地球の近くには、冷たくて密度の濃いプラズマに満たされているプラズマ圏と呼ばれる場所があります。プラズマ圏のプラズマは、地球の超高層にあるプラズマが宇宙空間に流出したものです。プラズマ圏の外側には、プラズマ圏界面とよばれる境界があり、その外ではプラズマの密度が急激に減少することが知られています。しかし、実は、その境界の構造はしばしば不明瞭で、プラズマ密度が濃くなったり、薄くなったり、大きくゆらいでいます。「あらせ」は、このゆらぎの中の特に密度が薄くなった場所で、静電波と呼ばれるプラズマの波が強く発生していることを明らかにしました。
図1の一番上のパネル(a)は、「あらせ」に搭載されているプラズマ波動観測器の観測データで、プラズマの波の周波数スペクトル(周波数ごとの波の強さ)の時間変化が示されています。そして、赤線で囲まれた部分のプラズマの波が強くなっている箇所が静電波の出現を意味します。「あらせ」は、この時、地球に向かって飛んでいたので、横軸は左に行くほど地球から遠く、右に行くほど地球に近い、と読み替えることができます。パネル(b)には電子の密度変化を示していますが、プラズマ圏の電子密度は「あらせ」が地球に近づくにつれて上昇していることがわかります。さらに、パネル(a)、(b)のプラズマ圏界部分(パネル(b)の白い背景の部分)を拡大したデータを、パネル(c)、(d)に示します。パネル(c)には、台湾が開発を担当した低エネルギー電子分析器によって計測した電子の密度(赤線)とプラズマ波動と磁場の計測結果から導かれたプラズマ圏の電子密度(青線)が示されています。低エネルギー電子分析器はプラズマ圏の主成分である冷たい電子を計測することができないので、低エネルギー電子分析器による電子密度は、温かい電子の密度を表します。パネル(d)には静電波の強さを示していますが、パネル(c)と(d)から、プラズマ圏界面付近には局所的に密度が減少している「くぼみ」があること、また、この密度の低い、プラズマ圏の「くぼみ」こそ、静電波が強くなる場所であったことが発見されました。逆に、温かい電子の密度は、「くぼみ」ではやや増えている傾向が見えることから、一部の冷たい電子が静電波によって温められていることも示唆されます。これらの観測結果をまとめるポンチ絵を図2に示します。
この結果は、ジオスペースでもっとも冷たいプラズマ圏の電子と静電波の間に何らかの関係があることを示していますが、実は、このような関係性はこれまでの理論では説明することができません。静電波もジオスペースの電子を地球の大気へと降りこませることに寄与している、と考えられていることから、ジオスペースの電子の変動メカニズムを理解するためには、「あらせ」の発見したプラズマ圏のくぼみに潜む静電波が、なぜ、どのように発生するのか、新たな謎を解かなければなりません。
(風間 洋一、篠原 育、三好 由純)