~ ジオスペース探査衛星「あらせ」が巨大磁気嵐の磁場変動を担うイオンの観測に成功 ~

概要

地球周囲の宇宙空間の中で、特に地球起源の磁場の勢力範囲は「磁気圏」と呼ばれ、人工衛星等による宇宙利用の進展に伴って、宇宙天気の観点からも重要性が増している領域です。この磁気圏内において最大の擾乱現象が「磁気嵐」です。その磁場変動を担うリングカレント※1 の発達、特にリングカレントの電流を運ぶ高エネルギーイオンの起源とその組成やエネルギーなどの特性は、磁気嵐がどのように発達するかを理解するためのカギです。通常~大規模の磁気嵐ではこのイオンは太陽風※2 起源と地球起源のものの混合であることが知られていましたが、巨大磁気嵐時の観測の不足により、巨大磁気嵐時のイオンの起源がどのようになるのかは明らかではありませんでした。2024年5月に約20年ぶりの巨大磁気嵐が発生し、あらせ衛星は巨大磁気嵐のリングカレントイオンの詳細な直接観測に成功しました。太陽風が高密度であったことから太陽風イオンの流入によって太陽風起源イオンの寄与がある程度あることも予想されましたが、酸素イオンをはじめとする地球起源重イオンが圧倒的割合(>85%)で、太陽風起源イオンがリングカレントイオンに占める比率は極めてわずかでした。これは、巨大磁気嵐を駆動するエネルギー源は太陽風であっても、その磁場変動を発達させるリングカレントを担う物質の供給は、地球大気からの供給が圧倒的に重要であることを示しています。発生頻度は低いとはいえ、宇宙天気の観点からは巨大磁気嵐時の宇宙環境変動を把握、予測することは重要です。本観測結果は巨大磁気嵐発達の物理過程の解明につながる貴重な事例です。

図1

図1:磁気嵐時のリングカレントを観測するあらせ衛星のイメージ。(Credit: ERG Science Team)

背景

太陽フレアと呼ばれる太陽面の爆発などによって生じた、強い磁場を伴う高密度や高速度の太陽風の到来により、磁気圏の環境が激変し磁気嵐となることがあります(図1)。巨大な磁気嵐に伴って、日本の緯度でも観測可能な低緯度オーロラの発生、人工衛星の障害、測位信号の精度低下、通信障害などの宇宙天気現象が起き、過去には大規模な停電まで生じた事例もあります。このため、巨大磁気嵐の理解は日常生活への影響、人類の宇宙利用等の観点から磁気圏の宇宙天気研究の最重要課題です。

磁気嵐は中低緯度地域での磁場強度の減少量によってその大きさが評価され、その磁場変動の主要因となる電流は「リングカレント」と呼ばれ、地球の上空(地球半径6,378 kmの数倍)の領域に発達します。高エネルギーイオンが電流を運んでおり、磁気嵐の発達過程を理解するうえでそのイオンの起源を把握することが磁気嵐を理解するカギとなる課題です。高エネルギーイオンは太陽風起源の水素イオン、太陽風には含まれず地球大気を起源とする一価の酸素イオンなどの重イオン、地球起源の水素イオン等の混合であることが人工衛星の観測によって判ってきました。また、磁気嵐時に一価の酸素イオンのエネルギー密度が増加し、50%を超える最大の寄与成分になった例が数例あったということも報告されており、大きめの磁気嵐では酸素イオンの寄与が重要になり得ることが知られてきています。しかし、リングカレントのイオンが持つエネルギーが計測技術的に難しいエネルギー帯に対応し、地球周囲に存在する放射線帯の粒子の影響で観測時のノイズが増加して信号がノイズに埋もれやすいなどの問題もあり、イオンを質量(≒イオン種)ごとに区別して精度良く観測できた過去の衛星はわずかで観測期間が限定的でした。このため、発生自体が稀な大型の磁気嵐時のリングカレントイオンの観測が希少で、巨大磁気嵐中でリングカレントのイオン観測と同時に太陽風データが観測されていた例は皆無でした。特に、太陽風が高密度な状態で駆動されるタイプの巨大磁気嵐のリングカレントについて以下の2つの可能性が提案されており、観測による実証が待たれていました。

  • 地球起源イオンと同時に太陽風起源イオンも大きく寄与する(大きめの磁気嵐と同様の状況となる)
  • 地球起源イオンが圧倒的割合になり、太陽風起源イオンはほとんど寄与しない(大きめの磁気嵐より極端な状況となる)

観測と成果

あらせ衛星は、2016年12月20日に打ち上げられ、近地点高度約350 km、遠地点高度約32,000 km (地球半径の約5倍)、周期約9時間半の楕円軌道において、内部磁気圏の低緯度の電磁場とプラズマの総合観測を続けています。この楕円軌道は磁気嵐時のリングカレントイオンの集団を横断し、動径方向のイオンの分布を理解するのに適した軌道です。

