アイデアと実績が画期的な小惑星探査に
―理学と工学、そして理系と文系の融合の結晶―
~「S-Booster 2023」最終選抜会最優秀賞・NEDO賞、受賞インタビュー:尾崎直哉准教授、兵頭龍樹氏~

2023年11月16日(木)に開催された内閣府主催の宇宙分野のビジネスアイデアコンテスト「S-Booster 2023」の最終選抜会において、尾崎直哉准教授(宇宙科学研究所 宇宙機応用工学研究系)と兵頭龍樹氏(宇宙科学研究所 太陽系科学研究系 国際トップヤングフェロー)のチームが最優秀賞とNEDO賞に輝き、賞金1,000万円を獲得しました。

尾崎氏、兵頭氏
S-Booster2023 最優秀賞・NEDO賞の賞状とトロフィーとともに。左より、尾崎直哉准教授、兵頭龍樹氏。

チーム名は「Astromine」(アストロマイン)、アイデア名は「ASTROMINE 小惑星に、毎月いける時代を創る」、その内容は、地球から月よりも遠い深宇宙に複数の超小型探査機を打ち上げて、月に1度の小惑星探査の実現を目指すというものです。これによってAstromineは、「小惑星資源ビジネス」と「プラネタリーディフェンスビジネス」を提案しています。本記事では、受賞内容やお二人の出会い、今後の展望などについてお話をお伺いしました。

この度は、S-Booster最優秀賞とNEDO賞の受賞、おめでとうございます。まずは受賞の際のお気持ちをお聞かせください。

尾崎氏

尾崎: 二人でハイタッチをして、純粋にめっちゃ嬉しかったし、ほっとしました。自信はあったのですが、周りの方々にいろいろとサポートをしてもらったので、相当プレッシャーもありました。

兵頭: S-Boosterプログラムでは、一次選抜としての書類審査と、二次選抜としてのピッチプレゼンテーションを実施します。この過程を経て、最終選抜に進むチームには、ビジネスと起業に精通した専門家がメンターとして配属されます。ビジネスと経済の観点から、発表方法や練習に至るまで、貴重な助言と応援をいただきました。これに応えたいという強い意欲と、それに伴うプレッシャーを感じました。

S-Boosterとは、どういうコンテストなのでしょうか。

兵頭氏

兵頭: 「S-Booster」は、2017年に始まった宇宙分野のビジネスアイデアコンテストで、[1]イノベーション性(革新性)、[2]実現・収益性、[3]社会発展性の3つの観点から審査されます。イノベーション性と社会発展性については、宇宙探査や宇宙科学の最先端の研究に取り組んでいたこと、それに天体の地球衝突問題を扱うプラネタリーディフェンスと宇宙資源探査の観点を結び付けたことから、自信がありました。しかし、実現・収益性については、ほとんど何も考えたことがなかったので、メンターの方々に文字通り先生と生徒のようにいろいろと教えていただきました。

今回のS-Boosterへの参加は、いつ頃から考えていたのでしょうか。またそのアイデアは、いつ頃から温めていたのでしょうか?

兵頭: 今から半年前の2023年6月です。ただそれよりも前から、深宇宙への超小型探査機やそれらを組み合わせたコンステレーションに関する学会発表や論文発表を尾崎さんと共同で行いながら、こんな面白いことがあるとか、こんなことができたら面白いとか、普段からいろいろな話をしていました。超小型外惑星探査プログラム(OPENS)の活動もそうです。

