XRISMで迫る恒星巨大フレアの現場―超精密分光によるプラズマ診断―
2026年3月6日 | 論文へのGATEWAY
活動的な恒星(例えばRS CVn型連星*1)は、太陽よりも桁違いに大きなフレア*2現象を起こすことが知られており、巨大フレアの発生メカニズムや周辺環境への影響を調べる上で重要な対象になります。本研究では、2つのRS CVn型連星の観測を通して、X線分光撮像衛星XRISM*3によって初めて恒星フレアを捉えることに成功しました。XRISMは、2023年9月に打ち上げられた日本主導の欧米との国際ミッションです。搭載されたX線分光器Resolveは、鉄などのK殻遷移輝線*4を史上最高クラスの分光能力で分離し、特に高い温度のプラズマ*5成分を詳細に調査することができます。私たちのグループでは、太陽観測衛星「ひのとり」*6をはじめとする過去の太陽観測で培われた鉄のK殻輝線解析手法を引き継いで拡張し、恒星巨大フレアの現場におけるプラズマの温度、電離状態、加速電子、元素組成などを診断しました。今後の展望として、より規模の大きい、多くのX線光子を含むフレアに対してもXRISMで観測を行うことで、恒星巨大フレアの時間発展を詳細に追うことが可能になると期待されます。
研究概要
太陽のような恒星の最外層には、コロナと呼ばれる高温のプラズマが存在します。活動的な恒星のコロナは数千万度に達し、X線を発するプラズマとして観測されます。巨大フレアはこのコロナで発生する爆発現象です。太陽では稀あるいは未だ例のないような巨大フレア現象を調べる上で、恒星観測は代替不可能な役割を果たします。巨大フレアは規模が大きいほど発生頻度が低いためです。太陽フレアが私たちの文明に与える影響は近年急速に注目が高まっており、恒星巨大フレア研究の動機づけの1つとなっています。一方で、恒星フレア観測には難点もあります。距離が離れているため太陽観測で一般的な「撮像」という手法がとれません。ゆえに「分光」観測によるアプローチが王道です。
XRISM衛星(図1)は、恒星巨大フレアの高温プラズマを調べる上で最適な分光器を搭載しています。XRISMに搭載されたResolveは鉄のK殻遷移輝線領域において史上最高クラスの分光能力を誇ります。この鉄K殻遷移輝線が調査可能なプラズマの温度帯は約1000万度から1億度であり、まさに恒星巨大フレアの高温プラズマ成分に対応します。実は、鉄K殻遷移輝線領域の一部は、日本の「ひのとり」衛星をはじめとする過去の太陽観測ミッションによって高スペクトル分解能観測が行われていました。XRISMの観測により約50年越しに、遠くの恒星で発生する巨大フレアに対して手法の適用と拡張が可能となったわけです。性能実証フェーズにおける「はえ座GT星」、「おうし座V711星」(ともにRS CVn型星)の観測に対してこれを実施し、それぞれ論文にまとめました。論文内に示されている静穏時と超巨大フレア発生時にえられた分光スペクトルは、見た目はその違いがわかりづらいのですが、適切にモデリングをすることで微細構造線の強度が変化していることが示せます。XRISMで初めて分離された輝線も含まれていて、恒星巨大フレアの現場におけるプラズマの電子温度、鉄イオン温度、非平衡現象(衝突電離平衡*7からの逸脱、加速電子の可能性)、元素組成などを複数の輝線強度から診断することに成功しました。得られた結果は、フレアの起こっていない静穏期における平衡仮定の妥当性、フレア期間における高温プラズマ成分の増加、そして太陽観測から提唱されたフレアの「標準シナリオ」*8に無矛盾な元素組成変化など、先行研究の知見と整合的でした。これにより、恒星コロナに対する、XRISM時代の超精密分光によるプラズマ診断が適切に実証されたといえます。
今回の観測ではフレア全期間が捉えられていたものの、X線光子量の制限からフレア期間中の時間進化を追うことはできませんでした。非平衡現象の顕在化はフレア初期段階に期待され、また温度構造や元素組成の時間変化は理論モデルとの詳細比較を可能にします。今後、より明るい巨大フレアをXRISMで観測することができれば、ブレイクスルーに繋がることが期待されます。
用語解説
- *1 RS CVn型連星:連星とは2つの星が互いに重力的に束縛している系を指す。RS CVn型星は、りょうけん座RS星に代表されるフレア星で、公転周期が比較的短い、分離型の近接連星系。
- *2 (恒星の)フレア:恒星の外層大気で磁場に蓄積されたエネルギーが突発的に解放される爆発現象。
- *3 X線分光撮像衛星XRISM(X-Ray Imaging and Spectroscopy Mission):日本が主導する国際ミッションで、2023年9月に種子島宇宙センターより打ち上げられた。広い視野を持つXtend装置と分光能力に非常に優れたResolve装置を搭載している。
- *4 K殻遷移輝線:原子の最内殻(K殻)に電子が遷移する際に放出されるX線。
- *5 プラズマ:電荷を持った粒子(イオン、電子等)の集合体。
- *6 太陽観測衛星「ひのとり」:ASTRO-A。日本の太陽観測衛星で、1981年2月から1991年7月まで運用された。太陽軟X線輝線スペクトル観測器SOXを搭載し、一部の鉄イオンからのK殻輝線に対して高スペクトル分解能で太陽フレア観測を行った。
- *7 衝突電離平衡:恒星外層大気での原子の電離状態を変化させる主な素過程として、束縛電子を持つイオンや原子が運動する電子と衝突、束縛電子が引きはがされて価数が減る「(衝突)電離」と、イオンや原子が周辺の電子を捕まえることで価数が増える「再結合」がある。衝突電離平衡とは単位時間当たりにこの電離と再結合が生じる割合が釣り合っている状態を指す。
- *8 (フレアの)標準シナリオ:コロナ中で磁力線のつなぎ替え(磁気リコネクション)によってエネルギーを解放し、加熱されたプラズマが下層からループ構造に供給されて軟X線で発光しているというシナリオ。
論文情報
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| ISAS or JAXA所属者 |
栗原 明稀(宇宙科学研究所 宇宙物理学研究系)、辻本 匡弘(宇宙科学研究所宇宙物理学研究系)、前田 良知(宇宙科学研究所宇宙物理学研究系) |
栗原 明稀・東京大学 大学院理学系研究科 天文学専攻/