理論研究で、探査や惑星科学を盛り上げたい!
~日本惑星科学会最優秀研究者賞受賞インタビュー:兵頭龍樹氏~

兵頭龍樹氏

兵頭龍樹氏(宇宙科学研究所 太陽系科学研究系 国際トップヤングフェロー)が2021年度日本惑星科学会最優秀研究者賞を受賞しました!
これまで、土星探査機「Cassini」のデータを利用した土星衛星及びリングの形成過程についての研究や、火星衛星探査計画「MMX」に関連する火星衛星についての研究、微惑星の形成過程についての研究等、惑星系の形成や進化に関する理論研究を多面的に推進してきた業績や、惑星探査に積極的に関わり、理論研究により科学的ストーリーを提案している点が高く評価され、今回の受賞となりました。
本記事では、宇宙科学研究所(ISAS)の太陽系科学研究系・惑星科学分野には珍しい(⁉)純理論研究者の兵頭氏に、受賞の感想や探査に携わる思いなどを語っていただきました。

ご専門について教えてください。

僕の専門を、大きな専門用語でくくると「惑星形成論」になりますね。惑星形成論というのは、太陽系や系外惑星系が、どのようにできたのか理解することを目指している学問です。これは、日本惑星科学会が掲げる大目標の1つでもあるんです。中には、観測をする人や、実験をする人もいますが、僕は理論研究者として惑星形成論に携わっています。一つに絞らずにいろいろな惑星、衛星、小天体を研究していますが、惑星形成論という大きな枠組みを研究対象としているので、土星、火星、小惑星、微惑星と、その時に応じて研究対象は変わりますが、最終ゴールが変わっている訳ではないんですよ。

惑星形成論の理論研究者になろうと思ったきっかけは?

子どもの頃から研究者になりたかった訳じゃなくて、どちらかといえば、映画「インディ・ジョーンズ」の主人公のような考古学者・冒険家に憧れていたんです。高校時代の終盤から一人旅を始めて、70ヵ国近くを巡った程、冒険が好きでした。ただ、様々なことに挑戦したいというか、興味の対象があちらこちらに目移りしちゃう性格が昔からあって、大学・学部生の初期の頃は経営者になりたいと思っていました。ビジネスで成功したいという思いが強くて、大学を休学したことも。その時に携わった事業は独立する程大きくなって、それはそれで嬉しかったんですけど、マンネリ化してきたことや、お金中心の世界にあまり興味が湧かなくなってしまって。ふと研究室を見渡すと、「研究者になる」と励んでいる先輩方の姿が目に留まったんです。自分の興味に真っ直ぐで、常に新しいものを調べたいという純粋な思いに触れ、「あぁ、すごい綺麗な世界だな…」って。元々心の片隅に冒険家になりたい気持ちはずっとあったし、当時所属していた地球惑星学科ならそういう研究が出来そう、面白そうだなと思ったんですよね。研究するならまだまだ理解されていることが少なそうな分野をやろうということで、宇宙や惑星について調べようと。僕的には銀河やブラックホールはあまりにも遠すぎて現実感がなかったので、天文分野ではなく、近い未来に人が実際に行けそうな惑星スケールの分野を選択したという感じです。

今回の受賞を知った時の感想は?

受賞を知った時は素直に嬉しかったです。同時に気が引き締まるというか。僕が研究を続けている一方で、残念ながら研究の世界を離れてしまう人も沢山いて、「君なら成功するよ、応援している。」って言葉をかけてもらうことも沢山あったんですよ。誰もがずっと研究者でいられるかというと難しい競争社会だということは痛感していたので、どこかで賞をとらなければという思いは正直ありました。日本惑星科学会から贈られる賞は2つしかなく、その内の最優秀発表賞を学生時代に受賞していて、今回の最優秀研究者賞と合わせて2冠を達成できたことはとてもありがたいですし、次に繋げられるようにという覚悟がさらに強くなりました。

ISAS内で理論研究者というと珍しい存在かと思いますが、どのような役割を担っているのでしょう?

