水星の謎を解明していく研究と充実したISASでの学生生活!
~日本地球惑星科学連合2023年大会学生優秀発表賞受賞インタビュー:平田佳織氏~
2023年9月15日 | あいさすpeople, 表彰・受賞
2023年5月21日(日)~26日(金)に開催された日本地球惑星科学連合(JpGU)2023年大会において、平田佳織氏(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻/臼井寛裕研究室博士課程2年)が学生優秀発表賞を受賞しました!
発表した研究テーマは「MESSENGER X線分光計による主成分元素比データの多変量解析を用いた水星表面化学組成ユニットの同定」。平田氏は2022年大会においても、研究テーマ「宇宙物質の組成データベースを用いたMMX MEGANEデータの多変量解析によるフォボスの起源の制約」で同賞を受賞、2年連続の受賞となりました!
研究以外にも、「JAXA相模原キャンパス・オンライン特別公開」の若手実行委員や、ISAS学生コミュニティ、フットサルチームなど、宇宙科学研究所(ISAS)内の様々なコミュニティに参加、活動している平田氏。本記事では、受賞対象となった研究の概要や今後の目標と合わせて、ISASでの学生生活の様子も伺いました。
「日本地球惑星科学連合2023年大会学生優秀発表賞」の受賞、おめでとうございます!発表された「MESSENGER X線分光計による主成分元素比データの多変量解析を用いた水星表面化学組成ユニットの同定」とは、どのような研究でしょうか。
ありがとうございます!
太陽系の中で地球と似た性質を持つ惑星は、水星・金星・火星がありますが、その中で特に水星はこれまで十分な観測・探査が行われておらず、情報が多くありません。その水星の観測で今も残る大きな謎が、水星の表面に蒸発しやすい元素「揮発性元素」が地球や他の地球型惑星と比べて多く存在することです。揮発性元素が「なぜ水星に多く存在するのか」、「水星形成当初から多く存在していたのか、あるいは、形成後の天体衝突によって外部から供給されたのか」を解明することを目指して、私は水星の研究をしてきました。
現在の水星表面の研究に主に使われているのはNASAの水星探査機「MESSENGER」の観測データなのですが、観測機器によって空間解像度(空間的な違いをどれだけ細かく分解して見られるか)が違うという問題があります。元素組成のデータは特に空間解像度が低く、揮発性元素の起源の理解に重要である、元素組成と地質との関係性はこれまで解明されてきませんでした。そこで、まずはこの観測データから元素組成と地質との関連を見出したいと取り組んだのが、今回発表した研究です。
本研究では、水星表面でも最大級の地形である「カロリス盆地」という領域を対象とし、『MESSENGER探査機がこの領域内で観測した「スペクトル(色)」データが観測地点により3種類に分類されることから、これに対応して各地点に対応する元素組成も3種類に分類される』と仮定したモデルを考えました。スペクトルデータは元素組成データよりも高い空間解像度を持っていて(=より小さい空間スケールの違いを見ることができる)、元素組成の観測データは3種類の元素組成の「観測視野内での重み付き平均」により表現できることになります。今大会では、このモデルを使って実際に計算した元素組成について発表しました。これまで見ていたデータが観測地点周辺の広がりを持った領域内での(=粗い)元素組成を表していたのに対し、水星の地面を構成する個別の岩石に対応するような(=細かい)元素組成が推定できるようになったことで、地面がどのように形成されたか(地質)との比較が可能になります。「水星に存在する揮発性元素の起源」という大きな問いは未解明ではありますが、第一段階として「水星地面の材料となった内部物質の進化」の解明に迫る研究になりました。
2022年大会で発表した研究テーマは「宇宙物質の組成データベースを用いたMMX MEGANEデータの多変量解析によるフォボスの起源の制約」。火星衛星に関する研究でも同賞を受賞されていますね。
私は「惑星の地面がどのように形成・進化してきたのか」に興味を持って研究をしていますが、惑星の形成・進化を考えるには、一つの惑星だけを見るのでなく、比較して共通点・相違点を理解することが科学的にとても有意義だと考えられています。また、これまで研究してきた水星と火星系はどちらも、今ある観測データや将来取得できる観測データを最大限活用するためのちょっとした工夫がポイントだと思っています。研究を続けていく中で、そこを自分の得意技にしていけたらいいかなと思っています。
受賞に繋がったと思えるような取り組みはありますか?感想と合わせて教えてください!
