ISASの情報発信!オンラインイベントで宇宙の仲間を増やしたい
~JAXA相模原キャンパス特別公開 若手実行委員インタビュー:村上豪氏、木村駿太氏、西山万里氏、平田佳織氏~

宇宙科学研究所(ISAS)では、最新の研究成果や宇宙科学の魅力を広く社会に発信するため、講演会の開催や、宇宙を身近に感じてもらうためのイベント等を行っています。
本記事では、年に一度開催される「JAXA相模原キャンパス特別公開」について、オンライン配信の運営を行う研究者の活動をご紹介します。

「特別公開」とは、宇宙科学研究所相模原キャンパスを一般公開し、最新の研究紹介や、通常の見学では見ることができない施設の公開、ロケット・探査機模型の展示など通じ、来場者の方々とJAXAスタッフが交流を行うイベントです。宇宙科学を身近に感じていただける機会として開催しています。新型コロナウィルス感染症の影響を受け、現地開催を断念した2020年度からは、オンライン配信での開催を導入し、最新研究の紹介動画を番組形式で配信したり、研究者の生の声をお伝えする企画を盛り込んだりと、現地開催と同様に、宇宙科学の今を知っていただける新たな「特別公開」の形を作りました。
このオンライン配信の企画・運営をしたのは、JAXA相模原キャンパスの若手研究者や学生、職員の有志が集まった「特別公開実行委員」です。

オンラインイベントの開催にあたり、実行委員の活動や、情報発信へ取り組む想いについて、特別公開実行委員を代表して、村上豪、木村駿太、西山万里、平田佳織の各氏にお話を伺いました。

2022年度宇宙科学研究所 所長賞を受賞した村上豪氏、平田佳織氏、西山万里氏、木村駿太氏
左から、村上豪氏、平田佳織氏、西山万里氏、木村駿太氏
村上 豪

村上 豪(宇宙科学研究所 太陽系科学研究系 助教)
国際水星探査計画BepiColomboの水星磁気圏探査機「みお」の科学チームリーダー。特別公開を始め、ISASが開催している多くのオンライン配信イベントの企画・運営のリーダーでもある。運用室での宇宙機のオペレーションを生配信するなど、これまでにない宇宙科学研究のリアルな発信にも挑戦している。

木村 駿太

木村 駿太(宇宙科学研究所 学際科学研究系 特任助教 兼 宇宙探査イノベーションハブ)
2021年1月からISASに所属。微生物学を専門として、惑星保護*1の観点から研究開発に取り組んでいる。特別公開では生放送企画「そらむすび」の番組製作や、オンライン配信イベントでは映像・音響を担当。2022年度特別公開では「ISASラッパーズ」として、ラップも披露した。

西山 万里

西山 万里(宇宙科学研究所 科学衛星運用・データ利用ユニット 研究開発員)
科学衛星・探査機のデータに関する、システム開発や整備、運用、管理部署の窓口役。プロジェクトチームからの要望等を聞き、調整を行っている。学生時代には相模原キャンパス宇宙科学展示スペースの展示説明員などを経験。宇宙科学の魅力を伝える活動に携わってきた。

平田 佳織

平田 佳織(東京大学大学院 理学系研究科地球惑星科学専攻/臼井寛裕研究室博士課程2年)
惑星の起源や形成過程を明らかにするため、データ解析による研究を行っている。オンラインイベントの立ち上げ時から、村上氏のアシスタントとして運営に参加。また、また、教育プログラムである“きみっしょん”の運営や、ISASの学生コミュニティのリーダーを務めるなど、ISAS内の学生活動にも積極的に参加している。

オンライン配信イベントに挑戦されたきっかけは?

村上インタビューの様子

村上: 2020年11月29日から6日間連続で実施した「はやぶさ2帰還・拡大前夜祭!オンライントークイベント」が配信の原点ですね。小惑星探査機「はやぶさ2」のサンプルカプセルの地球帰還を盛り上げようと、最新情報の紹介や、視聴者参加型で質疑応答を受け付けたり、その様子をYouTube配信するなどの企画をしました。新型コロナウィルスが蔓延し始めた頃から、講演や学会でのオンライン配信の経験を積んでいたので、そのノウハウを生かして挑戦しました。このイベントが好評だったこともあり、特別公開もオンライン開催でやってみようとなりました。
この時に有志で集まってくれた運営メンバーと若手研究者や学生、職員で「特別公開実行委員会」として運営体制を作り、「やりたいこと、やれることを手作りでやろう!」というコンセプトでスタートしました。

