宇宙(そら)の夢を一緒にかなえましょう!
~日本航空協会表彰空の夢賞受賞インタビュー:春山純一氏~

春山純一氏(宇宙科学研究所太陽系科学研究系助教)が、9月20日に令和4年度「空の日」 日本航空協会表彰の空の夢賞を受賞しました。
春山氏がプロジェクトメンバーとして活躍したSELENE(かぐや)での月の縦孔・地下空洞の発見とその成果の普及活動が、航空宇宙に対する夢や希望を広く社会に与えたと評価され、今回の受賞となりました。本記事では、受賞の感想や取り組まれている「UZUME計画」について春山氏からお話しいただきました。

「夢や希望を広く社会に与えた」と評価された今回の受賞。これまでの活動を教えてください。

月周回衛星「かぐや」(SELENE)

私が参加した日本の月周回衛星SELENE(かぐや)では、月に直径50m~100mの巨大な縦孔を世界で初めて発見しました。縦孔の底には火山活動で溶岩が作った地下空洞「溶岩チューブ」があり、溶岩チューブの天井が崩落して空いた穴がこの縦孔ではないかと考えられています。この溶岩チューブを調査していくことは、将来の月での有人活動や基地建設など人類が宇宙へ進出していくことに役立つのではないかと考え、チームを組んでその重要性を一般に広めていく活動を行ってきました。科学的な重要性だけでなく「月へ行きましょう」「人が暮らしていけるような世界を作っていこう」という発信をしてきました。

受賞の感想は?

SELENE(かぐや)が月の「マリウス丘」に発見した縦孔。直径50mほど。中が黒いことは底が見えないことを意味し、他のクレータに比べて異常に深いことが分かる。

この受賞はやはり、仲間と一緒にいただいたものですね。惑星探査、月探査は一人でできるものではないのでグループで行った成果に対して評価されたことは非常にありがたいです。それから、実はこの縦孔の発見は海外では有名ですが、日本ではあまり知られていないんですね。学生への講義や講演会など色々な活動を行ってきましたが、「初めて聞きました」と話される方がいつもいて、自分達の活動はまだまだだという印象を受けています。ですから今回、月探査の中でも歴史に残る重要な発見を日本がしたこと、そしてその成果を評価していただいたことは非常にありがたいと思っています。仲間からも、「この発見と意義が知れ渡って嬉しい」「やっと外部から評価された」と喜びの声がありました。この受賞をきっかけに、より活動を発展させていけたらと思っています。

「UZUME計画」について教えてください。

UZUME計画(UZUME: Unprecedented Zipangu Underworld of the Moon/Mars Exploration)は、月や火星の縦孔を調査する探査計画です。SELENEでの観測で発見した縦孔を調査しようと、理学者や工学者が集まって検討をして、普及活動を行っています。科学的に研究がおもしろいと思っている方や、SELENE計画当時に知り合ったJAXA内外の仲間も協力、参加してくれています。

なぜ月の縦孔、溶岩チューブを調査するのでしょうか?

図1 SELENE塔載地形カメラが2009年に発見した縦孔の位置。1:マリウス丘の縦孔(303.3°E,14.2°N)、2:静の海の縦孔(33.2°E,8.3°N)、3:賢者の海の縦孔(166.0°E,35.6°S)。背景はSELENE/地形カメラ画像。

まず科学的な観点としては、縦孔の壁や溶岩チューブの床の溶岩の中からは月惑星、火山活動の歴史、内部の進化の過程を紐解く情報を得られる可能性があります。また利用の観点としては、溶岩チューブの中は放射線や隕石衝突から人や機材が守られ、温度もほぼ一定なので将来人類の活動拠点として利用するのに非常に最適な環境だと考えられています。科学と利用どちらの観点からも溶岩チューブを調査することの重要性を理解してもらえるかと思います。そして、この計画は火星で発見されている縦孔・地下空洞の探査も将来的に目指しています。「火星の縦孔には生命がある」とも言われていますので、火星の探査を行うためにもまずは月の縦孔・地下空洞探査をして技術開発と経験を蓄積したいと考えています。

どのような探査方法を検討されているのでしょうか?

縦孔へダイレクトに探査機を着陸させて、縦孔内部を撮影したいと考えています。私は工学者ではないのではっきりしたことは言えないですが、今JAXAで計画されている小型月着陸実証機SLIMの精度100m以内でのピンポイント着陸技術を応用できないかと考えています。UZUMEの探査対象と考えている縦孔の大きさは直径・深さともに100mほどです。実際、縦孔の降りられる場所は20~30mと小さいため、SLIMよりさらに高い技術を求められますが、この技術がさらに進めば挑戦出来るミッションではないかと考えています。また太陽の位置によって影がなくなり底が見えるクレータとは違い、縦孔は太陽がどの位置にあっても一部は常に真っ暗なので、上空からカメラで見ると黒いポイントに見えます。これがターゲットマーカーになり探査機が着陸できると考えています。縦孔の内部はまだ誰もたどり着いていない、誰も見たことがない場所です。日本の技術と経験を活かして撮影ができれば、世界に先駆けた取り組みになります。

月探査は世界的な盛り上がりを見せ、月探査新時代が始まっています。

日本も参画しているNASA(米航空宇宙局)のアルテミス計画など、国際的な宇宙探査の流れは宇宙飛行士による有人月探査や、水があるとされる月の極域を焦点とした探査が主流です。月面での拠点建設も計画されていますが、安全性を考えるとやはり溶岩チューブの利用が最適だと思っています。海外の動きを見ていると溶岩チューブの探査計画を明確に打ち出している国もありますので、我々も世界に先駆けた取り組みができるよう、科学的な研究と工学的な準備を進めていきたいと思っています。

縦孔、溶岩チューブの探査の先にある世界とは?

科学者の研究は地質学とか火山学も大事ですが、宇宙を利用するための放射線環境とか月の環境を研究することも大事な宇宙科学で、「人が宇宙へ行く」ための情報を提供することも科学者の役割だと思っています。「宇宙に行く」と聞くと、多くの人はまず宇宙飛行士が行くことを考えてしまいますが、そうではなくてより多くの人、たとえば我々、科学者や、一般の人が誰でも自由に宇宙に行けることを考えたいですね。縦孔、溶岩チューブがあって、そこに人が安全に活動できる基地が作れたら、宇宙飛行士のためだけではない、ちゃんと一般の人が誰でも安心して行ける宇宙になります。未知の世界に、未知じゃなく行けるようになります。

まさに「人々の宇宙(そら)の夢」ですね。

人類がみんなで一緒に宇宙に行けるよう、UZUMEで道を切り拓いていきたいですね。
自分が真剣に悩んでやりたいと思った夢は、自分の芯にあると必ず近づいていけると思っています。そのためにはたくさん勉強をすること、たくさん遊んで仲間を見つけること、人と議論をしていくことが非常に大事ですね。このUZUMEも興味を持ってくださる人たちと話しをしていきたいです。ぜひみなさん勉強してUZUME一緒にやりましょう!

受賞情報

受賞年月日 受賞者 受賞内容
2022/09/20 春山 純一 令和4年度「空の日」日本航空協会表彰空の夢賞

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