1. ポイント

  • X線分光撮像衛星「XRISM(クリズム)」はX線でもっとも明るい銀河団であるペルセウス座銀河団における高温ガスの運動を精密に測定しました。
  • 銀河団中心部では超巨大ブラックホールが、その外側では暗黒物質に支配された銀河団の成長が、それぞれ異なる「嵐」を引き起こしていることを、世界ではじめて観測的に切り分けることに成功しました。
  • ブラックホールが引き起こす小さい嵐は周囲のガスをかき混ぜ、加熱することで、星形成を抑制するなど、銀河の進化に重要な役割を担っている可能性を示しています。

2. 詳細

宇宙は、二つの相反する力のせめぎ合いによって形作られてきました。ひとつは主に暗黒物質が担う重力で、銀河やガスを引き寄せる力です。もうひとつは、銀河同士を引き離そうとするダークエネルギーです。ダークエネルギーの影響によって宇宙全体は膨張を続けていますが、重力が勝利した領域では物質が集まり銀河や銀河団といった巨大な構造が形成されます。その到達点が、宇宙最大の天体である銀河団です。銀河団では、数百もの銀河が数百万光年におよぶ広大な空間に集まり、現在も暗黒物質の重力により物質を取り込みながら成長を続けています。集められたガスは加熱された結果、数千万度、太陽の表面温度の5000倍以上にも達します。太陽が可視光線で輝くのに対し、この超高温ガス(銀河団ガス)は強いX線を放射します。さらに、多くの銀河団の中心には巨大な銀河が存在し、その中心には太陽に数百万倍から数十億倍の質量をもつ超巨大ブラックホールが潜んでいます。宇宙最大の天体の中心部でいったい何が起こっているのでしょうか。 

ペルセウス座銀河団は空で最もX線で明るい銀河団です。天文学者は、銀河団ガスは静止しているのではなく、銀河団の成長やブラックホールの活動にともなって、嵐のような複雑な運動していると予想していきました。しかし、このガスの運動を直接測定ことは困難でした。高温ガスに含まれる元素は、それぞれ固有の色(スペクトルの指紋)を持っています。この色はガスが我々に近づく時にはわずかに青くなり、遠ざかる時には赤くなります。XRISMは、このわずかな変化を高精度で測定することで、ガスの速度を直接測ることができます。

この挑戦は、X線天文衛星(ASTRO-H)から始まりました。ASTRO-Hはペルセウス座銀河団中心部およそ20万光年の領域で、ガスの嵐の兆候を初めてとらえました。その後継であるXRISMは観測範囲を80万年光年にまで広げ、ガスの速度の地図を描き出しました。銀河団中心の超巨大ブラックホール周辺では、視線方向の速度の幅が秒速200 km (ガスの音速の35%)、その外側では秒速 80 kmまで低下、さらに外側では再び秒速 200 kmに上昇するという特徴的なV字型のパターンが明らかになりました。

図1

図1 : Chandra衛星によるX線画像とXRISMによる観測領域、観測からわかったガスの動き。(Credit: JAXA)

この結果を理解するため、身近な気象現象にたとえてみましょう。
台風は広い範囲にわたって大気を動かしますが、竜巻は狭い領域に短時間で甚大な被害をもたらします。一般に大きなスケールの流れは、より小さな無秩序な運動である乱流を生み出します。飛行機が揺れるのも、大規模な大気の流れが、小さな渦や不規則な気流を生み出しているからです。

図2

図2 : 乱流の例 (Credit: JAXA)

V字パターンの外側で見られる大きなガスの運動は、暗黒物質の重力に導かれて銀河団が100億年かけて成長してきたことによる「台風」のような嵐です。銀河団が今も、周囲の物質を取り込んでいる証拠ともいえます。

一方、銀河団の中心ではより小さく激しい「竜巻」のような嵐が発生しています。その原動力として最も有力なのが中心に潜んでいる超巨大ブラックホールです。ペルセウス座銀河団のブラックホールは天の川銀河の中心の超巨大ブラックホールの200倍もの質量を持ちます。ブラックホールはしばしば「すべてを吸い込む存在」として描かれますが、実際にはそれだけではありません。周囲から引き寄せたガスの一部を強いジェットや風として放出し、周囲の銀河団ガスにエネルギーを絶えず注ぎ込んでいるのです。XRISMは、こうしたブラックホールの活動が、銀河団中心部のガスをかき混ぜ、小さな嵐を生み出している様子を始めて直接とらえられました。

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図3 : XRISMに搭載された軟X線分光装置Resolveによる、ペルセウス座銀河団中心部のスペクトル。(Credit: JAXA)

このようなブラックホールからのエネルギー供給は、宇宙における星形成の歴史を理解する重要な手がかりとなります。星の多くは約100億年前の「宇宙の正午」と呼ばれる時代に誕生しましたが、その後、新しい星の誕生は次第に少なくなってきました。星が生まれるためには、冷たいガスが必要ですが、超巨大ブラックホールによりガスが加熱されると星は生まれにくくなります。このように超巨大ブラックホールは銀河の進化そのものにも影響を及ぼしている可能性があります。

XRISMは、銀河団ガスの運動の地図を描き出すことにより、暗黒物質や超巨大ブラックホールといった見えない存在が、宇宙の天体の進化にどのような役割を果たしているのかを解き明かす、新たな扉を開きました。

論文情報

タイトル: ブラックホールと暗黒物質が引き起こす宇宙の嵐
原題: Disentangling Multiple Gas Kinematic Drivers in the Perseus Galaxy Cluster
掲載誌: Nature
DOI: 10.1038/s41586-025-10017-x