私は人前に立つととても緊張して喋れなくなるタイプなのですが、所属している臼井研究室の皆さんに何度も発表の練習を見ていただいたり、教えていただいた発表スライドの作成のノウハウを活かして準備をしたりしました。皆さんのアドバイスがあって、今大会での発表を評価していただけたのかなと思っています。また、修士・博士課程を通じて、学会などで発表する機会がとても多く、経験を積めたこともあり、最近では発表をするのが少し楽しみになってきたようにも感じています。
受賞の感想としては、もちろん嬉しい気持ちはありますが、博士課程3年間の研究の中でまだ中間地点にいるので、これから臼井先生はもちろん、色んな方と議論をしていく上で高めていけたらと思います。楽しみです!
研究以外にも、ISAS内の様々なコミュニティに参加、活動されていると伺いました。
相模原キャンパス・オンライン特別公開の若手実行委員をはじめ、学生コミュニティやフットサルのコミュニティに参加しています。参加をきっかけにISAS内に知り合いが増えたなと実感した頃からは、これまで以上にISASでの生活をたのしめるようになったと感じています。色んな研究者の方や学生が多く在籍しているISASであっても、きっかけがないとなかなか交流しづらいですが、交流を広げる機会が多くある今の環境は、自分の成長にも繋がる刺激的なものだったなと思っています。
お話の中で、「人前はとても緊張する…」とありました。オンライン特別公開では配信番組の司会進行もされていますが、一番苦手とする部分に挑戦されていたということですね!
周りからはそうは見えないと言われますが(笑)、司会進行でもとても緊張しています。
ですが、人前で喋ることへの苦手意識を多少…?克服できたのは、オンライン特別公開等で村上豪さん(宇宙科学研究所 太陽系科学研究系 助教)をはじめ、研究者の方と一緒に、宇宙科学の魅力を発信する企画・制作・司会などの経験をしてきたからだと思っています。「誘われたら断らない!」というのが私の主義でもあり、村上さんからのお誘いを受けて始めた活動ですが、この経験は今回の受賞や研究活動にも繋がっていると思います。(ISASの情報発信!オンラインイベントで宇宙の仲間を増やしたい~JAXA相模原キャンパス特別公開 若手実行委員インタビュー)
今後の学生生活や、目標を教えてください!
まもなく海外の研究機関へ留学します。2022年に初めて参加した海外での学会をきっかけに、海外の研究者の方と交流が始まり、その繋がりで今回の留学の機会を得られました。今年の初めには、事前に同留学先に短期間滞在し、私と同様に他国から来た学生と寝食を共にしながら研究をする生活をしました。もちろん充実した研究ができましたが、合間には自分たちが将来どんな研究生活を送っているのかを思い描いて話す時間もあり、同世代の研究者が世界中にいることを実感してより熱い気持ちになりました。今は留学に向け、楽しみ70%、寂しさ30%、「やってみよう!」という感じです!
研究での目標は、まずは博士課程が終わるまでに「これ!」という自分の軸を1つ確立して、その軸を中心に色々な研究が出来るようになりたいと思っています。また、惑星探査ミッションの雰囲気に憧れがあり、将来的にはミッションに携わりたいという想いもあります。日本だけでなく、ヨーロッパやアメリカなど、国際的に色んな人と関わるような研究者になりたいと思っています。
国際水星探査計画「BepiColombo」が2025年12月の水星到着を目指して航行を続けていますね!
国際水星探査計画「BepiColombo」は、JAXAが開発した水星磁気圏探査機「みお」と、欧州宇宙機関(ESA)が開発した水星表面探査機「MPO(Mercury Planetary Orbiter)」、2つの周回探査機で水星の観測を行う日欧協力のミッションです。私の研究では水星の表面・内部の観測を行うMPOの観測データに期待しています。日本では「みお」に注目が集まっているかと思いますが、「MPO」による観測や、水星の地面の研究も、直感的にわかりやすく、興味を持ってもらえる面白さがあると思っています!「BepiColombo「みお」第3回水星スイングバイのオンライン配信」の際にも、水星表面についての話とMPOについて紹介しましたが、これからも機会があればアピールしていきたいですね!
受賞情報
受賞年月日 | 受賞者 | 所属大学院 | 指導教員 | 受賞内容 |
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2023/05/28 | 平田 佳織 | 東京大学大学院 理学系研究科 地球惑星科学専攻 博士課程2年/ 宇宙科学研究所 太陽系科学研究系 臼井研究室 | 臼井 寛裕 | 日本地球惑星科学連合2023年大会学生優秀発表賞、「MESSENGER X線分光計による主成分元素比データの多変量解析を用いた水星表面化学組成ユニットの同定」 |