そして、「JAXA相模原キャンパス・オンライン特別公開 2020」を実現されましたね!最新の研究情報を番組形式で紹介するだけでなく、研究や研究者を身近に感じる企画もあり、新たな開催方法として視聴者の皆さんに喜んでいただけたのではないでしょうか。

村上: 現地開催で感じてもらえていた雰囲気をオンライン配信でも表現したいと思い、宇宙科学の情報だけでなく、研究者の生の声をお届けできるような企画を考えました。
参加者を限定したそれまでのオンラインイベントとは違い、特別公開はYouTubeを使用して不特定多数の人への配信に挑戦したので不安もありました。一人でも多くの方に視聴してもらえるように、プライベートでもご近所の友人家族にも宣伝しました。実はそういうローカルな応援にも支えられてスタートした企画です(笑)当時支えてくれた友人や子供たちは、それをきっかけに宇宙に興味を持ってくれ、今でもISASのファンでいてくれています!ありがたいですね。

配信では、番組の司会進行や、ミュージックビデオなど、実行委員のみなさんが活躍する姿がありますが、実際はどのような活動をされているのでしょうか?

ミュージックビデオ
木村氏、村上氏、西山氏が参加したミュージックビデオ。撮影・動画編集には平田氏も携わった。

木村: 僕は、2022年の特別公開ではミュージックビデオ企画に参加して表にでることもありましたが、主に裏方の作業を担当しています。音響や配信機材を扱って、オンライン配信番組での映像画面の切り替えや、マイクの調整などを行っています。

2022年度特別公開番組表
2022年度の特別公開では、ライブ&事前録画形式の全23番組が配信された。

村上: 木村くんの技術がチームを支えています。この技術があるから、色んなアイディアを実現することができていますね!

平田: 木村さんは機材関係以外にも、本格的な配信になるように、BGMや効果音などを何種類も作成したり、どんなトラブルにも対応できるように丁寧にリハーサルをするなど、細部にもこだわって番組を作ってくれています。

西山: 私も思いがけずミュージックビデオに参加してラップを披露したこともありましたが(笑)、担当はプログラム(番組表)の組み立てや、実行委員の窓口として配信に参加する方との連絡・調整役です。特別公開当日までの全体のスケジュール管理や調整をしています。

村上: 実行委員のメインのタスクです。多くの関係者がいるので、その調整は大変ですが、西山さんはレスポンスが早く、効率の良い管理をしてくれています!

西山: 日頃の業務でも、自分の部署の窓口役としてISASのプロジェクトの方との調整をしているのですが、業務でも、この実行委員の中でも、企画の実現に向けたサポートはとてもやりがいがあり、楽しいですね!

平田: 私はオンラインイベントではアシスタントMCとして表にでていますが、実際は撮影や動画編集など、色んな企画のサポートをしています。村上さんや木村さんが企画されたミュージックビデオの撮影や編集などもやっています。

村上: 平田さんの活躍は準備段階から本当に多岐に渡りますね。2022年度の特別公開では、カメラ担当として現地からの中継にも挑戦してくれました!

そらむすび
現地開催が再開した2022年度の特別公開は、オンライン配信とのハイブリッド開催となった。オンライン配信では、生放送企画「そらむすび」で現地の様子を3時間に渡ってライブ配信。遠方にお住まいの方やご来場いただけなかった方に現地の雰囲気をお伝えする内容となった。

特別公開に取り組むモチベーションは?

西山インタビューの様子

西山: 私は純粋にとても楽しいです。特別公開はみんなで作り上げる文化祭だと思っていて、宇宙研のプロジェクトや研究をご紹介するチャンスです。自分達も楽しみつつ、宇宙って面白いんだなと楽しんでくださる方が増えれば嬉しいですね。以前、「宇宙は縁遠い世界だ」と思っている方へ、プロジェクトについて説明をしたことがあるのですが、「聞いてみると面白い!」と反応をいただいたことがあります。そういった最初のきっかけを作ることは重要だと思っているので、その意味でも特別公開やオンラインでの発信を続けていきたいですね!

木村: 実行委員の活動は、研究者同士の繋がりができたり、プロジェクトについて学んだり、得るものもたくさんありますよね。あとは、モチベーションというと、「JAXA」「宇宙」というコンテンツには既にファンの方が多いので、期待に応えたいというのもありますね。YouTubeの配信では、配信しているそばから、すぐにコメントをいただけて、反応がわかるので、とても嬉しいですね!頑張ろうと思えます。

西山: コメント嬉しいですよね!

