日本以外では初めての小惑星リュウグウ粒子の一般公開として、英国ロンドンのサイエンス・ミュージアムおよびフランス・トゥールーズのシテ・ド・レスパスの2か所で展示が開始されました。

2020年12月、「はやぶさ2」は小惑星リュウグウから採取したサンプルを地球に届けました。その後、この粒子を対象とした研究がいくつも行われ、リュウグウが太陽系のごく初期に形成されたこと、またこの粒子が惑星を形成した材料物質をそのまま含むいわばタイムカプセルであり、地球がどのようにして生命居住可能な世界になったのかを理解する手がかりを握っていることが明らかになってきています。

サンプルの入ったコンテナは地上物質からの汚染を防ぐために密閉された上でカプセル内に設置されオーストラリアのウーメラ砂漠に着地しました。現在、世界中の研究施設で粒子の分析が行われています。

そして今年9月、ロンドンのサイエンス・ミュージアムおよびトゥールーズのシテ・ド・レスパスの2か所で、小惑星リュウグウの粒子が一般に公開されました。

これらの展示が小惑星の粒子をより多くの方に見ていただける機会となる、と藤本正樹 宇宙科学研究所副所長が以下のように意気込みを語ります。

「母なる惑星・地球の形成プロセスについて雄弁に物語ってくれる、これほどまでに貴重なサンプルを『はやぶさ2』がリュウグウから持ち帰る、という大成功を収めた裏には国際協力が不可欠でした。この興奮を世界中の人々と分かち合いたいと思い立ってから1年半ほどの間話し合ってきたことが、トゥールーズのシテ・ド・レスパスとロンドンのサイエンス・ミュージアムでの展示という形でついに実を結んだことを、とても嬉しく思います。実際に粒子を目にすることは、これらのサンプルを地球に届けたチームのエフォートについてだけでなく、私たちの住む地球の存在が "決して当たり前ではない" ということを考えるきっかけを人々に与えてくれることしょう。」

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サイエンス・ミュージアムにて展示の準備をする様子。黒い箱は日本から英国へサンプルを運ぶため使用されたもので、そこに収められていた(右側の女性が持つ)金属製の円筒、施設間輸送コンテナにリュウグウ粒子が入っている。(Credit: Science Museum Group)

サイエンス・ミュージアムでの展示は2023年9月7日に一般公開され、小惑星リュウグウの粒子だけでなく「はやぶさ2」の探査機模型もあって、ミッションの全体像も把握することが出来ます。見学は無料で、サイエンス・ミュージアム内 の "Exploring Space" というギャラリーの一画に展示されています。

サイエンス・ミュージアムで宇宙テクノロジー担当の学芸員を務めるヘザー・ベネット氏は、この展示の開始のタイミングが、「はやぶさ2」のリュウグウに次いでNASAの「OSIRIS-Rex」が小惑星ベヌー(Bennu)から粒子を地球に持ち帰る直前であることに触れ、以下のように話します。

「この驚くべき小惑星サンプルを英国で初めて公開できることに、私たちは興奮しています。サイエンス・ミュージアムでの新企画である無料展示では地球から何百万キロも離れた場所から来た信じがたいほど太古の物体を、人々は目にすることが出来るのです。この展示は、小さいながらも重要な小惑星のかけらを地球に届けるために開発された最先端のさまざまな技術を称えて、JAXAの『はやぶさ2』ミッションの成功を通して今日の宇宙探査への広い視野を持つ機会を与えるものです。

『はやぶさ2』展示企画を通して、科学者たちが小惑星を研究して太陽系や生命の起源についてより多くを明らかにすることを可能にするのはどんな技術か、といったことを探求してもらいたいと思います。ここには『はやぶさ2』探査機の20分の1サイズ模型や粒子の拡大レプリカも同時に展示されています。さらにこの展示は、OSIRIS-Rex によるNASA初のサンプルリターンミッションが2023年9月24日に小惑星ベヌーから地球への帰還を予定するタイミングに公開されました。」

「はやぶさ2」とOSIRIS-Rexの両ミッションは緊密に協力しており、2つの小惑星の世界初の比較研究を行うため、お互いのサンプル交換を行うことになっています。

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サイエンス・ミュージアムでの展示(Credit: Science Museum Group)

また、サイエンス・ミュージアムでは9月13日にパネルディスカッションを開催し、小惑星が地球に生命を芽生えさせるきっかけとなった可能性、また小惑星の衝突が生命を絶滅させる可能性もあること、の両方について議論が行われました。JAXA宇宙研副所長と3人の英国の科学者が参加しました。

宇宙開発をテーマにしたテーマパーク「シテ・ド・レスパス」での展示はトゥールーズでラグビーワールドカップの日本対チリ戦が開催された週末、9月9日から公開されました。公開初日には、藤本副所長、フランス国立宇宙研究センター(CNES)のオレリー・ムッシ氏、天体物理学研究所のジャン-ピエール・ビブリング氏による座談会も行われました。

会場ではリュウグウの粒子2個に加え、CNESから貸し出された「はやぶさ2」探査機模型も展示されています。

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シテ・ド・レスパスで開催されたリュウグウ粒子展示(展示の様子は写真上部に投影されたスライド参照)のオープニングを記念した、ラウンドテーブルディスカッション。展示の様子を映した上部の画像では左から、藤本正樹宇宙科学研究所副所長(JAXA)、ジャン-ピエール・ビブリング氏(仏・天文物理学研究所)、オレリー・ムッシ氏(CNES)。写真下方、ラウンドテーブルの会場では左からムッシ氏、クリストフ・シャファルドン氏(シテ・ド・レスパス)、藤本副所長、ビブリング氏。4人の登壇者の目の前に置かれているのは、JAXA主導の火星衛星探査計画(MMX)で搭載されることになるフランス・ドイツ共同開発のローバの模型。(Credit: M. Huynh)

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シテ・ド・レスパスでの展示初日にはビブリング氏、ムッシ氏、藤本副所長がミッションや科学成果について議論する場を来場者も見学することが出来た。 (Credit: M. Huynh)

2か所での展示は来年いっぱい開催されます。詳しくはそれぞれのウェブサイトをご確認ください。