あいさす × CROSS
ISAS × MUSIC 研究者が本気で音楽をやってみた
~JAXA相模原キャンパス特別公開 若手実行委員インタビュー:村上豪氏、久保勇貴氏、深井稜汰氏~
2023年1月26日 | あいさすpeople
2022年10月21日に開催された「JAXA相模原キャンパス・オンライン特別公開2022」にてミュージックビデオ「ISAS Rhyme feat. MC Freddy - 楽しいことばっかやってこうぜー!」が公開されました。
「研究者が本気でラップを作ってみた!」と紹介されるこのミュージックビデオ(MV)は企画・製作から作詞・作曲・出演・演奏・撮影・編集まで全てJAXA宇宙科学研究所(ISAS)の若手研究者が行った完全オリジナル。
宇宙探査のプロジェクト名がたくさん入った歌詞や、ラップを歌うISAS研究者たちの姿は、研究者の意外な一面を見せただけでなく、音楽的にも高く評価され研究所内外で話題になりました。
このMVの制作活動は、2020年度からBUMP OF CHICKENの『天体観測』MVのパロディ、RADWIMPSの『前前前世』を『探探探査』と替え歌したMVのパロディ、そして今回の「完全オリジナルラップのMV」と、進化してきました。
本記事では、この企画の中心人物である村上豪氏、久保勇貴氏、深井稜汰氏に、なぜ「音楽」という世界に宇宙科学の研究者が「本気」で挑んだのか、音楽と研究の間にどんな関係があるのか、お話を伺いました。新しい情報発信の形に挑む研究者の姿をご紹介します。
村上 豪(宇宙科学研究所太陽系科学研究系 助教)
国際水星探査計画BepiColomboの水星磁気圏探査機「みお」の科学チームリーダー。「JAXA公式YouTuber」として、ISASで開催されている多くのオンラインイベントの企画・運営を担当。
久保 勇貴(宇宙科学研究所宇宙飛翔工学研究系 宇宙航空プロジェクト研究員)
宇宙機の軌道・姿勢制御と宇宙ロボティクス、宇宙機システム工学を専門とし、様々な宇宙開発プロジェクトに携わる。本記事が掲載される「あいさすGATE」の運営にもインタビューチーム長として携わり、宇宙科学研究所における研究成果や研究者の魅力を発信している。
深井 稜汰(宇宙科学研究所太陽系科学研究系 特任助教)
地球外物質研究グループ(キュレーション)にも所属。隕石の化学研究の経験をもとに、はやぶさ2・MMXなど様々なサンプルリターンプロジェクトに携わる。持ち前の音楽センスを発揮し、特別公開で発表された動画のBGM制作やMVの作曲・作詞を担当。
ミュージックビデオの企画・制作が始まった経緯を教えてください。
久保: この企画を始めたのは、奇しくも新型コロナウィルス感染拡大の影響で2020年度の「JAXA相模原キャンパス特別公開」がオンライン開催になったことがきっかけでした。対面で開催してきた特別公開がオンライン開催となり、その運営を我々ISASの若手研究者や学生が実行委員として担当することになりました。「せっかくなら何か面白いことやりたいよね」という所から、村上さんを中心に始めた企画の1つになります。
村上: 特別公開全体としては、最新のプロジェクトなどの研究情報を番組にして終日かけてオンライン上で配信していくのですが、対面で感じてもらえていた空気感をオンラインでも作りたいと思い、番組の休憩時間を使ってMVを公開しようと企画しました。
なぜミュージックビデオのパロディをしようと思われたのでしょうか。
村上: 実はこの企画自体は、けっこう前から温めていた企画で。2012年にアメリカ航空宇宙局NASAがYouTubeでMVのパロディ動画を出して、けっこう話題になっていたんですね。
久保: 「NASA Johnson Style」(YouTube)ですね!
村上: 僕もう非常に好きで。これやりたいけどJAXAじゃできないよな、と思っていたところに、今度はヨーロッパの欧州宇宙機関ESAがQueenの「Bohemian Rhapsody」(YouTube)のパロディ動画を出したんですね。これはいよいよ次はJAXAでしょう!と思っていたところに2020年度の特別公開がオンライン開催になって、「来た!チャンス来た!」と。「こんなことやらない?やりたいよね?」と仲間を募ったところ、幸い音楽できる人もいて、企画が進みました。
深井: 全体運営をしている中で、この企画も始めて。準備の比重もおかしくなりましたよね(笑)
多忙な研究の中、どのような雰囲気で制作をされているのでしょうか。
久保: MVだけ見るとちゃんと研究しているのか不安に思われるかもしれませんが、ちゃんと仕事をした上で、ワイワイ活動しています!みんなパワフルです(笑)
村上: 大人の、研究者の本気の文化祭ってこんな感じだよね、という雰囲気ですね。
久保: 「ここまでこだわるのかーい!」みたいな研究者の気質も出ていますね(笑)
村上: 妥協のしようもいっぱいあるのにね。
久保: 「俺はこれをやる!」って突き詰めていく、そういう気質はこの企画に出ている、出ちゃってる気がしますね。
深井: 今回僕らが中心でやった「ISAS Rhyme」でも曲を作ったりアレンジをする中でも、次にやりたいことはどんどん生まれていきましたね。
久保: 深井さんが作詞した歌詞に「高速フライバイ DESTINY⁺ ダストに近づくその隙に Ionエンジンでフェートンへ 「運命」の軌道 like a ベートーベン」このフレーズがあるんですが、これも深井さんの「これをやる!」っていうこだわりが見えていましたね。
深井: 深宇宙探査技術実証機「DESTINY⁺」を入れた歌詞を作ろうとして、まず語感だけじゃなくて意味を入れて当てはめて。DESTINYは「運命」、運命ってかっこいいから、運命って言葉入れたいな、運命っていったらベートーベンだ!って思っていたら、一周して、フェートンだ!(DESTINY⁺が探査を計画している小惑星)って。キターーーー!!みたいな(笑)
久保: 真似できない!しびれましたね!
