平林久名誉教授 国際電波科学連合(URSI)のJohn Howard Dellinger Gold Medalを受賞
2023年8月31日 | あいさすpeople, 表彰・受賞
宇宙航空研究開発機構の平林久名誉教授が2023年8月20日に、国際電波科学連合(URSI: Union Radio-Scientifique Internationale)のJohn Howard Dellinger Gold Medalを受賞されました。受賞理由は、”世界初のスペースVLBI衛星(「はるか」)の開発とそれを使った貴重な天文学的結果を得たことへの多大なる貢献“です。
この賞の由来となっているJohn Howard Dellinger博士はアメリカの電気通信の研究を行った物理学者です。ラジオゾンデや、航空機のナビゲーションシステムなど実用的なシステムの研究を行い、短波通信に太陽フレアがどのように影響するかを初めて示しました。その事象については、彼の名前をとってデリンジャー現象として知られています。また、URSIを含む電気通信分野での国際的な活動に尽力されました。
URSIは彼を記念して、1965年にJohn Howard Dellinger Gold Medalを設立し、電波科学の分野において著しく功績のあった研究者にこの賞を贈ることになりました。
今回の受賞理由であるスペースVLBI衛星「はるか」は、1980年代からその構想の検討が宇宙科学研究所、国立天文台を中心として検討が開始され、1989年から開発が開始し、1997年にM-Vロケット1号機にて打ち上げられました。大きさが約3万kmの電波望遠鏡を作るという大事業を、世界各国の電波天文学者、電波望遠鏡、追跡局と協力して行いました。初めての試みということで多くのハードルを乗り越えて、1997年夏に初めてスペースVLBIによるイメージ作成に成功しています。その後、世界中の天文学者から観測提案を受け付け、観測は2003年まで続けられました。平林教授は構想の当初から中心としてスペースVLBI観測に従事し、衛星の開発、国際的な観測システムの構築などの重要な作業をチームの中心となって推進してきました。
受賞者のコメント
平林 久 名誉教授
授与の知らせに,非力な自分が賞に値するかと自問しました。電波天文衛星「はるか」を中心に据えたおおきな国際的ミッションが世界で初めて実現し、数年にわたって科学観測を実現できたのは日本をはじめ世界に広がるたくさんの人々、機関の協力に依るからです。お世話になった皆さん、ありがとうございました。
調べてみると、デリンジャーメダルの電波天文学分野(J分科会)での授与は、パルサーを発見したヒューイッシュ教授(1972)、インドの電波天文を大きく進めたスワラップ博士(1990)、電波天文学への装置面での貢献のロジャース博士(2008)の3例だけでした。同様のファンデルポルメダルでは、電波望遠鏡の製作と宇宙の進化のライル卿(1963)、太陽電波望遠鏡による観測研究のワイルド博士(1969)、ミリ波干渉計による宇宙観測のウェルチ教授(2008)の3例です。偉大な人々です。臆するものがありますが、わがグループが選ばれたと思えば勇気が出ます。
受賞を知った世界の仲間がメールで連絡してきました。1997年の「はるか」打上げから四半世紀の記念に、昨年2月にZoomでの会合を行い、リモートで再会した仲間たちでした。
札幌での開会式にお言葉を賜った秋篠宮殿下に、超巨大電波望遠鏡が超巨大ブラックホールの影や周辺さえも観ることができる時代に入ったことを、ほんのちょっぴりお話ししました。