宇宙開発は新時代へ!月近傍ミッションの選択の幅を広げたい!
~宇宙科学技術連合講演会優秀発表賞受賞インタビュー:小松龍世氏~

2022年11月1日~4日に開催された第66回宇宙科学技術連合講演会の学生セッション(ポスターセッション)において、小松龍世氏(総合研究大学院大学物理科学研究科宇宙科学専攻/川勝康弘研究室 5年一貫制博士課程1年)が優秀発表賞を受賞しました!研究テーマは「地球月三体系における周期軌道への月スイングバイを用いた軌道投入」。
また、小松氏の活躍は本受賞だけでなく、同月12日に開催された第30回衛星設計コンテストでは、複数の大学に所属する大学院生9名と共に参加して「水資源探査のための月周回衛星“Izumi”」という研究テーマで発表、「文部科学大臣賞」及び「設計大賞」を受賞しており、「月」に関する研究で、同時期に3つの賞を受賞しました!(※こちらの記事も後日「あいさすpeople」に掲載予定です。)
本記事では、宇宙科学技術連合講演会での受賞や研究の概要、なぜ「月」をテーマに研究しているのかなどを小松龍世氏に伺いました!

小松龍世氏

宇宙科学技術連合講演会にて発表した研究テーマ、「地球月三体系における周期軌道への月スイングバイを用いた軌道投入」とは?

近年、NASA(米航空宇宙局)のアルテミス計画など、月がとても注目されていますが、僕も意識をしています。今後は、有人探査を始め、月に継続的にアクセスする機会が増えることや、NASAのアルテミス計画初号機(Artemis I)に超小型探査機が搭載されたように、小型宇宙機が相乗りして月へ輸送される機会も増えていくだろうと考えています。それに合わせて、月近傍でミッションを行うための「ミッション軌道」の選択肢を増やすことができれば、ミッションの選択の幅が広がるだろうと考え、この研究を行いました。
研究の概要としては、地球と月の二つの重力を受けながら宇宙機が周回する軌道、つまり地球・月の三体系*1における周期軌道に宇宙機を投入したいと考え、スイングバイ*2を使って投入できるか、どのように投入できるかを解明しました。

「ミッションの選択の幅を広げる」とは?

一例を挙げて説明すると、今後、月に行く機会が増えれば月と通信する機会が増えるので、通信インフラ整備が必要になると考えています。これまでの月周回軌道だと、地球と通信できるタイミングが安定しませんでしたが、今回発表した地球・月の三体系における周期軌道に投入できれば、地球と月の位置関係から相対的に宇宙機がどこにいるのかがわかりやすくなり、安定した通信を行える可能性が広がります。つまり、ミッションを行う上で必要となるインフラ整備のためにも、このような軌道投入により今後の宇宙探査ミッションをサポートできたらいいなと考えています!

受賞を知った時の感想は?

「よかった~!」と、安心しました(笑)
というのも、所属している川勝研究室には、様々な学会で素晴らしい発表をされてきた先輩方がたくさんいるので、とてもプレッシャーがありました。僕はまだまだですが、先輩方はすごいです!この発表に向けても、たくさんのアドバイスをいただきました。同期にも練習に付き合ってもらいました。ご指導をいただいた川勝先生はもちろん、研究室の皆さんにとても感謝しています。

研究室で受けたアドバイスでは、どのようなことが受賞に繋がったと思いますか?

インタビューの様子

今回に限らず、日ごろ実施されている研究室のゼミでは、自分が発表する際に先輩方から多くの質問、指摘を受けるんですね。鋭い指摘もたくさんあって(笑)「そういう所まで考えないといけないか…」と毎回実感するので、研究を詳細まで詰められます。この過程で、論理的な思考で研究を進める力を身につけられたことが、今回の受賞に繋がったかなと思っています。
発表に向けては、ポスター制作についてもアドバイスをいただきました。レイアウトや配色、言葉の使い方まで見てくださり、「絶対にいい!」と自信が持てるポスターを作れました。たくさん練習もして、本番に臨んだので、当日はある程度の緊張もありながら、落ち着いて発表できたかと思います。

同時期に参加された衛星設計コンテストでは、「水資源探査のための月周回衛星“Izumi”」というテーマで発表をされたと伺いました。どちらも月をテーマに研究されていますね。

思い返すと、よく月をやっていますね。今後の宇宙開発において、火星に行くためにも月は重要なポイントであると思っているので、月関連の研究は注目していますね。月に魅力があるのかな、と(笑)
僕が生きているうちに、どこまで出来るのか考えてしまいますが、今は短期間で結果を出せるミッションに魅力を感じています。1週間程度で行ける距離にあるという点でも、今の興味は月がメインですね。今後、画期的な技術が出てきたら、遠方のミッションも考えていきたいですね!あとは、彗星に興味があります。軌道の特徴が面白そうだなという直感的な興味から、彗星探査も気になりますね!

今後はどのような研究を目指していますか?

軌道設計は、ミッションを達成できる軌道をいくつか用意して条件に適した軌道を選択するイメージが僕の中にあるのですが、そういった個々のプロジェクトに対する軌道設計というよりは、「軌道設計手法」を作って、一つの手法で様々なプロジェクトに活用ができるような、汎用性の高い手法の研究がしたいな、と最近思うようになってきました。設計する軌道の価値を高められたらなと思っています。もちろんプロジェクトの観点から「この軌道でいく!」と一つのプロジェクトの軌道設計も経験したいです。「月周回衛星“Izumi”」の研究は、実現に向けて検討を進めているので、まずはこの研究を主体的に続けることで、プロジェクトの経験もできたらいいなと思っています!


  • *1 三体系 : 人工衛星のような地球と宇宙機の二物体の運動を二体問題(二体系)というのに対して、三物体(小松氏の研究では地球と月と宇宙機)の運動は三体問題(三体系)と呼ばれる。地球と月の二物体の重力を受けて運動する宇宙機という意味でしばしば地球月三体系という。
  • *2 スイングバイ : 月などの衛星や惑星の重力を利用して、宇宙機の進む方向を変えるなど、加速・減速する航法。燃料を使わずに探査機を運航できるため、必要なエネルギー量を抑えることができる。また、スイングバイ時に宇宙機自身の推進剤を併用する場合は「パワードスイングバイ」と呼ばれる。
    小松氏の本発表ではスイングバイでの軌道投入の解析を行ったが、現在はパワードスイングバイを活用した軌道投入の研究を進めている。

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