村上: いつも参加してくださるファンの方のハンドルネームは覚えてますね。

西山: 宇宙が好きな方や応援してくださる方の存在は、我々研究者にとって一番の励みになりますね!

オンラインによる特別公開実施にあたって、実行委員のチャレンジと貢献が評価され、ISAS所内で「2022年度宇宙科学研究所 所長賞」を受賞されたと伺いました。

村上: 実行委員での活動はある種同好会活動なので、これまでの活動を見て評価をしていただけたというのは、メンバーも自分も嬉しいですし、今後もやってやろう!と思えましたね。

西山: 表に出ない活動に対しても評価していただけたので、率直に嬉しいですね。

木村インタビューの様子

木村: 基本的に僕たちは研究者なので、評価を受けるのは研究業績やプロジェクトへの貢献です。ですが、研究は応援されてこそ続けられると思うので、応援してもらえるように情報を発信していく活動も大事だと思います。この活動が「所長賞」という、目に見える形で評価を受けたのは嬉しいですね。研究の意義や価値を伝えるのはもちろん、まず知ってもらう。ニュースで取り上げられる時だけ注目されるのではなくて、準備段階の苦労から知ってもらう事が大事だと思うので、これからも発信を続けていきたいですね!

実行委員の活動は特別公開だけでなく、様々なオンラインイベントの企画・運営へと活動が広がっていると伺いました。これからの情報発信で、伝えたいことはありますか?

村上: 僕ら研究者は、自分達自身が「楽しい!凄い!」と思って研究をしてるので、発信をすることで、宇宙ファンの方だけでなく、これまで宇宙に興味がなかった方にも興味を持ってもらえたら嬉しいです。そのためには、今まで以上に分かりやすく、伝わりやすい発信をしていきたいですし、一方で、宇宙開発、JAXAで研究をする研究者の人となりも発信していきたいと思っています。親しみを持っていただくことが、「応援」という形に繋がると思っています。我々と仲間になって欲しいです。まだ見せられていない研究も、研究者もたくさんいます。まだまだ発信していきたいですね!

木村: まさに同じことを言おうとしてました(笑)少し具体的な話をすれば、これまで若手有志が中心となってイベントの運営や情報発信をしてきましたが、ベテランの研究者の方々も巻き込んでいきたいですね。ISASにはまだまだたくさんの研究があるので、もっと発信していきたいですし、JAXAには筑波や調布など多くの事業所がありますので、全体で盛り上がっていきたいですね!

平田さんは大学院生でありながら、様々なオンライン配信の運営に参加されていますね。

平田インタビューの様子

平田: はい。企画に携わることで、色んな研究者や関係者の方と知り合える機会になっています。また、村上さんや他の研究者の方から「研究者は発信力が大切だ!」と聞いています。発信力を学び、身に付けられる貴重な機会をいただいているので、成長していきたいと思っています。

村上: 情報の発信は、研究の発表でもオンライン配信でも、聞く相手が違うだけで根は同じ、研究者にとって必要なスキルだと僕は思っています。相手にどう伝えたら伝わるか、伝わりやすいか、トライ&エラーを重ねる経験は貴重です。若手研究者や学生さんと、まずは一緒に取り組むことで、伝えていけたらいいなと思っています。

平田: 学生コミュニティの中には、特別公開やアウトリーチ活動に興味をもっている学生が他にもいます。これまでの発信方法だけでなく、学生の目線からできる新しい発信にも挑戦していきたいです。

今後の特別公開の開催スタイルに、何か構想はありますか?

村上: 現地開催とオンライン配信のハイブリッド開催が一つの形かなと思っています。遠方に住んでいる方の参加や、映像を記録として残せるオンライン配信はこれからも継続していきたいと思っています。一方で、現地開催についても、見ている方に楽しみながら宇宙科学を知っていただける新しい企画にも挑戦していきたいと思っています。

木村: プラットフォームも大切ですね!

村上: 「YouTube」、「TikTok」など、ソーシャルメディアのプラットフォームはどんどん進化しています。仮想現実(VR)などの新しい技術も広がっている中で、見ている方の楽しみ方の変化に合わせながら模索していきたいですね。どんどん新しいことやっていきます!既に動き始めている企画もありますので、今後もぜひ楽しみにしていてください!

相模原キャンパス ロケット前での終業写真

  • *1 惑星保護 : 宇宙探査を行う際に、探査対象の天体に地球から微生物を持ち込まないこと、また探査対象の天体から地球へ持ち運ばないこと。天体と地球の両方を、生命や生命由来物質による汚染から守る活動。

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