国際連携観測によって宇宙の電磁波が地上に伝わる“通り道”を可視化することに成功

松田 昇也・金沢大学理工研究域

惑星磁気圏で自然発生する電磁波(電場・磁場の振動)は、空間を満たすプラズマ(電子・イオン)との電磁気的作用によって、宇宙の環境変動をコントロールする重要な役割を担っています。それらは宇宙空間のある場所で生まれ、非常に長い距離を伝わり、遥か遠くの場所で観測されることがあります。電磁波による宇宙の環境変動を正しく理解するためには、広い宇宙空間を波がどのように伝わっていくかを三次元的に知ることが重要ですが、従来の科学衛星1機による観測では実現が困難でした。本研究では、ジオスペース*1探査衛星「あらせ」や米国の科学衛星「Van Allen Probes*2」で同時計測された電磁波のデータなどを用いて、宇宙の電磁波が発生する領域を明らかにしたとともに、目には見えない“電磁波の通り道”の存在を世界で初めて突き止め、電磁波が地上へと伝わる仕組みを解明しました。各国が開発した高性能な科学衛星や地上観測装置が連携することで、宇宙環境を立体的にモニタリングできることを示し、将来の宇宙天気予報*3の精度向上に向けた大きな一歩となることが期待されます。

研究概要

地球周辺の宇宙空間では、絶えずさまざまな種類の電磁波が自然発生し、波動粒子相互作用*4と呼ばれる物理過程によって宇宙を満たすプラズマ環境を変動させることが知られています。特に、大規模な太陽フレア*5によって宇宙嵐*6が起きると、これらの電磁波がより活発に発生し、時には人工衛星の故障や宇宙飛行士の放射線被ばく、地上送電網の障害といった影響をもたらすことがあります。宇宙の電磁波には「生まれた場所から遥か遠方へと伝わる特性」があるため、電磁波がもたらす影響を正しく理解するには、宇宙の電磁波がどこで発生し、どのように伝わっていくかを理解することが重要です。しかしながら、一機の科学衛星による「単地点観測」では、発生領域の具体的な空間サイズや、伝搬経路がどのように形成されて波が伝わっていくかといった三次元的な様相は未解明のままでした。

図1 “電磁波の通り道”を同時多地点観測する様子 ©ERGサイエンスチーム

本研究では、日本の科学衛星「あらせ」、米国の科学衛星「Van Allen Probes」による宇宙からの観測と、日本が主導する「PWINGプロジェクト*7」、カナダが展開する「CARISMA magnetometer array*8」による地球からの観測を連携させ、宇宙で自然発生する電磁波の一種である「電磁イオンサイクロトロン波*9」を異なる場所から同時観測することに成功しました(図1)。地磁気赤道*10付近の「Van Allen Probes」と地上の「PWING」,「CARISMA」では、極めて類似性が高い電磁イオンサイクロトロン波が観測されていることから、地磁気赤道と地上を繋ぐ“通り道”が形成されていることが分かります。さらに、その中間(中緯度帯)に位置する「あらせ」が“通り道”を横切って観測することで、“通り道”の大きさを決定するための決定的な証拠を掴みました(図2)。「あらせ」搭載のプラズマ波動・電場観測器(Plasma Wave Experiment; PWE)や磁場観測器(Magnetic Field Experiment; MGF)によって実現された高精度な電磁波計測を活用し、本研究では国際連携によって更に価値を高めることに成功しました。

また、「あらせ」と「Van Allen Probes」による精密なプラズマ計測によって、電磁イオンサイクロトロン波が“通り道”を伝わっていく過程で冷たいプラズマにエネルギーを与え、周辺のプラズマ環境を変化させている様子も合わせて観測されました。電磁イオンサイクロトロン波はプロトンオーロラ*11と呼ばれる種類のオーロラを光らせることでも知られており、本研究の成果はプロトンオーロラの元となるエネルギーが宇宙から地上へと伝わる経路を明らかにした、と解釈することもできます。

