本研究イメージ図

Credit: ERG science team

オーロラと言えば、カーテン状の光が夜空を美しく舞い彩る姿を思い浮かべます。一般にはあまり知られていませんが、このカーテン状のオーロラが真夜中付近に爆発的に発生した後、朝方にかけては、いろいろな大きさのパッチ状の淡い光が様々な周期で明滅を繰り返す「脈動オーロラ」と呼ばれるオーロラが現れます。「あらせ」は、ジオスペースの高いエネルギーの電子が、コーラス波によって間欠的に地球の大気にふり落とされることで、この数秒から数十秒周期の脈動オーロラの明滅を発生させていることを明らかにしました。しかし、コーラス波はもっと短い時間スケールでその強度が変化することがわかっています。それでは、コーラス波はどこまで速いオーロラの明滅を作り出すことができるのでしょうか。PWINGプロジェクト* は、世界各地にオーロラの光学観測や磁場の観測網を整備しましたが、この地上観測網と「あらせ」の協調観測によって、はじめてコーラス波と脈動オーロラの速い時間スケールでの対応について研究することができるようになりました。

地上と衛星の協調観測の結果、コーラス波の強度と脈動オーロラの明るさの変動は、数百ミリ秒の時間スケールにおいても完全に一致することを世界ではじめて明らかにすることができました。図1上のグラフは、あらせ衛星が観測したコーラス波の強度変化(青色)とあらせ衛星と磁力線でつながった地上観測点(アラスカのガコナ)で観測された脈動オーロラの明るさ(赤色)を比較したものです。数百ミリ秒で準周期的にコーラス波の強度が変化するのに伴い、地上から観測された脈動オーロラも追随するように明るさが変化していることがわかります。図1下のグラフは脈動オーロラの形状の広がりを表しており、数百ミリ秒で明るさの変化する脈動オーロラは拡大・縮小するオーロラの高速な形状変化までも伴っていたということが、新たにわかりました。

図1「あらせ」が観測したコーラス波の強度変化と地上観測による脈動オーロラの明るさ(上)と形状の広がり(下)の比較

図1 「あらせ」が観測したコーラス波の強度変化と地上観測による脈動オーロラの明るさ(上)と形状の広がり(下)の比較。脈動オーロラの明るさは、ジオスペースの電子が地上に到達するまでの到来時間差の時間ずれを考慮して比較しています。 Credit: ERG science team

「コーラス波は磁力線に沿って伝わることができる」という性質と「オーロラは磁力線に沿って降ってくる高エネルギー電子によって生じる」という性質を組み合わせると、今回の結果は、広いジオスペースの中で「いつ、どこで、どれくらいの時間スケールでコーラス波が発生しているか」を把握できる可能性を示しています。図2と図3はコーラス波と脈動オーロラの関係をポンチ絵であらわしたものです。ジオスペースにおける「あらせ」の精密な観測と地上多点観測の得意とする広い空間把握力を活かすことで、コーラス波がどのように、どれだけ、ジオスペースの変動に影響を与えているのか、明らかにすることができるでしょう。

図2「あらせ」で観測されたコーラス波の強度変化と脈動オーロラの明るさの変化の概略図

図2 「あらせ」で観測されたコーラス波の強度変化と脈動オーロラの明るさの変化の概略図。「あらせ」と地上観測網PWINGとの協調観測により、コーラス波強度変化に伴い数百ミリ秒で脈動オーロラの明るさだけでなく広がりの変化も伴っていたことが明らかになりました。 Credit: ERG science team

図3 ジオスペースで発生するコーラス波と磁力線に沿って発生する脈動オーロラのイメージ図

図3 ジオスペースで発生するコーラス波と磁力線に沿って発生する脈動オーロラのイメージ図。 Credit: ERG science team

*PWINGプロジェクト:日本の複数の大学、研究機関の研究者が協力して、世界の各地に光学観測装置や電波観測装置を設置して、地上からジオスペース現象の観測を行っているプロジェクトです。(http://www.isee.nagoya-u.ac.jp/dimr/PWING/

(尾崎 光紀、篠原 育、三好 由純)