リュウグウのような1km程度の小惑星は、太陽系初期に形成した大きな母天体の衝突破壊で産まれたと考えられている。本研究は、母天体からリュウグウへの進化の全体像を提唱した。
リュウグウの母天体が小惑星ポラナかオイラリアである可能性が高い。また、地球で得られていない未知の物質の可能性を別にすれば、リュウグウの表面物質の色は、部分的な加熱脱水を経た炭素質コンドライトと最もよく合う。さらに、リュウグウ表面の岩塊の色の分布は、母天体内の異なる加熱脱水条件で形成した物質の混合で説明できる。ポラナとオイラリアは、C型小惑星(含水鉱物や炭素を含む)の破片を地球に最も多く供給している天体である。小惑星帯から地球が受け取ってきた水や炭素の量は、母天体内での加熱脱水反応の軽重で決まっているのかもしれない。

研究の背景

リュウグウのように直径1km程度の小さな小惑星は、太陽系の歴史では比較的最近(数億年以内)に母天体の衝突破壊で産まれたと考えられている。リュウグウからの回収試料と太陽系の起源を結びつけるには、リュウグウ自身の進化と共にリュウグウの母天体の素性にまで踏み込んで調べることが重要である。
小惑星の親子関係を調べるには、軌道の整合性と反射スペクトルの類似性が使われる。事前の軌道情報と広義のスペクトル型(C型)から、リュウグウの母天体には複数候補(エリゴネ(直径69km)、ポラナ(直径約55km)、オイラリア(直径37km))が挙がっていた。しかし、エリゴネが含水鉱物を多量に含むCh型なのに対し、ポラーナとオイラリアは含水鉱物の明確な特徴を持たないBないしCb型という重要な差があった。

研究内容と結果

光学航法カメラ(ONC)、熱赤外カメラ(TIR)、レーザ高度計(LIDAR)から得られる全球観測データ用いて、リュウグウの地質史を明らかにし、母天体の素性解明に迫った。

  • 母天体はポラナかオイラリア
    リュウグウは、ポラナないしオイラリアから産まれた可能性が高いことが分かった。
    スペクトル型はCbで確定し(顕著な0.7μmの吸収帯が存在せず、可視光全波長域でほぼ一定の反射率を持っている(可視カメラのデータ))、両小惑星と合致する。
    対抗馬エリゴネはスペクトルの特徴が合わないために候補から外れた。
    ポラナとオイラリアのどちらが本当の親かはまだ分からないが、両者は非常に良く似ているので母天体進化を考える上では、この不確定性の影響は少ない。
  • 表面年代は若い
    多数の衝突クレーターが見つかったが、小さいクレーターは極めて少なかった。小クレーターは表面の地震動(主因は恐らく天体衝突)などで地形が崩されて消えたと推測される。
    崖崩れの証拠も多く見つかった(レーザ高度計のデータ)。こうした地質活動による表面更新のスピードはかなり速い。表層1m程度は、100万年程度以下で物質が入れ替わっている可能性が高い。これは、リュウグウ表面に新鮮な物質が存在する可能性を示唆する。
  • 岩塊の性質
    リュウグウ表面の岩塊の圧倒的多数は、リュウグウの平均値と同じ可視スペクトルを持つ。これは、母天体内部がかなり均一だったことを窺わせる。その一方、少数ながら、平均値と異なるスペクトルを持つ岩塊もある。これらは形態的特徴も平均的な岩塊と異なるため、母天体で経験した温度圧力が異なっている可能性が高い(宇宙風化のような表面的な原因ではない)。
    これらのスペクトルの詳細分析からは、2つの傾向が見つかった。1つは、炭素質コンドライトの加熱脱水線と一致する。もう1つは、加熱脱水度の低い炭素質コンドライトと加熱脱水度の高い炭素質コンドライトの混合で説明できる。
    さらに熱赤外カメラから、岩塊の熱伝導率は非常に低く、小石を寄せ集めた塊と同等であることが判明した。さらに、高解像度画像から、衝突角礫岩の特徴を持つ岩塊が幾つも見つかった。こうした証拠から、リュウグウの岩塊は内部に空隙を多く含む角礫岩状の構造を持つと推定される。