村上: こうやってそれぞれがやりたいことをやっている活動なので、各々が出来る限りの最大限を出して、その結果「本気」が伝わるいいものが出来上がっていきましたね。素晴らしかったなと思っています。
その原動力となる想いを教えてください。
久保: 宇宙にあまり興味がない方にも「なんか面白そう!」とか「JAXAで働きたい!」と思ってもらいたい、と常に考えています。宇宙が好きな方には僕らの研究やミッションの面白さは伝わっても、それ以外の人には立派な研究者が頑張っている「遠い世界」で終わってしまうことが多くて。だったら興味を持ってもらえるように「もっと入口を面白くしてやろう!」と思っていて。宇宙研をネタにしたオリジナルラップの「ISAS Rhyme」も、宇宙に興味がなくてもラップとか音楽を入口にして入ってきてくれて、「こんなプロジェクトあるんだ!」と知る機会になって、そこから検索してウェブサイトに飛んでもらえたら…と。
村上: 狙い通り、検索してくれる人もいましたね(笑)
久保: そうですね!本当にSNSの反応が嬉しくて。「歌詞にでてくるプロジェクト名、これどういう意味なんだろう?って思わず調べて、あ!JAXAの策略にはまってしまった!」みたいな声があって。それは「よし!作戦成功!」っていう感じでしたね(笑)
村上: オンライン特別公開がきっかけとなってMVの企画が始まりましたが、対面開催で作れていた「宇宙科学とその研究者を身近に感じてもらえる機会」をオンラインでも表現できているのかなと思うと、皆様の受け止め方には非常に感謝していますね。
日頃取り組まれている研究や研究の発信とは、一見つながりがないようにも思える音楽ですが。
村上: 僕はこういう情報発信はすべて、学会での研究発表だったり、研究を広めていく活動に繋がっていると思っています。音楽での発信とかは単に面白いことやっている「兄ちゃん」と見えるかもしれないですが、実は本業である研究に活きると思ってやっていて、発信する経験、場数を踏める場、成長に繋げられる場であって、発信するツールが何であれ、相手が誰であれ、相手がわかるように自分がやっていることをちゃんと伝えるのは研究者として大事な能力だと思っています。
深井: 僕もあらゆることはコミュニケーションで、すべて延長線上だと思っています。論文を書くこともコミュニケーションだと思っていて、届く範囲は狭いかもしれないけど、読み手に伝える一番の手段であり常にいつでも誰もが見られるようになっていて、じっくり考えられる要素があるんですね。だから、研究も音楽活動もあまり切り分けて考えずにやっていますね。
音楽活動や特別公開の運営で得たノウハウがプロジェクトにも活かされていると伺いました。
村上: 大いにここで培ったノウハウを投入しています!僕が担当している水星磁気圏探査機「みお」のプロジェクトでは、惑星スイングバイ*の瞬間を一般のみなさんとも共有したいと思い、運用室でのオペレーションの中継をYouTubeで生配信しました。結果としては視聴者の数も多く好評で、ライブ感を楽しんでもらえたと思います。
久保: 僕も実際にこのオペレーションを見ていて、探査機の状態をモニタする太陽電池パネルの温度とかもリアルタイムで見られて、すごくワクワクしましたね。こういう発信はどんどんやっていきたいですね!
深井: 当たり前になってくるかもしれないですね。
村上: こういう瞬間を出来るだけ、可能な範囲で他のプロジェクトでも発信していきたいと思っています。僕は修士の頃に月周回衛星「かぐや」の運用に参加して、打上げ後に最初のデータが降りてくるのを目の当たりにした瞬間、「おぉ!この間まで地球にいたあの子が月からこのデータ送ってきてるのか!」と感動して、そこからもうこの分野辞められなくなっちゃったんですね。だから、タイムラグなしで僕ら研究者と同じ気持ちや感動を少しでも共有できたら、もしかしたら「僕も、私も宇宙研究やりたい!」って思う人は増えるかもしれない。そこに繋がると思って、これからもやっていきたいですね。
このインタビュー記事が掲載される「あいさすGATE」でも新しい発信方法に挑戦していると伺いました。
久保: 今回、このインタビューは動画でも同時公開をしています。ISASで働く「研究者の魅力」をよりわかりやすくお伝えできるのではないかと思い、動画での発信を企画しました。これもやはり、音楽制作や特別公開の運営の経験があるから取り組めたことですね!
村上: 素晴らしい!どんどん企画していこう!
久保: ISASには面白い研究をしている研究者がたくさんいます。ニュースやプレスリリースではなかなかお伝えできていない研究・研究者の魅力を、この「あいさすGATE」から発信していきたいと思っています!
- *1 惑星スイングバイ:惑星の重力によって探査機の進む方向を変えたり加速・減速する航法。燃料を使わずに探査機を運航できるため、必要なエネルギー量を抑えることができる。水星磁気圏探査機「みお」を含むBepiColombo水星探査機は、合計9回の惑星スイングバイを行う。