、宇宙科学の中でも特に、顕微鏡、望遠鏡、探査機の全てで直接調査できるユニークな研究対象です。つまり、物質科学と天文学と宇宙探査を統合することで全体像が見えてくる、宇宙科学における学際研究の好例です。

地球近傍における宇宙塵計測・捕集は、人類の宇宙進出直後から開始された最も歴史の古い宇宙科学研究の一つであり、彗星や小惑星起源の宇宙塵の物質分析から、原始太陽系の物質情報や、海水や生命材料が地球へもたらされる過程の理解に貢献しています。「はやぶさ」と「はやぶさ2」はまさに「宇宙塵のふるさと」を直接訪問して、地質学的情報を持った宇宙塵を地球に持ち帰ったわけで、地球近傍で採取されても母天体が不明な宇宙塵を分析してきた従来の宇宙物質研究を大きく飛躍させました。

一方、太陽光を宇宙塵が散乱する「黄道光」の光学・赤外観測では、現在の太陽系における微粒子分布構造を解明することで、系外惑星系円盤を理解する上での基礎情報を得たり、黄道光の背景に輝く恒星の観測データをより正確に校正できるようになります。今回の研究成果は、惑星間航行中のはやぶさ2探査機に搭載された光学カメラを使って黄道光観測に成功したことで得られました。特に地球の公転軌道より内側の宇宙塵分布構造は、探査機がその場観測することで初めて得られるため、はやぶさ2拡張ミッションの軌道計画ならではの成果と言えます。

一般に太陽系探査と聞くと、目標天体への到着後に科学観測が始まると思っている方も多いかも知れません。しかし実は、「のぞみ」、「イカロス」、「ベピコロンボ」、「エクレウス」などのISASの惑星探査機では、惑星間航行の最中にも、宇宙塵環境や電磁気圏環境の連続的観測を行う「クルージングサイエンス」を実施して、各ミッションの科学成果を最大化する伝統が継承されてきています。今回はその系譜に、黄道光観測という新たな可能性を書き足したとも言えましょう。

火星以遠の遠方天体への探査が世界的に増える2020年代以降の宇宙科学にとって、目標天体に到達する以前の長い惑星間航行中であっても、早期から頻度高く科学成果を創出できる「クルージングサイエンス」は、ますます重要になるでしょう。そうした観点からも、理工学兼用カメラをクルージングサイエンスに有効活用した今回の成果は、今後の深宇宙探査における科学観測の新たな機会を世界に示したと思います。

矢野 創(YANO Hajime)
宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所・学際科学研究系助教。Ph.D.、PMP。専門は太陽系探査科学、アストロバイオロジー。英国ケント大学大学院宇宙科学科博士課程修了。はやぶさサンプラ、イカロスALADDIN、たんぽぽ1&2捕集パネル、エクレウスCLOTH等、我が国独自のダスト計測器・捕集器のPIを歴任。ISAS宇宙工学委員会OPENS WG共同代表、JAXA惑星等保護審査部会・部会長代理等も務める。
宇宙科学研究所研究者総覧「あいさすmap」矢野 創