尾崎: 宇宙科学研究所(宇宙研)の他の先生方にも相談をしたところ、挑戦してみたらと背中を押してもらいました。さらに、宇宙研ではなく、Astromineという民間主導で小惑星探査を進めることに関しても、我々の強い想いがあります。その一つが、小惑星探査ビジネスをいま始めないと、数十年後には日本が誇る小惑星探査の科学技術が失われてしまうかもしれないという危機感です。宇宙研はどんどん新しいことに挑戦していく組織なので、組織の性質上、小惑星探査ミッションを永久に続けていくことは困難であると感じています。SpaceXの再利用ロケット技術然り、良い技術を持っているにも関わらず、民間利用に繋げられてこなかった日本の歴史があります。日本全体として宇宙ビジネスに対する応援ムードが続いていて、小惑星探査機「はやぶさ」 、深宇宙探査技術実証機DESTINY+、火星衛星探査計画 MMX等の「日本が世界に誇る科学と技術」をビジネス化するには、いまが千載一遇のチャンスだと感じています。

「月に一度の小惑星探査」とは具体的にどのようなことでしょうか。

兵頭: 我々は、1年掛けて探査機が地球と小惑星の間を行き来する軌道設計手法を編み出しました*1。そのような軌道に、探査機を12個打ち上げれば、毎月、出発する探査機が1機、戻ってくる探査機1機ということになります。その際、どの小惑星にどのような軌道で探査機を次々と送るかが問題となります。これまでの宇宙探査では、目標の天体(小惑星など)を決めてどのように辿り着くかの軌道設計を研究してきましたが、今回は逆問題を解くように、あるいは逆転の発想で、計算上、仮想の小惑星を大量に作り、これらに効率的に辿り着く軌道を機械学習で蓄積することで、地球から小惑星までの軌道を効率よく発見する手法を提案しています。
今回のアイデアは、まさに軌道設計技術の結晶の塊の上にあります。この軌道設計技術を複数機に同時に応用すること(深宇宙コンステレーション)がポイントです。さらに、日本がこれまで培った超小型探査機技術を利用することで、探査機開発費が何百億円という高額にならずにビジネスを成立させられるところが画期的なのです。

尾崎: これが実現すると、数十億円もしくは数億円で、探査機で小惑星探査ができます。そうすると、これまでは1つの小惑星を調べるために10年と数百億円がかかりましたが、毎月、数億円でいろいろな小惑星を調べることができ、プラネタリーディフェンスと宇宙資源探査に有効活用できるわけです。

小天体フライバイサイクラー軌道の概要図
尾崎直哉, あいさすGATE, 2022.7.21より
小天体フライバイサイクラー軌道の概要図(左:太陽中心・黄道面中心慣性座標系、右:地球中心・太陽地球固定回転座標系)

プラネタリーディフェンスとはどういうものでしょうか。

尾崎: 小惑星の中には地球の方に向かってくるものがときどきあり、それが地球に衝突したら大変なことになります。そのため、アメリカを始めとして日本も協力していますが、地球の方に向かっている小惑星がないか、日々観測を続けています。もし衝突するかもしれない小惑星が見つかった時には、その小惑星の軌道を変更して衝突しないようにすることが検討されています。こうした取り組みがプラネタリーディフェンスです。今回のアイデアは月に一度の小惑星探査を実現することによって、独自のプラネタリーディフェンスができると考えています。

お二人は宇宙研の中で、太陽系科学研究系(理学)と宇宙機応用工学研究系(工学)という別々の専門となりますが、どこで接点があったのでしょうか、お二人の出会いは?

兵頭: やはり宇宙研という理学と工学が一緒にいる環境が大きかったと思います。最初に出会ったのは宇宙研に来る前だったと思いますが、本格的な交流が始まったのは宇宙研にきてからです。

尾崎氏、兵頭氏

尾崎: 二人がそれぞれ常に、工学だけでなく理学も、理学だけでなく工学も視野に入れて研究活動を行ってきたことも大きかったと思います。出会うべくして出会ったという感じです。ただ、理学と工学の連携(理工連携)と言うのは簡単ですが、結果を出すのはなかなか難しいのが現実です。今回の取り組みが、宇宙研の理工連携の成功例の一つとなって、さらに新しい理工連携につながってくれればと思っています。

S-Booster 2023の最優秀賞・NEDO賞の受賞、おめでとうございます。賞金1,000万円の成果とともに、お二人の研究の益々のご発展をお祈りしています。

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