概要

星の内部で作られた重元素は、超新星爆発によって宇宙空間へと供給されます。その痕跡は「超新星残骸」と呼ばれ、爆発から1万年以上にわたって主にX線で輝きます。X線分光撮像衛星(XRISM :クリズム)は、特異な超新星残骸として知られるW49Bを観測し、超新星爆発によって放出された様々な重元素の特性X線を検出ました。さらに、XRISMが搭載する軟X線分光装置(Resolve:リゾルブ)の優れた分光性能により、鉄などの重元素が運動する様子を捉え、それらが双極状に広がっていることを明らかにしました(図1)。今回の結果は、W49Bがこれまでに例のない、新種の超新星爆発の残骸である可能性を示唆します。今後、星の進化や超新星爆発の理論に見直しを迫ることも期待されます。

図1

図1:「W49B」の想像図/XRISM (X線)、パロマー天文台(米国・サンディエゴ/赤外線)、超大型電波干渉計群(米国・ニューメキシコ州/電波)での観測結果を参考にして作成 (クレジット:JAXA)

私たちの体を構成する炭素や酸素、カルシウム、鉄などの重元素は、宇宙に初めから存在していたわけではありません。これらの元素は主に、恒星の内部などでの核融合反応によって生成され、超新星爆発によって宇宙空間へとまき散らされます。また、超新星爆発によって生じる強力な衝撃波は周囲のガスを圧縮し、次の世代の星の誕生を促します。こうしたプロセスが宇宙の誕生以来138億年にわたって繰り返されたことで、現在のような元素に富んだ宇宙が形づくられたのです。つまり、超新星爆発は宇宙の化学進化を司り、生命の誕生を導いた重要な天体現象です。

超新星爆発の痕跡は、爆発から1万年以上にわたって主にX線で観測されます。これが「超新星残骸」と呼ばれる天体です。超新星残骸の観測を通して、爆発によって放出された重元素の種類や、それらが宇宙空間へと拡散する様子を詳しく調べることができます。なかでも、XRISMに搭載されたResolveは、重元素が放つX線のわずかな波長の変化(ドップラーシフト)をとらえることで、その拡散速度を極めて高い精度で測定します。それによって、元の超新星爆発がどのようにして起こったのかに迫ることができます。

XRISMは、2024年4月下旬から5月上旬にかけて、初期性能検証観測(PV観測)の一つとして、わし座の方向、地球から約3万光年の距離にあるW49Bという超新星残骸を観測しました。W49Bの元の星が爆発したのは、今から約5,000年前であると推定されています。W49Bは、丸い形をした一般的な超新星残骸とは大きく異なり、鉄などの重元素が中心部に棒状に集まる独特の形状を示します。この形状は、超新星爆発に由来するのでしょうか。それとも、爆発後、宇宙空間に広がっていく過程で形づくられたのでしょうか。その謎は、長らく未解明のままでした。

今回のXRISMの観測は、W49Bに含まれる重元素の運動を捉えることで天体の3次元構造を明らかにし、その奇妙な形状の本質を突き止めました。図2に、Resolveで取得したW49Bのスペクトルを示します。ケイ素(Si)、硫黄(S)、アルゴン(Ar)、カルシウム(Ca)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)の輝線が見事に分離されています。これにより、超新星爆発によって供給された重元素の種類と量や、それらの運動速度を極めて正確に測定できるようになりました。詳細な解析の結果、鉄が発する特性X線のエネルギーに±300 km/sの速度に相当するドップラーシフトが確認され、重元素が東側では地球方向に、西側では反対方向に向かって動いていることが明らかになりました(図3)。この結果は、超新星爆発によって中心から東西に向けて双極状に物質が吹き出したことを示します(図4)。従来は、円盤状の構造を横から観測している可能性も提唱されていましたが、今回の観測結果はそのモデルを棄却しました(図5)。

XRISMが発見した双極状の構造は、例えばガンマ線バーストのような、ジェットの放出を伴う激しい爆発によって作られたのかもしれません。一方で、W49Bの重元素組成は、ガンマ線バーストの元素合成理論から予想されるものとは大きく異なることも指摘されています。つまりW49Bは、これまでに観測例がない、新種の超新星爆発の残骸である可能性があり、星の進化や超新星爆発の理論に見直しを迫ることも期待されます。

本研究は、XRISM/Resolveの高精度なX線分光技術が、宇宙の爆発現象や元素生成の仕組みを解き明かす強力なツールであることを示す大きな一歩となりました。現在、XRISM コラボレーションチームは、W49Bの重元素組成やプラズマの状態を詳しく調べるため、さらなるデータ解析に取り組んでいます。また、本天体に限らず、様々な超新星残骸の観測を通して、宇宙の化学進化を司る星の進化や超新星爆発の理解がさらに深まることが期待されます。

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図2:XRISMに搭載されたResolveが取得した超新星残骸W49Bのスペクトル (クレジット:JAXA)

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図3:超新星残骸W49Bの視線方向の高温ガスの動き (クレジット:JAXA, X-ray: NASA/CXC/MIT/L.Lopez et al.; Infrared: Palomar; Radio: NSF/NRAO/VLA)

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図4:スペクトルのシフトと高温ガスの動き、推測される高温ガスの3次元構造を示した図。(クレジット:JAXA)

図5

図5:これまで考えられていた構造(左)と今回の観測で示唆される構造(右)。左に示した円盤状の構造は本研究によって棄却された。(クレジット:JAXA)

論文情報

雑誌名: The Astrophysical Journal Letters
タイトル: Kinematic Evidence for Bipolar Ejecta Flows in the Galactic Supernova Remnant W49B
著者: XRISM Collaboration
DOI: 10.3847/2041-8213/ade138