母天体からリュウグウへの進化

上記の結論から、母天体における水質変成、加熱脱水変成、衝突破壊と再集積を経た進化の概略が浮かび上がってくる(下図)。進化のシナリオには複数候補が残っているが、現在までのデータに基づくと内部加熱(シナリオ1)の可能性が高い。

母天体からリュウグウ形成までの進化概略図

母天体からリュウグウ形成までの進化概略図(画像クレジット 杉田精司ら)

将来展望:取得試料への期待

ポラナとオイラリアは、地球に最も多くの破片を供給してきたC型小惑星である。C型小惑星は含水鉱物や炭素を含むため、地球の表層環境の進化にも大きな影響を与えてきた可能性がある。これは、リュウグウという小惑星が地球や生命の歴史を考える上でも大変に重要な情報を届けてくれる可能性を示唆するものである。
また、ポラナとオイラリアは、衝突分裂の推定年代が大きく異なるので、回収試料分析からどちらが本当の親か確定できる可能性が残っている。
これらの可能性は、リュウグウ試料分析の重要性をいっそう強く示すものである。文献によっては、ポラナやオイラリアのスペクトル型をF型とするものもあるが、これは以前よく使われていた分類法による型である。本質的にはBやCbと同じである。

本研究は米国の科学雑誌『Science』に掲載されています。
(S. Sugita et al. 2019, "The geomorphology, color, and thermal properties of Ryugu: Implications for parent-body processes", Science, 19 March, 2019)
DOI: 10.1126/science.aaw0422

また本研究は、科学研究費助成事業(JP25120006, 17H01175, JP17H06459, JP17K05639, HP16H04059, JP17KK0097, JP26287108, JP16H4044)、研究拠点形成事業(International Network of Planetary Sciences)、並びにフランス宇宙機関CNES, Academies of Excellence:Complex systems and Space, environment, risk , and resilience, European Union's Horizon 2020 Research and Innovation Programme (687378), NASA Hayabusa2 Participating Scientist Programの助成を受けて行われました。

論文著者、所属機関

S. Sugita1,2, R. Honda3, T. Morota4, S. Kameda5, H. Sawada6, E. Tatsumi1, M. Yamada2, C. Honda7, Y. Yokota6,3, T. Kouyama8, N. Sakatani6, K. Ogawa9, H. Suzuki10, T. Okada6,1, N. Namiki11,12, S. Tanaka6,12, Y. Iijima, K. Yoshioka1, M. Hayakawa6, Y. Cho1, M. Matsuoka6, N. Hirata7, N. Hirata9, H. Miyamoto1, D. Domingue13, M. Hirabayashi14, T. Nakamura15, T. Hiroi16, T. Michikami17, P. Michel18, R. -L. Ballouz6,19, O. S. Barnouin20, C. M. Ernst20, S. E. Schröder21, H. Kikuchi1, R. Hemmi1, G. Komatsu22,2, T. Fukuhara5, M. Taguchi5, T. Arai23, H. Senshu2, H. Demura7, Y. Ogawa7, Y. Shimaki6, T. Sekiguchi24, T. G. Müller25, A. Hagermann26, T. Mizuno6, H. Noda11, K. Matsumoto11,12, R. Yamada7, Y. Ishihara6†, H. Ikeda27, H. Araki11, K. Yamamoto11, S. Abe28, F. Yoshida2, A. Higuchi11, S. Sasaki29, S. Oshigami11, S. Tsuruta11, K. Asari11, S. Tazawa11, M. Shizugami11, J. Kimura29, T. Otsubo30, H. Yabuta31, S. Hasegawa6, M. Ishiguro32, S. Tachibana1, E. Palmer13, R. Gaskell13, L. Le Corre13, R. Jaumann21, K. Otto21, N. Schmitz21, P. A. Abell33, M. A. Barucci34, M. E. Zolensky33, F. Vilas13, F. Thuillet18, C. Sugimoto1, N. Takaki1, Y. Suzuki1, H. Kamiyoshihara1, M. Okada1, K. Nagata8, M. Fujimoto6, M. Yoshikawa6,12, Y. Yamamoto6,12, K. Shirai6, R. Noguchi6, N. Ogawa6, F. Terui6, S. Kikuchi6, T. Yamaguchi6‡, Y. Oki1, Y. Takao1, H. Takeuchi6, G. Ono27, Y. Mimasu6, K. Yoshikawa27, T. Takahashi6, Y. Takei6,27, A. Fujii6, C. Hirose27, S. Nakazawa6, S. Hosoda6, O. Mori6, T. Shimada6, S. Soldini6, T. Iwata6,12, M. Abe6,12, H. Yano6,12, R. Tsukizaki6, M. Ozaki6,12, K. Nishiyama6, T. Saiki6, S. Watanabe4,6, Y. Tsuda6,12