図2 電磁イオンサイクロトロン波を4つの拠点で同時に捉えた観測結果

宇宙の電磁波がどこで発生し、どのように伝わっていくかを把握できたことで、宇宙のプラズマ環境変動がさまざまな場所で同時に起きるメカニズムを明らかにすることができます。この成果をもとにして、安全な宇宙利用に向けた「宇宙天気予報」の精度向上への貢献が期待されます。また、本国際共同研究グループのメンバーは、水星に向けて航行中の水星磁気圏探査機「みお」や、木星氷衛星探査機「JUICE」(2022年打ち上げ予定)に搭載する電磁波計測装置の開発を担当しています。本研究の成果を踏まえて、地球以外の惑星でも電磁波が発生し伝わっていく仕組みを解明し、宇宙環境変動の網羅的な理解と普遍性の解明へと歩みを進めていきたいと考えています。

用語解説

  • *1 ジオスペース:地球周辺の宇宙空間のこと。
  • *2 Van Allen Probes:NASAによって2012年に打ち上げられた2機の科学衛星。地球周辺で発生するプラズマ物理現象(電子・イオンの加速、消失過程)の解明を目的とする。
  • *3 宇宙天気予報:太陽活動に伴って発生する、地球周辺の宇宙環境の乱れを予測する技術のこと。
  • *4 波動粒子相互作用:宇宙の電磁波とプラズマ(電子・イオン)との間でエネルギーの授受が行われる過程のこと。プラズマが高いエネルギーへと加速される、エネルギーを失って散乱されるなどの現象の要因となる。
  • *5 太陽フレア:太陽表面で発生する大規模な爆発現象のことを指す。
  • *6 宇宙嵐:太陽フレアの発生に伴って放出される高いエネルギーの電子・イオンが地球近傍に到達する際に、周辺の磁場環境やプラズマ環境を乱すことをいう。
  • *7 PWING(study of dynamical variation of Particles and Waves in the INner magnetosphere using Ground-based network observations)プロジェクト:日本が主導する宇宙環境計測プロジェクトの一つ。北極圏を中心とした複数の地上観測拠点に電磁波計測装置やオーロラ観測カメラを設置し、宇宙を起源とする現象の把握を目指している。
  • *8 CARISMA (Canadian Array for Realtime Investigations of Magnetic Activity) magnetometer array:カナダが主導する宇宙環境計測プロジェクト。北米を中心とした複数の地上観測拠点で電磁波計測を行う。
  • *9 電磁イオンサイクロトロン波(イオン波):宇宙で自然発生する電磁波の一種。1秒間に1回程度のゆっくりとした振動を伴い、特に宇宙プラズマ中のイオンと波動粒子相互作用を引き起こすことができる。
  • *10 地磁気赤道:地球の自転軸を基準とする地理赤道に対し、地球磁場を基準とした赤道のことを指す。
  • *11 プロトンオーロラ:イオン波によって散乱された高エネルギーイオンが、大気に降り込むことで発生するオーロラのこと。

論文情報

雑誌名 Geophysical Research Letters
論文タイトル Multipoint Measurement of Fine-Structured EMIC Waves by Arase, Van Allen Probe A and Ground Stations
DOI https://doi.org/10.1029/2021GL096488
発行日 2021年12月8日
著者 Shoya Matsuda, Yoshizumi Miyoshi, Yoshiya Kasahara, Lauren Blum, Christopher Colpitts, Kazushi Asamura, Yasumasa Kasaba, Ayako Matsuoka, Fuminori Tsuchiya, Atsushi Kumamoto, Mariko Teramoto, Satoko Nakamura, Masahiro Kitahara, Iku Shinohara, Geoffrey Reeves, Harlan Spence, Kazuo Shiokawa, Tsutomu Nagatsuma, Shin-ichiro Oyama, Ian Mann
ISAS or
JAXA所属者
Kazushi Asamura (宇宙科学研究所 太陽系科学研究系)
Iku Shinohara (宇宙科学研究所 太陽系科学研究系)

関連リンク

執筆者

松田 昇也(MATSUDA Shoya)
2021年10月–現在 金沢大学 理工研究域 電子情報通信学系 准教授
2020年1月–2021年9月 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 特任助教
2018年4月–2019年12月 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 宇宙航空プロジェクト研究員