開発中高感度太陽紫外線分光観測衛星 SOLAR-C

宇宙にはどのように高温のプラズマが作られ、太陽はどのように地球や惑星に影響を及ぼしているのでしょうか?高感度太陽紫外線分光観測衛星SOLAR-Cは、太陽から届く紫外線を分光することで、太陽大気の謎を解き明かします。

深宇宙探査技術実証機 DESTINY⁺ 二重小惑星探査計画 Hera

私たちの生きる太陽系は、太陽の生みだす高温の大気(プラズマ)で満たされています。では、このような高温プラズマはどのように作られ、太陽はどのように地球や惑星に影響を及ぼすのでしょうか?これらを理解する上で重要となるのが、約6000度の太陽表面に対し、100万度以上にも達する高温の太陽コロナや太陽風がどのように作られるのか、そして太陽系最大の爆発現象である太陽フレアがどのように発生するのか、という問題です。

これらの現象に対して、従来の観測は、太陽表面でのエネルギー注入や上空でのエネルギー解放の振る舞いを明らかにしてきました。しかし、その振る舞いが起きる仕組みや背景にある物理過程は観測的にブラックボックスのままです。高感度太陽紫外線分光観測衛星SOLAR-Cは、エネルギー注入と解放の間で、エネルギーや物質がどのように輸送されるのか、またエネルギー解放の現場をとらえて何が起きているのかを診断することで、ブラックボックスの理解に迫ります。

SOLAR-Cは、この理解を目指し、次の3つの紫外線分光観測を世界で初めて同時に実現します。第1に、1万度の彩層から100万度のコロナ、1500万度のフレアまで、3桁にわたる幅広い温度帯を同時に隙間なく観測します。第2に、紫外線を集める能力を従来の10-30倍も高めることで、高空間(0.4秒角)・高時間(1秒)分解能で太陽大気の要素構造を解像し、その進化を追跡します。第3に、高性能の分光観測(2 km/sの速度分解能に相当)を行い、定量的な診断のための分光情報(速度、温度、密度、電離度、組成比など)を得ます。これら3つの観測を総合することで、彩層からコロナまでの幅広い範囲にわたり、要素構造を分解しつつ太陽大気の運動する描像を獲得することができます。

SOLAR-Cは、日本が開発を主導し、米国および欧州諸国の協力のもと実施するミッションです。JAXA宇宙科学研究所が、国立天文台と協力して、衛星およびEUVST望遠鏡を開発し、名古屋大学宇宙地球環境研究所がサイエンスセンターを運営します。打ち上げ後の科学運用は、国内外の研究者の協力により実施されます。2020年4月には公募型小型4号機として選定され、2028年度を目標にイプシロンSロケットで打ち上げる計画です。SOLAR-Cがエネルギーと物質の輸送やエネルギー解放の物理過程を観測することで、高温プラズマに満ちた宇宙がどのように作られるのか、太陽が地球や惑星にどのように影響を及ぼすのか(宇宙天気)を理解し、さらには過去の太陽や太陽系の環境(宇宙気候)に迫ることが期待されます。