1. The University of Tokyo, Tokyo 113-0033, Japan.
2. Planetary Exploration Research Center, Chiba Institute of Technology, Narashino 275-0016, Japan.
3. Kochi University, Kochi 780-8520, Japan.
4. Nagoya University, Nagoya 464-8601, Japan.
5. Rikkyo University, Tokyo 171-8501, Japan.
6. Institute of Space and Astronautical Science (ISAS), Japan Aerospace Exploration Agency (JAXA), Sagamihara 252-5210, Japan.
7. University of Aizu, Aizu-Wakamatsu 965-8580, Japan.
8. National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, Tokyo 135-0064 Japan.
9. Kobe University, Kobe 657-8501, Japan.
10. Meiji University, Kawasaki 214-8571, Japan.
11. National Astronomical Observatory of Japan, Mitaka 181-8588, Japan.
12. SOKENDAI (The Graduate University for Advanced Studies), Hayama 240-0193, Japan.
13. Planetary Science Institute, Tucson, AZ 85719-2395, USA.
14. Auburn University, Auburn, AL 36849, USA.
15. Tohoku University, Sendai 980-8578, Japan.
16. Brown University, Providence, RI 02912, USA.
17. Kindai University, Higashi-Hiroshima 739-2116, Japan.
18. Université Côte d'Azur, Observatoire de la Côte d'Azur, Centre National de le Recherche Scientifique (CNRS), Laboratoire Lagrange, 06304 Nice, France.
19. University of Arizona, Tucson, Arizona 85705, USA.
20. Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory, Laurel, MD 20723, USA.
21. German Aerospace Center (DLR), Inst. of Planetary Research, Berlin 12489, Germany.
22. International Research School of Planetary Sciences, Università d'Annunzio, Pescara 65127, Italy.
23. Ashikaga University, Ashikaga 326-8558, Japan.
24. Hokkaido University of Education, Asahikawa 070-8621, Japan.
25. Max-Planck-Institut für extraterrestrische Physik, Garching 85748, Germany.
26. University of Stirling, FK9 4LA, Scotland, UK.
27. Research and Development Directorate, JAXA, Sagamihara 252-5210, Japan.
28. Nihon University, Funabashi 274-8501, Japan.
29. Osaka University, Toyonaka 560-0043, Japan.
30. Hitotsubashi University, Tokyo 186-8601, Japan.
31. Hiroshima University, Higashi-Hiroshima 739-8526, Japan.
32. Seoul National University, Seoul 08826, Korea.
33. NASA Johnson Space Center, Houston, TX 77058, USA.
34. Laboratoire d'Etudes Spatiales et d'Instrumentation en Astrophysique (LESIA)-Observatoire de Paris, Paris Sciences et Lettres (PSL), Centre National de le Recherche Scientifique (CNRS), Sorbonne Univ., Univ. Paris-Diderot, 92195, Meudon Principal Cedex, France.

(2019.4.19追記)サイエンス誌 2019年4月19日号に紙面掲載されました。

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