推進剤不要のソーラーセイルで、次世代の宇宙探査を目指す!
~第66回宇宙科学技術連合講演会若手奨励賞最優秀賞、第15回宇宙科学振興会宇宙科学奨励賞受賞インタビュー:高尾勇輝氏~

第66回宇宙科学技術連合講演会若手奨励賞最優秀賞、第15回宇宙科学振興会宇宙科学奨励賞を受賞した高尾勇輝氏

宇宙科学研究所 日本学術振興会特別研究員PD(~2022年12月)の高尾勇輝氏(現・九州大学 工学研究院航空宇宙工学部門/助教)が、2022年11月1日~4日に開催された第66回宇宙科学技術連合講演会にて若手奨励賞最優秀賞を受賞しました!また、2023年3月には、ソーラー電力セイルの研究開発におけるこれまでの貢献が高く評価され、第15回宇宙科学振興会宇宙科学奨励賞(宇宙工学分野)を受賞しました!
今後も更なる活躍が期待される高尾勇輝氏に、オンラインインタビューにて、宇宙科学技術連合講演会での受賞対象となった研究の概要や、2つの受賞の感想を伺いました。

第66回宇宙科学技術連合講演会にて発表された、「推進剤不要の姿勢制御を実現する片翼展開・バイアスモーメンタム方式ソーラーセイルの提案」とは、どのような研究でしょうか。

燃料(推進剤)を使わずに、広げた帆に太陽の光を受けて宇宙空間を進むソーラーセイルについて、これまでにない全く新しい「姿勢制御」の方法を研究し、提案しました。
ソーラーセイルとは宇宙ヨットとも呼ばれ、広げた帆に風を受けて海の上を進むヨットのように、太陽光の物を押す力を使って宇宙空間を進みます。地上で生活していると、光に押されていると感じることはないと思いますが、空気も重力もない宇宙空間では、太陽光が物を押す作用「太陽輻射圧」があります。燃料を噴射するエンジンに比べると小さな力ですが、少しずつ蓄積され、長い時間をかけて加速していき、宇宙空間を飛び続けることができます。また、帆の形と帆の向きを変えることで風の受け方を調整して行きたい方向に向かうヨットのように、ソーラーセイルも太陽に対して帆の向き(姿勢)を変えたり、向きを維持して、コントロールすること(制御)が重要です。
今回の発表では、ソーラーセイルの帆をどのようにして適切な方向に向けるのか、「姿勢制御」の方法を提案しました。

小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS」での実証実験の成功からこれまで、ソーラーセイルの技術は進歩を続けていると思いますが、なぜ新しい姿勢制御の方法を提案されたのでしょうか。

小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS」
小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS」©JAXA

ソーラーセイルの「姿勢制御」は非常に難しく、実用化に向けて課題がありました。
まず、ヨットは強風が吹くと煽られますが、余程の激しい強風が吹かない限りは、ひっくり返って転覆することはないと思います。なぜなら、海という土台の上に浮かび、海に支えられているからです。これに対し、ソーラーセイルは、土台となる海がない宇宙空間をプカプカ漂っている状態ですので、太陽光が必要以上に帆に当たると、簡単にひっくり返り、くるくると回り、操縦ができなくなってしまいます。その状態に陥ることを防ぐために、例えばモーターや様々な大型装置を使って機械的に帆の形を変形させ、帆の向きを調整する方法がよく提案されてきましたが、この方法には課題もありました。例えば、制御装置はサイズも大きく、重くなるため、「太陽輻射圧」の小さな力を使って進むソーラーセイルにとっては加速の妨げになります。極力軽い装置が求められ、また長期間の使用でも故障をしない装置となると、とても難しく、これまでのソーラーセイルの姿勢制御には確実な方策がありませんでした。
そして、もう一つは、燃料を使って姿勢を制御するという方法です。「IKAROS」は、姿勢が望まない方向になる度に、ガスジェット(燃料)を噴射して姿勢を戻すことを繰り返していました。燃料を使わずに太陽光の力で進むソーラーセイルが、姿勢を制御する度に燃料を使うのでは、本末転倒ですよね。消費量を抑えられても燃料の使用を0にはできないソーラーセイル事情を、なんとか解決したいと研究を続けてきました。

これまでにない新しい提案だと伺いましたが、思いついたきっかけは?

革新的衛星技術実証3号機 小型実証衛星3号機(RAISE-3) CG
革新的衛星技術実証3号機 小型実証衛星3号機(RAISE-3) CG <HELIOS展開後>©JAXA

軽量膜展開構造物「HELIOS」プロジェクトに携わる中で思いつきました。
衛星や探査機での大電力発電を目指した「HELIOS」では、太陽電池を搭載した薄くて軽い膜を折り畳んだ状態で宇宙へ輸送し、宇宙空間で膜を広げ、太陽電池パネルとして活用します。膜を広げる方法として、衛星の本体から片方に翼を広げるような新しい展開方式「片翼展開方式」での膜展開を採用しました。この開発をしている中で、太陽電池パネルとしてではなく、ソーラーセイルとしてこの展開方式を採用したらどうなるだろうと考えたことがきっかけです。
これまでのソーラーセイルは中央に衛星の本体があって、そこから同心円状に帆を広げる方法が一般的でしたが、「片翼展開方式」でソーラーセイルを開いた場合、これまでのソーラーセイルと全く異なり、非対称の形で太陽の光を受けることになります。非対称に力が作用する状態を上手く使えば、これまでにない、新しい姿勢制御ができるのではないかと思いつき、今回の研究に繋がりました。

帆の新しい展開方法と合わせて提案された、バイアスモーメンタム方式とは?

