ポイント

  • 本研究では、X線分光撮像衛星(XRISM:クリズム)で観測した中性子星連星の鉄蛍光輝線※1, 2に対し、X線で世界初となるドップラートモグラフィーを適用し、この輝線の放射領域を特定しました。
  • ブラックホールや中性子星に代表されるコンパクト天体が普通の星とペアを組んでお互いに回り合う連星系をなす場合、ペアの星からコンパクト天体に対して物質が落ち込むことで、非常に明るいX線源になります。
  • この連星運動による輝線の波長変化(ドップラーシフト※3)を1周期分観測することで、医療のCTスキャンのように物質の速度分布を画像化することができ、この手法はドップラートモグラフィーと呼ばれます。
  • ドップラートモグラフィーは今まで観測機器の性能限界によりX線帯域での応用は長らく実現できませんでしたが、史上最高のX線分光性能を持つX線分光撮像衛星「XRISM」によりこれが可能となりました。
  • 本成果は、XRISMにより初めて可能になったX線帯域でのドップラートモグラフィーが、コンパクト天体周辺の物質の速度を明らかにする強力な手法となることを示しています。

詳細

宇宙には、非常に大きな質量がごく小さな領域に集中した高密度天体があり、こうした天体はコンパクト天体と呼ばれます。ブラックホールや中性子星がその代表例です。こうした天体は、2つの星が互いの重力で結びついて回り合う連星系をつくっていることがよくあります(図1)。このような連星系では、コンパクト天体の強い重力によって相手の星(伴星)から物質が引き寄せられ、コンパクト天体へと流れ込みます。その物質は中心天体のまわりに降着円盤を作り、落ち込む過程で失った重力エネルギーを放射として放出するため、系全体は明るいX線源として観測されます。しかし、その物質の流れは遠方にあるため、ふつうの望遠鏡で直接"写真"のように撮ることはできません。

図1

図1: コンパクト連星系のイメージ図。一方の星からコンパクト天体へ質量が流れ込み、コンパクト天体周りには円盤及び高温の物質が存在する。(出典:BinSim を用いて鮫島直人 作成)

一方で、連星系では天体だけでなくその周囲の物質も重力の影響を受けて軌道運動しているため、物質の運動に応じて光のエネルギーがわずかに変化(ドップラーシフト)します。この変化を連星軌道周期に渡って調べることで、どの方向に・どのくらいの速さで流れる物質からの放射が強いのか、すなわち物質の「速度分布」を明らかにできます。連星系の中を流れる物質をさまざまな方向から観測しているという点は、人体をさまざまな方向から調べて内部の断面像を作るCTスキャンと似ていますね。この手法はドップラートモグラフィーと呼ばれます(図2左)。ドップラートモグラフィーはこれまで主に可視光で確立されてきた手法で、X線では、エネルギーを細かく見分ける性能と十分な光の量を同時に得ることが難しく、長らく実現できませんでした。20年以上前の文献には、このように記されています ― Doppler tomography using X-ray Fe lines ... may become possible with the new X-ray satellites. (X線の鉄輝線を用いたドップラートモグラフィーは、新しいX線観測衛星によって可能になるかもしれない、 Halraftis et al. 2001)―。

そして今回、XRISMによってこの夢がついに実現しました。同衛星に搭載するX線分光器は、光速の約10万分の3の速度を識別できる精密装置で、X線でドップラートモグラフィーを適用することを可能にしました。ぼうえんきょう座にある4U 1822-371という名前の中性子星連星系をXRISMで観測した結果、連星軌道運動に伴い鉄蛍光輝線の中心エネルギーが周期的に変動していることが分かりました(図2右)。このデータからドップラートモグラフィーの手法を用いて物質の速度分布を "画像化" した結果、鉄の蛍光X線が対称な円盤や星の表面ではなく、伴星から流れ込んだ物質がコンパクト天体まわりの円盤と衝突し円盤上空に拡散した領域から放射されていることを明らかにしました(図3)。これは、X線でコンパクト天体周辺物質の流れを "画像化" し、その放射場所を直接突き止めた初めての成果です。可視光のドップラートモグラフィーが主に可視光を放つ比較的低温な物質の流れを明らかにしてきたのに対し、X線ドップラートモグラフィーはコンパクト天体近傍で強烈なX線を受け止めて光る物質を浮かび上がらせます。この手法は、コンパクト天体周辺の物質の流れを描き出し、物質が中心へ落ち込んでいく構造を明らかにする新たな手段となるでしょう。

図2

図2: (左)ドップラートモグラフィーの概念図。連星系が重心周りに公転するため、観測者はこの系を医療CTスキャンのように様々な角度から見て、運動速度に応じた光のエネルギーのずれ(ドップラーシフト)を測定できる。(右)XRISMで観測された連星軌道位相(Phase)ごとの鉄蛍光輝線のスペクトル。連星系を見る方向によって輝線の中心エネルギーが変動していることがわかる(ドップラーシフト)。(出典:Sameshima et al. (2026) をもとに鮫島直人作成)

図3

図3: X線初のドップラートモグラフィーによる鉄蛍光輝線の速度マップ。縦軸•横軸は速度であり、一般的な位置の地図ではなく速度の地図であることに注意。(出典:Sameshima et al. (2026) をもとに鮫島直人作成)

本研究は、広島大学との共同研究です。

用語解説

※1 輝線
原子やイオンが特定の波長で出す明るい光。天体周辺の物質の状態を調べる手がかりになる。

※2 鉄蛍光輝線
鉄原子の内側の電子がX線などで弾き飛ばされたあと、外側の電子が内側の空席を埋めるときに出るX線の輝線。中性子星やブラックホール周辺の物質を調べるのに使われる。

※3 ドップラーシフト
光を出す天体や輝線を出す物質が観測者に近づいたり遠ざかったりすると、観測される波長(エネルギー)がずれる現象。救急車のサイレンの音が、近づくと高く、遠ざかると低く聞こえるのと似た原理。

論文情報

タイトル: 低質量X線連星4U1822-371におけるFe Kα輝線のX線ドップラートモグラフィ
原題: X-ray Doppler tomography of Fe Kα emission in a low-mass X-ray binary 4U 1822−371―A localized reflector at the accretion stream-disk overflow
掲載誌: Publications of the Astronomical Society of Japan, psag033,
DOI: 10.1093/pasj/psag033