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リュウグウサンプル中の6角板状の結晶(硫化鉄)の内部に発見された水とCO2を主成分とする液体。(A、B)硫化鉄結晶中の空孔のCT像。数ミクロンの大きさの空孔(白矢印)が結晶中に存在している、(C)質量分析計で測定した空孔内に含まれていた様々なイオン種(同じ分子種の2枚の写真は、左側が空孔上部、右側が空孔中部に含まれていたイオン種を示す)。結晶の温度を-120℃にして、空孔中の液体を凍らせて分析した。 (D)分析後の空孔中の液体を蒸発させて、空孔内部を観察した結果、結晶を構成する元素(鉄と硫黄)以外は検出されなかった。空孔内には液体以外の固体成分は存在しないことを示す。© 東北大学、NASA/JSC、SPring-8

概要

東北大学理学研究科中村智樹教授らの研究グループは、小惑星探査機「はやぶさ2」が回収した小惑星リュウグウのサンプル(探査機が回収した3番目に大きなサンプルを含む17粒子)を日米欧の放射光施設5か所、ミュオン施設などを利用し宇宙化学的・物理学的手法による解析を行った。その結果、リュウグウの形成から衝突破壊までの歴史(太陽系内での形成とその位置、天体材料物質の情報、含まれていた氷の種類、天体表層および内部での水との反応による化学進化、天体衝突の影響など)が判明した。また、リュウグウサンプルには、衝突破壊前の母天体の表層付近の物質と天体内部の物質が混在していることが判明した。さらに、リュウグウサンプルの硬さ、熱の伝わり方、比熱、密度などを実測し、この実測値を使って、リュウグウ母天体形成後の天体内部の加熱による温度変化、および衝突破壊プロセスの数値シミュレーションを行い、リュウグウの形成進化をコンピュータ上で再現した。

タイトル:炭素質小惑星リュウグウの形成と進化:リターンサンプルから得た証拠
原題:Formation and evolution of carbonaceous asteroid Ryugu: Direct evidence from returned samples
掲載誌:Science
DOI:10.1126/science.abn8671

発表のポイント

  • 液体の水との反応を大規模に経験したリュウグウサンプルに高温環境(1000℃以上)でできた粒子(Ca、Alに富む包有物など)が含まれていることを発見した。これらの高温微粒子は太陽近くで形成された後に太陽系外側まで移動し、リュウグウの材料物質と共に現在のリュウグウの元の天体(リュウグウ母天体)を形成したと考えられる。これは、誕生時の太陽系において内側と外側で大規模な物質混合が起こっていたことを示す。
  • サンプルに残された磁場の情報から、リュウグウ母天体は太陽から離れた太陽光が届かない星雲ガスの暗闇の中で生まれた可能性が高い。
  • リュウグウ母天体が形成されたのは、水と二酸化炭素が氷で存在する-200℃以下の低温領域であった。
  • サンプル中の結晶に閉じ込められた液体の水を発見した。この水はかつてリュウグウ母天体にあった水であり、塩や有機物を含む炭酸水であった。
  • リュウグウの天体内部に存在した液体の水から、サンゴ礁のような形をした結晶が成長していた。
  • リュウグウの母天体では、水と岩石の比率が表層と地下内部で異なり、地中深くの岩石の方が水を多く含んでいた。
  • サンプルの硬さ、熱の伝わりやすさ、磁気特性などを測定した。その結果、リュウグウサンプルは包丁で切れるほど柔らかいことがわかった。また、小さな磁石が数多く含まれていたことから、過去の磁場を記録した天然のハードディスクであると言える。
  • リュウグウ母天体の誕生から衝突破壊までのプロセスをコンピュータによるシミュレーションで再現した。小惑星の形成進化のシミュレーションに、実際の小惑星のサンプルの硬さや温まりやすさなどの測定結果を取り入れたのは世界初であり、より精密な小惑星進化の描像が明らかになった。
  • このシミュレーションにより、リュウグウ母天体は太陽系形成から約200万年後に集積し、その後300万年をかけておよそ50℃まで温まり、水と岩石の化学反応が進行したこと、直径100km程度のリュウグウ母天体を破壊した衝突天体の大きさはせいぜい直径10 km程度であること、現在のリュウグウは衝突点から離れた領域の物質からできていることがわかった。

詳しくは、JAXAプレスリリースをご参照ください。