この片翼展開方式と組み合わせた姿勢制御方法が、お正月に回す「独楽(コマ)」が回る効果を使ったバイアスモーメンタム方式です。コマは、回さない状態で地面に置くとパタッと倒れますが、回転させると立ち続けることができ、横から力を受けても立ち続けられます。これを「回転のジャイロ効果」と言います。衛星の内部でコマを回し、このジャイロ効果を使うことで、太陽の光の力などに煽られても姿勢を乱されることなく、同じ方向を向き続けることができます。このジャイロ効果を使った姿勢制御は以前から多くの衛星で使われてきましたが、ソーラーセイルの場合は太陽の光の擾乱が強すぎて、採用はとても難しいと考えられていました。しかし、片翼展開方式と組み合わせると、太陽光が非対称に当たる特殊な状況を利用して、擾乱を受け流しながらずっと同じ方向を向き続けられることを閃きました。向きを維持するだけでなく、コマを回すスピードを変えれば、向きを変えることさえもできます。今までずっと困難だと思われてきた、ソーラーセイルにおけるコマを使った姿勢制御が、ついに実現可能になったのです。

提案されたソーラーセイルが実現すると、どのような活躍が期待できますか?

燃料を全く使わずに進めるようになるので、内部のコマさえ壊れなければ、半永久的に飛び続けられる宇宙機になります。地球周回であれば燃料を気にせずに運用を続けられますし、深宇宙での探査を行う場合でも、燃料による寿命を気にせずに、この小惑星に行ったら次はこの天体に行って…と、半永久的に探査を繰り返していけるようになります。最近では、「持続可能な」「SDGs」という言葉をよく耳にしますが、そこにも繋がる技術になるのではないかと思います。地球へ様々な恩恵をもたらすことができる技術にしたいですね!

研究の中で苦労された点はありますか?

アイディア自体を思いついた時は「ヨッシャー!なかなか凄いことを思いついたぞ!」と思いましたが、実際に手を動かして計算してみると簡単ではなく、ある程度の理論化ができるまではかなり苦労しました。「どうしたら上手く行くだろうか?」と常に考え続けて、制御理論や数学、さらには構造力学など、今まで身につけた色んな分野の知識をフル動員して、最終的に解決することができました。
この方法に限らず、他にも色んな方法が有り得るとは思いますが、推進剤・燃料を使わないソーラーセイルの実現は、学生の頃から続けてきた研究でしたので、「これだ!」という案を一つ考えついて、提案できたことはよかったかなと思っています。

若手奨励賞を受賞された感想を教えてください。

「やったぜ!」と、ガッツポーズをするような嬉しい気持ちでした。これまでに若手奨励賞を受賞された研究者の方々は、皆さん大変活躍されていますので、「自分も受賞したい!」という気持ちはありました。これから研究者としてステップアップしていく上で、自分の出した研究成果がこの賞に値するものとして認められたことはすごく嬉しかったですね。

続いて受賞された、第15回宇宙科学振興会宇宙科学奨励賞(宇宙工学分野)は、宇宙科学分野で優れた研究業績を挙げ、将来の宇宙科学の発展に大きな役割を果たすことが期待される37歳以下の研究者が選ばれる賞だと伺いました。受賞されたお気持ちを教えてください!

第15回宇宙科学奨励賞 表彰式
第15回宇宙科学奨励賞 表彰式にて。前列右が高尾勇輝氏。

大変光栄なことだと思っています。小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS」、ソーラー電力セイル「OKEANOS」計画を始め、小惑星探査機「はやぶさ2」など、様々なプロジェクトに携わりながら、またその経験を取り入れながら、研究を続けてきた成果ですので、集大成としてこの賞に至ったと思っていますし、これまで関わった方々の支え、指導があっての受賞であり、チームで受賞したと思っています。より一層がんばりたい、頑張らなければならないなと思いました。
また、本賞は自らの応募では挑戦できず他薦が必要となりますが、特別研究員として受け入れてくださった津田雄一先生(宇宙科学研究所 宇宙飛翔工学研究系/教授)からご推薦をいただきました。津田先生ご自身も第5回宇宙科学奨励賞を受賞されており、師匠がかつて受賞した賞を受け継げたことは、とても嬉しいですね。

最後に、今後の目標を教えてください!

修士課程・博士課程において所属した川口淳一郎研究室の川口先生(現・宇宙航空研究開発機構/名誉教授)から受けた、「人と同じことをやるな。面白いことを常に考え続けよう!」という教えが、今でも私の中に残っています。考え続ける思考を身に付けられたことで、宇宙科学技術連合講演会で発表したような新しいアイディアも考え抜くことができたと思っています。今後もより一層、「何ができたら面白いだろう」とアンテナを立てておきながら、思考を切らすことなく、誰も考えつかないような、常識にとらわれないような研究を生み出していきたいと思っています!

受賞情報

受賞年月日 受賞者 受賞内容
2023/01/10 高尾 勇輝 第66回宇宙科学技術連合講演会 若手奨励賞 最優秀論文「推進剤不要の姿勢制御を実現する片翼展開・バイアスモーメンタム方式ソーラーセイルの提案」日本航空宇宙学会
2023/03/06 高尾 勇輝 2022年度 第15回宇宙科学奨励賞 宇宙工学分野「ソーラー電力セイルによる深宇宙探査の軌道設計と超小型宇宙機への応用研究」宇宙科学振興会

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