運用中小惑星探査機「はやぶさ2」

「はやぶさ」後継機として小惑星サンプルリターンを行う小惑星探査機。「はやぶさ」が探査した小惑星イトカワ(S型)とは別の種類の小惑星(C型)を探査することで、惑星の起源だけでなく地球の海の水の起源や生命の原材料をも探求する。

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「はやぶさ2」は、基本的には「はやぶさ」で行ったサンプルリターン方式を踏襲しました。ただし、より確実にミッションを行えるよう、信頼性を高める様々な改良が加えられました。またその一方で、小惑星表面に人工的なクレーターを作り、地下のサンプルを持ち帰るといった、新しい技術を使ったミッションにも挑戦しました。太陽系天体探査技術を向上させることも、「はやぶさ2」の重要な目的です。

「はやぶさ2」の目標天体であった小惑星リュウグウ (162173)はC型の小惑星ですが、太陽系が生まれた頃(今から約46億年前)の水や有機物が、今でも残されていると考えられています。地球の水はどこから来たのか、生命を構成する有機物はどこでできたのか。そのような疑問を解くのが「はやぶさ2」の目的です。また、最初にできたと考えられる微惑星の衝突・破壊・合体を通して、惑星がどのように生まれたのかを調べることも「はやぶさ2」の目的です。つまり、「はやぶさ2」は、太陽系の誕生と生命誕生の秘密に迫るミッションなのです。

「はやぶさ2」は、2018年6月27日にリュウグウに到着、2019年に2回のタッチダウンによって試料を回収し、2020年12月6日に無事に地球に試料が入ったカプセルを届けました。「はやぶさ2」探査機は現在拡張ミッションへ移行し、小惑星1998 KY26に接近して観測を行うことが計画されています。

小惑星探査機「はやぶさ2」拡張ミッション (「はやぶさ2♯」)


「はやぶさ2」は2020年12月に地球帰還後、カプセルを分離して、また新たな深宇宙の旅へと飛び立ちました。現在は、半分近く残ったイオンエンジンの燃料(キセノン)を活用し、拡張ミッションを開始しています。次の目標は1998 KY26という小惑星で、到着は2031年。その間、2026年に小惑星2001 CC21へのフライバイや、2027年、2028年には2回の地球スイングバイを予定しています。

この拡張ミッションの最終目標天体である1998 KY26は、直径数10mというとても小さな天体で、自転周期10分という非常に早い自転速度から、高速自転小惑星(Fast Rotator)と呼ばれます。「小さくて、回転が速い」という特性が、小惑星表面付近で非常に特殊な物理環境を生み出します。自転による遠心力が小惑星の重力に優っているのです。このような環境にターゲットマーカを落とした時、どのような振る舞いをするのか、既に科学的興味が尽きません。未だかつて人類が到達したことのない特徴の天体であり、リュウグウとの比較観測により、リュウグウで得られた科学的知見がより深められると期待されています。
また、このようなサイズの小惑星は、宇宙空間に多数存在しており100~1000年に1度の頻度で地球に衝突し、大きな被害を与える可能性のある天体と考えられていますが、地上からの観測では詳細なことまでは明らかになっていません。「はやぶさ2」が探査し、その物理特性や近傍での運用方法を確立することによって、このような天体に対する知見を深め、地球衝突に対する対策を立てる上での有益な知識を獲得することができると考えています。

さらに、2026年に予定している、小惑星2001 CC21への近接フライバイでも、Planetary Defenseに資する技術実証を計画しています。「はやぶさ2」に搭載されているカメラで意味のあるサイエンスデータを取得するため、衝突しないギリギリの距離まで小惑星に接近する必要があり、小惑星相対の高い軌道誘導精度が求められます。小惑星そのものの軌道に不確定性があるため、光学航法が不可欠であるにも関わらず、小惑星は地球や金星などの惑星に比べて暗いため、フライバイの数日前でなければ視えてきません。このように、相手が小惑星ならではの航法誘導の難しさがある中で、ギリギリの距離で小惑星を掠め飛んでいく運用は、探査機を小惑星に衝突させる軌道誘技術と同義であると考えられます。Planetary Defenseの中では、地球への衝突を回避させるため、探査機を小惑星に当てることで軌道を変更するような対策も検討されており、「はやぶさ2」の近接フライバイは、このような対策に直接的に貢献できる技術となっています。

以上のように、「はやぶさ2」の拡張ミッションでの活動は、Planetary Defenseにも大きく貢献することが期待されます。ミッションの意義は非常に大きく、だからこそミッションを成功させるために求められる課題は多岐に渡ります。例えば、2026年の小惑星のフライバイでどこまで小惑星に肉薄できるのか、2031年、ターゲットマーカが置けない小惑星の表面にどうやって近付くのか、そもそも10年間の運用計画をどうするのか、検討すべきことは山積みです。
幸運にも、我々にはこれらのミッションを実施するまでに、まだ十分な時間が残されています。この時間の中で、上述のような非常に興味深い課題に、将来活躍が期待される若手技術者たちが、探査の経験者と共に取り組もうとしています。「はやぶさ2」の拡張ミッションは、経験者と若手が同じ問題に取り組みながら技術継承をしていくことができる貴重な環境にもなっており、探査ミッションに関わる人材を育成していく土壌としての重要な役割も担っているのです。


はやぶさ2 拡張ミッションの愛称とロゴマーク
はやぶさ2 新たなる挑戦 ― 拡張ミッション ―(動画)



名称(打上げ前) はやぶさ2(Hayabusa2)
目標天体 リュウグウ (C型, 地球接近小惑星)
打上げ日時 2014年12月3日13時22分04秒(日本標準時)
場所 種子島宇宙センター
ロケット H-IIAロケット 26号機
質量 約609kg
小惑星到着 2018年6月27日
MINERVA-II 1分離 2018年9月21日
MASCOT分離 2018年10月3日
第1回タッチダウン 2019年2月22日
衝突装置分離 2019年4月5日
第2回タッチダウン 2019年7月11日
MINERVA-II 2分離 2019年10月3日
小惑星出発 2019年11月13日
地球帰還 2020年12月6日(カプセル着地)
主要ミッション機器 サンプル採取装置、地球帰還カプセル、レーザ高度計、中間赤外カメラ、近赤外分光計、衝突装置、小型ローバ(MINERVA-II)

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