実現を目指す!大学院生9名が設計した月周回衛星「Izumi」
~第30回衛星設計コンテスト受賞インタビュー:工藤雷己氏、小松龍世氏、五味篤大氏~

2022年11月12日に開催された第30回衛星設計コンテストにて、工藤雷己氏、小松龍世氏、五味篤大氏を含む、9名の大学院生で構成されたチームが「文部科学大臣賞」及び「設計大賞」を受賞しました!

五味篤大氏、工藤雷己氏、小松龍世氏
左から、五味篤大氏、工藤雷己氏、小松龍世氏

衛星設計コンテストとは、高校生から大学院生までの学生が参加でき、宇宙空間を利用した新しいアイディアやミッションを考え、その実現のための小型衛星を設計するコンテスト形式のプログラムです。衛星・宇宙開発の第一線で活躍する専門家が審査員を務め、過去提案された人工衛星が実際に宇宙へ打ち上げられるなど、「衛星開発の登竜門」とも呼ばれ、これまでも多くの学生が参加してきました。

今回、素晴らしい成績を収めたのは、複数の大学院に所属する学生9名*1。月の水資源探査をメインミッションとする月周回衛星「Izumi」を提案しました。

本記事では、チームメンバーのうち、宇宙科学研究所(ISAS)の研究室に所属する工藤雷己氏、小松龍世氏、五味篤大氏に、「Izumi」の概要や受賞の感想、オンラインでの共同研究の進め方について伺いました。

工藤 雷己

工藤 雷己 くどう らいき
(東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻/福田盛介研究室 修士課程1年)

日頃の研究では、合成開口レーダー*2を扱い、レーダー信号の特性を生かした画像処理を行っている。本コンテストでは、電源系と軌道決定を担当。「Izumi」は、探査対象である“水”をイメージした名前として工藤氏が提案した。

小松 龍世

小松 龍世 こまつ りゅうせい
(総合研究大学院大学物理科学研究科宇宙科学専攻/川勝康弘研究室5年一貫制博士課程1年)

軌道設計の研究を行い、現在は地球・月系の軌道設計に関する研究をメインとしている。本コンテストでは、軌道設計を担当。

五味 篤大

五味 篤大 ごみ あつひろ
(東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻/小川博之研究室 修士課程1年)

宇宙機の熱制御、中でも極低温ループヒートパイプ*3に関する研究を行っている。本コンテストでは、熱設計を担当。

※所属、学年はインタビュー(2023年2月)時のもの。

工藤雷己氏インタビュー
工藤雷己氏

チーム結成の経緯を教えてください。

工藤雷己氏インタビュー
工藤雷己氏

工藤: チームの発足は、谷口絢太郎君(早稲田大学大学院)から、「衛星設計コンテストに一緒に参加しない?」と、僕と相澤脩登君(東京大学大学院)が誘われたことから始まりました。僕たち3人は、宇宙開発フォーラム実行委員会(SDF)*4という学生団体で、学生時代から活動をしてきた仲間です。発表するテーマを決めて、一緒に研究を進めていく仲間をSDF内外で探していく中で、五味君、小松君、そして他の仲間も参加してくれて、9名のチームになりました!

五味さんと、小松さんがこのチームへ参加しようと思われた理由は?

五味: 僕もSDFの仲間で、「このチームで熱設計をやってくれない?」と誘われました。

工藤: 五味君を誘った頃にはテーマも決まってたね!谷口君から、「月面ローバーに搭載した検出器で中性子を観測して水資源を探査する」という研究の話を聞いて、その発展版として「衛星からの観測で探査ができないかな?」と検討を始めていました。

五味篤大氏インタビュー
五味篤大氏

五味: 「中性子に着目した観測」がどんな研究なのか、面白そうだなと思いましたし、声を掛けてもらった時には、翌年度から熱制御の研究室に所属することが決まっていたので、熱設計をより詳しく、主体的に取り組む機会として、成長できるかなと思って参加しました。

小松: 僕は友人を介して「軌道設計ができる人を探しているらしい」と話を聞き、月周りの軌道設計に興味もあったので、参加しようと決めました。チームの雰囲気もよくて、すぐに溶け込めましたね。

月周回衛星「Izumi」の概要を教えてください。

小松: 「Izumi」のメインミッションは、月の水資源探査です。今後、宇宙開発が進む中で、月の水資源の詳細な情報は、基地建設や燃料製造、生命維持、月面産業の創出にもつながる、重要な要素であると考え、水資源探査ができる宇宙機を設計し、提案しました。観測としては、地中の水分量の情報を持ち、月面から漏出する中性子に着目して、「中性子望遠鏡」という世界初の技術を提案しました。高い空間分解能で観測することができるこの技術を使うことで、信頼性の高い水資源探査を実現します。また、今回設計した軌道を最大限に活かし、同じ軌道上で中性子寿命の測定を行い、基礎科学の発展に貢献できるサブミッションも提案しました。

「解析書」や「模型製作」などの提出も求められる本コンテスト。所属する大学や研究室が異なるメンバーで、どのように研究を進めたのでしょうか。

工藤: 週に1度のオンラインミーティングで、議論や情報のすり合わせを行いました。

小松: ミーティング以外でも、オンライン上で共同編集をしたり、結果を共有してお互いにコメントをしたり。コロナ禍で当たり前になったオンラインでの進め方だからこそ、スムーズに進められたと思っています。

五味: 自分の担当した「熱設計」は、他の分野のサブシステムから影響を受けるので、みんなの状況を確認して連携をとれるオンラインでの進行は、やりやすかったですね。もちろん、9名それぞれ難しいことや大変なこともありましたが、日ごろの研究に近い分野を担当していたので、自分の研究室の先生や先輩方に質問・相談しながら、解決していきました。

小松: 直接対面で集まる機会も月1回ぐらい作れたよね。

五味: コンテストに提出する模型を製作する時も集まったね。手を動かして、みんなでワイワイしながらスプレーで色を塗ったり。童心に帰ることができて楽しかったですね。

小松: やっぱり、集まった時に直接近況報告をしたり、話を聞いたりする時間は楽しかったです。

「文部科学大臣賞」と「設計大賞」のW受賞。審査員からも「完成度の高い提案!」との声があったと伺いました。率直な感想は?