太陽面で起きた多数の大型フレアから放出されたプラズマの影響が重なって地球に到達し、2024年5月10日から11日にかけて巨大磁気嵐が発達しました。中低緯度の地磁気変動の指数の一つで磁気赤道における磁場水平成分の変動を表す指数(SYM-H指数)が最小値−518 nTを記録し、SYM-H指数が使用されるようになった1981年以降で2番目の規模まで発達しました。近い規模の磁気嵐としては2004年11月の磁気嵐以来約20年ぶりでした。あらせ衛星は、磁気嵐の開始直後とピーク直後に夕方側のリングカレント領域を外側から内側へ横断し、衛星位置での電磁場やプラズマについて観測データの取得に成功しました。このような発生頻度の低い巨大磁気嵐イベントに遭遇し観測に成功したことは、あらせ衛星が観測開始より7年以上の長期間にわたって観測を継続してきたからこその成果です。あらせ衛星は、イオンの観測器として、低エネルギーイオン質量分析器(Low-Energy Particle Experiments - Ion Mass Analyzer, LEP-i)と中間エネルギーイオン質量分析器(Medium-Energy Particle Experiments - Ion Mass Analyzer, MEP-i)という2台を搭載し、特にMEP-iはリングカレントイオンのエネルギー帯のイオン観測に特化した新たなデザインの計測器で、イオンの組成やエネルギースペクトルについて質の高いデータの取得に成功しました。

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図2:夕方側でのリングカレントのイオン分布と磁場強度変動。(上から、磁気嵐開始直後の高エネルギーイオンのエネルギー密度分布、磁気嵐ピーク付近のエネルギー密度分布、磁気嵐ピーク付近のエネルギー密度分布のイオン種ごとの占める割合、観測された磁場強度と国際標準地球磁場(IGRF)モデルの磁場強度との比)
磁気嵐が最も発達した時刻付近で、地球半径の2.5から3倍(表面からの高度では1.5から2倍)をピークに特に一価の酸素イオン(O+)が激増し、圧倒的割合を占めた。地球に近い領域では二価の酸素イオン(O++)も増加し、水素イオン(H+)より寄与が大きくなる領域が見つかった。分子イオンも観測され、ヘリウムイオン(He+、He++)の寄与割合は微小であった。(© Kitamura et al., 2026 より改変)

今回、SYM-H指数が−250 nTを下回る大きな磁気嵐では初めてリングカレントイオンのその場での直接観測と磁気圏外の太陽風の観測の同時観測が成立しました。この同時観測により、太陽風が高密度でありイオンの磁気圏への流入が期待できる状態であったにもかかわらず、リングカレントでは地球起源イオン(特に重イオン)が圧倒的割合になっていたことが観測されました。このエネルギー密度の圧倒的割合を占める状態はあらせ衛星の軌道に沿って継続的に観測(図2)され続け、局所的や瞬間的な現象ではないことも示しています。リングカレント領域の広域で地球起源イオンがここまで圧倒的な割合になったのが観測されたのは初めてです。この観測結果は、巨大磁気嵐のリングカレントでは「地球起源イオンが圧倒的割合になり、太陽風起源イオンはほとんど寄与しない」というアイデアと整合する観測結果でした。そして、巨大磁気嵐では「太陽風から来るエネルギーが、最終的に地球大気から流出した(主に)重イオンを加速してリングカレントを形成する」という過程が磁気嵐の発達に圧倒的に重要な過程であることを示しています。

巨大磁気嵐時のリングカレントイオンの空間分布について、イオンのエネルギー密度が最も高くなる領域は、赤道面において地心距離が地球半径(RE)の2.5-3倍付近に位置(図2, 3)していることも明らかになりました。加えて、地球に近い領域(地心距離2 RE付近)では地球起源の二価の酸素イオンも増加し、水素イオンと同程度かそれ以上までエネルギー密度に寄与するという、今まで知られていなかった状況も観測されました。

また、強いリングカレントの影響で地心距離3 RE付近の領域において約40%もの大きな磁場減少(図2)を観測しました。この磁場強度の変化はイオンだけでなく放射線帯の高エネルギー電子の輸送にも影響を与え、磁気嵐発達時に地球に近い領域から放射線帯電子が磁気圏外に流出し、放射線帯電子が消失するのに寄与する可能性があります。実際に、あらせ衛星の超高エネルギー電子分析器(Extremely High-Energy Electron Experiment, XEP)によって磁場減少領域から外側の放射線帯電子の一時的な減少が観測されており、この地球近傍の磁場変動の影響の重要性について、今後の定量的な研究が期待されます。

