前宇宙科学研究所長 常田佐久氏

常田佐久氏が、太陽観測衛星による太陽電磁流体現象の研究により、日本学士院賞を受賞されることが決まりました。日本学士院賞は、日本学士院が授与する歴史ある賞で、日本の学術賞としては最も権威ある賞です。

現在、自然科学研究機構国立天文台長の常田氏は、2013年4月から2018年3月までの5年間にわたり宇宙科学研究所長として宇宙科学研究の推進に尽力されました。

常田氏は、日本において飛翔体による観測的太陽研究の目覚ましい発展を主導した研究者です。

1991年に打ち上げた太陽観測衛星「ようこう」に日米協力のもと搭載された軟X線望遠鏡は、常田氏が開発を主導し、約10年間にわたり軟X線で太陽コロナのダイナミックな変化をとらえました。

太陽観測衛星「ようこう」の軟X線画像

太陽観測衛星「ようこう」の軟X線画像 Credit: ISAS/JAXA

また、2006年に打ち上げた太陽観測衛星「ひので」では、軌道上の太陽望遠鏡としては世界最大の口径(50cm)を持つ可視光磁場望遠鏡の開発を主導しました。この望遠鏡は、「太陽を見る顕微鏡」とも呼ばれるほどの高解像・高画質を誇ります。地球の大気揺らぎの影響がない安定した軌道上から0.2秒角(地球から見て太陽表面150kmを分解できる性能)の解像度で、光球磁場や彩層ダイナミックスを世界で初めて観測することに成功しました。

太陽観測衛星「ひので」の可視光磁場望遠鏡による観測画像

太陽観測衛星「ひので」の可視光磁場望遠鏡による観測画像 Credit: NAOJ/JAXA

ムービーは、太陽表面「光球」(青色)とその上空の「彩層」(オレンジ色)を比較したものです。穏やかな光球とは全く異なる活動的な現象を彩層では見ることができます。(撮影望遠鏡:可視光・磁場望遠鏡、観測波長:CH分子の吸収線(Gバンド[430nm])、カルシウムの吸収線/輝線(カルシウムH線[396nm] )) Credit: NAOJ/JAXA

画像では見えませんが、太陽の裏側の縁付近に黒点があります。ムービーでは、黒点の周囲で頻繁に増光が発生し、それに伴ってプラズマが上空へダイナミックに噴き上げられる様子が克明にとらえられています。(撮影望遠鏡:可視光・磁場望遠鏡、観測波長:カルシウムの吸収線/輝線(カルシウムH線[396nm] ) ) Credit: NAOJ/JAXA

これらの観測データから、太陽フレアにおける磁気エネルギーの変換過程が磁気リコネクションである証拠を得たほか、太陽の極域磁場や短寿命の水平磁場などコロナ加熱や太陽活動の周期的活動性を理解する上で重要な観測結果をもたらしました。

また、衛星計画につながる観測ロケット等を用いた観測装置の開発や飛翔実験を推進して、装置開発ができる科学者の育成にも尽力しました。