小松龍世氏インタビュー
小松龍世氏

工藤: この完成度なら受賞できるんじゃないかな…と、僕は自信があったので、驚くというよりも、ホッとしました。

小松・五味: おぉ~言うね~!(笑)

小松: 受賞に繋がった部分としては、研究の進め方が、トップダウンとボトムアップがいいバランスでできたことかなと思います。衛星の開発は、まず目的であるミッションとシステムの要求があって各サブシステムを設計しますが、その連携がきちんとトップダウンで進められました。各サブシステムの設計も、9名がそれぞれ、日頃専門としている研究をベースに力を発揮した内容なので、ボトムアップも出来たかなと思います。

工藤: 「完成度」で言うと、実現性の高い設計ができたことも、評価に繋がったと思います。例えば、提案した「中性子望遠鏡」は、まったく新しい技術ですが、思いつきではなくて、X線望遠鏡の仕組みを参考に、製造方法や計画の検討を進めました。

小松: 打上げ機会についても、アルテミス計画などの現在の月探査を背景に、JAXAの月周回軌道輸送プログラムへの搭載を念頭に計画しました。

工藤: 全体として現実的で、説得力があるミッションを提案できたのではないかと思います。

小松: 次の目標は、国際宇宙会議IAC(International Astronautical Congress)か、Small Satellite Conferenceのどちらかに出したいね、と話しています。また、チームメンバーの谷口くんと鶴見さんが所属している理化学研究所の榎戸輝揚チームリーダー (**京都大学准教授兼任)には、衛星設計コンテストに向けてミッションを検討し始めた時からご指導いただいていたこともあり、現在もIzumiミッションの実現を視野に入れて段階的に検討を進めています。

今回の経験によって、今後の目標に変化はありましたか?

五味: 日頃行う研究では、「このデバイスの中の、この部分の現象は…」と、どんどん細分化していくのに対して、衛星設計コンテストでは、宇宙機の熱設計・熱制御の全体について、幅広い知識を得られたと感じています。この知識と視点を今後も生かしていきたいです。

工藤: 今回の衛星設計コンテストでは、日頃専門としている研究以外に、軌道に関連することも担当しました。この経験を生かして、今の研究からもう少し分野を広げて、合成開口レーダーの設計や、観測計画の決定など、より広い範囲でのプロフェッショナルになれるように頑張りたいです。

小松: 僕は、もともと月周りの軌道に興味があります。自分が主体的に関わっていて、実現の可能性が高いプロジェクトとして、この「Izumi」の存在があります。今後はなんとかして、「Izumi」を打ち上げたいですね!実現できるように、動いていきたいです。

工藤: 実現まで、「Izumi」の名前を将来のプロジェクト名として予約しておきたいですね(笑)

一同: (笑)


左から、五味篤大氏、工藤雷己氏、小松龍世氏

  • *1 “Izumi”チーム(所属・学年は2022年11月 受賞時) :
    • 谷口絢太郎 早稲田大学大学院 基幹理工学研究科 機械科学航空宇宙専攻 修士1年 *Izumiリーダー
    • 鶴見 美和 青山学院大学大学院 理工学研究科 理工学専攻 修士1年
    • 小松 龍世 総合研究大学院大学 物理科学研究科 宇宙科学専攻 修士1年
    • 工藤 雷己 東京大学大学院 工学系研究科 電気系工学専攻 修士1年
    • 伊澤 梓実 青山学院大学大学院 理工学研究科 理工学専攻 修士1年
    • 海江田 蒼 横浜国立大学大学院 理工学府 機械・材料・海洋系工学専攻 修士1年
    • 相澤 脩登 東京大学大学院 工学系研究科 航空宇宙工学専攻 修士1年
    • 五味 篤大 東京大学大学院 工学系研究科 航空宇宙工学専攻 修士1年
    • 永井悠太郎 京都大学大学院 理学研究科 物理学・宇宙物理学専攻 修士1年
  • *2 合成開口レーダー : 衛星からレーダーを使って電波を照射、地表の反射特性を捉えることで、地表面を観測することができる技術。
  • *3 ループヒートパイプ : 宇宙機に搭載されている機器からの発熱を、放熱部まで運び出す熱制御装置。毛細管力を駆動力として、電力を使わずに大容量の熱を長距離運び出すことができる。
  • *4 宇宙開発フォーラム実行委員会(SDF) : 「宇宙開発フォーラム」や自主プロジェクトの企画・運営を行う学生団体。文系・理系問わず、宇宙に興味を持つ学生が、様々な視点から宇宙開発の課題を考え、交流、議論、発信を行い、プロジェクトの遂行を通じて、宇宙開発への貢献を目指している。
    宇宙開発フォーラム実行委員会(SPACE Development Forum Executive Committee)

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