図3

図3:磁気嵐ピーク時刻付近の夕方側でのリングカレントのイオン分布の模式図。(Credit: ERG Science Team)

今後の見通し

本観測成果に基づいて巨大磁気嵐の発達について物理的理解を深めることにより、いまだ衛星での直接観測が実現されておらず、現代の社会生活にも大きく影響する可能性が高い歴史的規模の超巨大磁気嵐でどのようなことが起こるのか、について予測を向上させることが期待されます。また、本研究成果では、重イオンによるリングカレントの発達が特に地球近傍の放射線帯の高エネルギー電子の消失に影響する可能性も示唆しており、磁気嵐時の放射線帯高エネルギー電子変動メカニズムの理解を通じても、宇宙利用の進展に貢献することができます。

本研究は、地球起源の重イオンが超高層大気から流出し、リングカレントに寄与するまでの加速過程が磁気嵐の発達の理解に極めて重要であることを提示しました。しかし、重イオンの流出メカニズムの詳細、流出位置、量、エネルギーをコントロールする要素(太陽風条件など)の観測的な理解が大きく遅れており、今後の課題となっています。現在、提案準備が行われている将来電磁気圏複数衛星探査計画FACTORS※3 では、まさにこの重イオンの流出の物理過程の解明が主要な科学目的の一つとなっており、次世代の探査によって、磁気嵐の物理プロセスのさらなる解明を日本が主導したいと考えています。

本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業20H01957(基盤研究B)および25H00684(基盤研究A)の支援を受けています。

用語解説

※1 リングカレント:
環電流とも呼ばれ、磁気嵐時に地球の上空(地球半径6,378 kmの数倍)に発達する電流のこと。西向き電流が卓越することで地表付近では南向きになる磁場を生じ、磁気嵐時の中低緯度の地磁気の減少に最も大きく寄与する。その電流の主要な担い手は高エネルギー(数10 キロ電子ボルト)のイオンで、太陽風起源のイオンと地球起源のイオンが混ざり合っている。電離圏とも呼ばれる地球の大気圏の上部領域ではイオンのエネルギーは0.1 電子ボルト程度なので、流出、輸送されながら約10万倍程度のエネルギーまで加速される必要がある。

※2 太陽風:
太陽からやってくる荷電粒子の流れ。主に水素イオンと電子から成り、二価(=電子を二つ失った)のヘリウムイオンや多価(=電子を多数失った)の重イオンも含まれる。磁気圏に侵入し磁気圏のイオンの源として重要視されている。特に、太陽風の密度が高い場合に磁気圏にも多くのイオンが侵入すると考えられている。

※3 将来電磁気圏複数衛星探査計画FACTORS:
現在、JAXA宇宙科学研究所で検討されている将来地球電磁気圏探査ミッション。2機の衛星による編隊飛行観測で地球磁場に沿った宇宙空間(磁気圏)から地球へのエネルギー流入(オーロラなど)と地球からの物質(大気)流出過程の解明を目指す。

論文情報

雑誌名: Science Advances

論文タイトル: Extreme dominance of Earth-origin heavy ions in the intense ring current near the Earth during the May 2024 super geomagnetic storm

著者:
北村 成寿 名古屋大学 宇宙地球環境研究所 特任助教
山本 和弘 名古屋大学 宇宙地球環境研究所 特任助教
横田 勝一郎 大阪大学大学院 理学研究科 准教授
笠原 慧 東京大学大学院 理学系研究科 准教授
松岡 彩子 京都大学 大学院理学研究科 教授
浅村 和史 宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 准教授
海老原 祐輔 京都大学 生存圏研究所 教授
Kistler Lynn M. 米国ニューハンプシャー大学 教授、名古屋大学 宇宙地球環境研究所(研究時、クロスアポイントメント)
桂華 邦裕 東京大学大学院 理学系研究科 助教
新堀 淳樹 名古屋大学 宇宙地球環境研究所 特任助教
堀 智昭 名古屋大学 宇宙地球環境研究所 特任准教授
三好 由純 名古屋大学 宇宙地球環境研究所 教授
家田 章正 名古屋大学 宇宙地球環境研究所 助教
Jun Chae-Woo 名古屋大学 宇宙地球環境研究所 特任助教
寺本 万里子 九州工業大学 大学院工学研究院 准教授
能勢 正仁 名古屋市立大学 大学院データサイエンス研究科 教授
平原 聖文 名古屋大学 宇宙地球環境研究所 教授
関 華奈子 東京大学 先端科学技術研究センター 教授、東京大学大学院 理学系研究科(兼任)
東尾 奈々 宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 主任
篠原 育 宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 教授

DOI: 10.1126/sciadv.aee1069