インタビューの様子

一般的には、太陽系や惑星、衛星、微惑星等の形成過程について、新しい説をいくつも提唱することが理論研究者の成果に繋がるのですが、ISASは、実際にどのような形成過程を辿ったのか、どの説が正解なのかを探査によって導き出したい訳です。そのため、探査に携わる理論研究者として、僕が意識的にしていることは、より良い新たな仮説を見つけることと同時に、こういったデータが取れればこの仮説を裏付ける証拠になるといった、検証リストを作成すること。NASAをはじめとした海外研究機関では、ミッションに参加する理論研究者は珍しくありませんが、日本には答え合わせのための準備に興味を抱く理論研究者は少ない印象です(特にISASに所属して、それをやろうとする惑星科学の理論家はこれまでいない!?)。この理論家の役割は重要だと信じているし、誰もやらないなら僕がやろうと。初めてだからこそ様々なことに挑戦できるチャンスがあると思うし、潤沢なところよりも、ゼロから創り上げる方が面白く、自分の成長にも繋がると思って、ISASで理論研究を行うことにしました。

理論研究者だからこそできる探査への携わり方とは?

探査機が目的地へ辿り着く前から、ターゲットをしっかり研究することを意識しています。実際のデータや採取したサンプルを分析して成果を出すことも大事ですが、探査機が打ち上がる前にミッションを盛り上げるための付加価値をつけられるのは、理論研究者にしかできないことだと思うんです。火星衛星物質のサンプルリターンを目指すミッションとして計画が立ち上がった、火星衛星探査計画「MMX」を例に話をします。火星衛星フォボスに火星由来の生命がいる可能性や、地球へのサンプルリターンが安全かという惑星保護に関する重要な問いが存在していました。そこで、火星史において発生する隕石衝突で火星からフォボスへ輸送される火星物質量および輸送された火星物質が宇宙線などで滅菌されるプロセスを詳細に調べました。その結果、フォボスからサンプルリターンする物質は、安全ではあるが、ある程度の火星物質を必然的に含むことが分かりました。それはつまり、「火星に行かずとも、火星衛星から火星物質も安全に持ち帰ることが出来る」というポジティブな捉え方もでき、今となってはそれがMMXの1つの強みにもなっています。言うなればハッピーセットのおまけみたいな。ここでのメインメニューはフォボスの物質だけど、事前研究という企業努力の結果、火星物質も採れるというおまけをつけることができました。その結果、より幅広い科学分野の研究者がMMXに興味を持つことになり、また世間の皆さんをより楽しませることができました。もしかすると、おまけの方が目当てになるくらいの、価値あるおまけをこれからも考え続けたいと思っています。

惑星科学の魅力とは?

「惑星科学は総合格闘技」って大学の授業でもよく言うんですけど、それが、惑星科学が面白くて飽きない理由だと思っています。宇宙分野の研究って、昔は物理学が中心になって専門的に研究していましたが、最近は化学や生物学も参入してきていますよね。僕としては、理科系の総合格闘技にとどまらず、産業なども含めた社会としての総合格闘技に拡げていける分野だと思っているので、モチベーションの広がりも感じます(そのうち個人的に宇宙ビジネスを始めるかもしれません笑)。

今後の目標は?

兵頭氏JAXAロゴ前

これからも様々な探査が計画されていますが、探査機が打ち上がる前からミッションに携わり、科学的価値を最大化できるよう、理論研究者としてミッションを盛り上げていきたいと思います。自分の推しのミッションだけでなく、万遍なく携わるように心がけていきたいですね。特に今は、日本初の外惑星探査の実現に向けて、ISASと日本惑星科学会の橋渡し役になれるよう頑張りたいと思っています。また、ISASは日々のミッション関連業務に忙殺され、個人の研究活動の結晶である主著論文が書きづらい環境だと言われることがあります(こんなことを言うと怒られるかもですが…笑)。だからこそ、僕自身がISASで主著論文をたくさん書いている姿を見せることで、たとえISASに所属してミッションに関わったとしても、個人研究すらもバリバリできる可能性を示すロールモデルになりたいと思っています。もちろん、ミッション業務の遂行自体に面白さもあるし、その活動は論文同様・それ以上に評価されるべきものであります。

受賞情報

受賞年月日 受賞者 受賞内容
2022/05/24 兵頭 龍樹 日本惑星科学会2021年度 最優秀研究者賞

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